第6話:政争で歌舞伎を(中)
そして、光陰矢のごとしのことわざ通り、山本少年の最後の児童期はあっという間に過ぎていき、明治39年4月。
……京都大学は自由な校風であるということは知っているが、やはり緊張するなあ……。何せ周りは全員大人なわけだし、なんというか……ああ、いかんいかん。気後れするな。希望したのは俺なんだから。
「ん? なんだあの子供は」
「学生の身内だろうが、なんというか……」
「どうせ、弁当でも届けに来ただけだろう。案内してやるか」
……よし、覚悟完了。「おーい、君」「ひゃ、はいっ!?」
「今からここは入学式が行われるんだ、用事ならさっさと済ませちまいな?」
あ、よかった。場所はあってたか。
「ああ、やはりここが三高の入学式場ですか、有難う御座います。それでは」
「いや、だからな?」
ん?なんか妙だな。部外者と思われてるのか?……まあ、無理も無い、か。とりあえず挨拶しよう。
「……ああ、申し遅れました。私は本日より三高に入学致します山本孝三と申します」
「……は?」
「ほー、君があの「抗生物質」とかいうものを作った天才少年か。それなら話は別だ、実はかの「天才少年」が来たならば、入学式場の前に案内するところがあってな」
ん? なんだ、早速新入生虐待か?
「そう警戒するな。別にシゴキとかじゃない。そういうのは
「えっ」
「……顔に書いてあるぞ、年上ばかりで緊張している、って。
……学長先生からも言いつかっているんだ、しかし、君も運が良いな。この三高は近々帝国大学に昇格することになっていてな。別に大学に入るのに受験は要らないけども、この三高が帝国大学に昇格するってことは、この帝国の臣民が自由になる一歩だと、僕は信じている。まあ、詳しくは折田学長と話すと良い」
「は、はいっ!!」
……折田って人は知らないが、学長ってことは京大の偉い人なんだろう。こいつぁ僥倖だ。抗生物質を作ったのは足がかりに過ぎなかったが、バックに学長がついているとなるといろいろな発明を説得しやすくなる。
……この空気じゃ、「東京が
「折田学長、噂の天才少年をお連れ致しました」
「これ、学長はよさんか。儂の様な老いぼれがこの期に及んでもなお学長に居られるのも君達学徒の支持があるからに過ぎんよ。……で、君が山本さんだな。まあ、掛け給え。今抹茶を用意するでな」
「い、いえ、そんな!」
「む、茶は嫌いかね? ……なれば、ココアでも」
あ、この人いい人だ。……でも、ぶっちゃけ猫舌だからあんまり熱いの飲めないんだよなあ……。
「……水でいいです。猫舌なんで……」
……てーか、この時代の大日本帝国にもうココアとかあったんか。……懐かしいなあ、いろんな意味で。
「ああ、そういうことか。ならばまあ、麦茶の方がいいな」
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