開幕序:文明十五年の惣領軍議 =ようこそ、「城闕崇華」の世界線へ!=

序ノ壱「将星集いて、英雄発射の装薬整うのこと」(壱)

 後の暦、すなわち太陽暦に直して二千百四十余年、当時の暦では文明十六年と記されるある日。播磨進攻を行っている陣中の出来事である。生野峠を初めとした緒戦に於いて赤松軍に対して大勝を収めた垣屋豊遠率いる山名軍は引き続き播磨に駐留すると同時に本陣である山名政豊の軍を但馬より呼び寄せ戦果の拡大を図った。そして、この播磨奪還戦こそがのちの天下人、後世の歴史に燦々と輝く垣屋続成の輝かしき戦歴の発端であるのだが、それを知るものは、続成の父宗続を含めて、まだ誰もいない。


「諸将、揃うたな。それではいよいよ、我が祖父宗全入道が幕府より賜った播磨備前、そして美作を奪還する。皆、考えを申せ」

 幕府より賜った地、それが播磨・備前・美作、以下播備作と記す、三国に於ける山名家の共通認識であった。無論、所領が増える好機である以上、彼らも異論はない。

「然らば、某が」

 ……そして、議論の口火を切ったのは、後世に伝わっているように続成の父である宗続が発言したのではなく、眼前の畳に座る殿様の家督を有力視されている、俊豊の傅役を務める太田垣宗収であった。

「おお、美作か」

 宗収をあえて呼び捨てず通称の美作で呼ぶ殿様。そこには、諱で呼ばぬ敬意が、というよりは播備作を奪還するという意思表示が含まれていた。

「戦は勢いにございます、このまま三州を一飲みにいたしましょう」

 景気よく、而して血気盛んに発言する宗収。そして彼は、口火を切った者としての役割も忘れることはなかった。

「おう、だがその方策も当然立っておろうな」

「ははっ、まずは小野近隣を拠点として、我が手勢を以て長船へ押し出しまする。御屋形様はその間、播磨を東進して威を以て播磨を鎮撫なさいますことを提案いたしまする」

 そして、宗収が唱えた方策とは、いかにも常道であり、誰でも思いつく手であった。だが、先ほど「口火を切った者としての役割」と記した通り、こういう軍議の場においては、最初に口火を切る者は叩き台として常道を唱えるという習わしが存在した。そして、山名家は古来よりの家柄である。そういう軍議の作法が確りとしていることは、名家旧跡の証拠と言えた。

「ふむ、常道じゃな」

 そして、殿様こと政豊は満足そうに宗収の発言に頷いた。彼が軍議の作法を心得ていることは、嫡子俊豊の養育係としての任命が間違っていなかったことを意味していたからだ。

「それでは、次は某から」

 次に手を挙げたのは、塩冶であった。塩冶氏は山陰に古くから伝わる国衆であり、のちに続成が出雲を平定する際には軍監としてついて行き報告書として書き上げた「出雲陣処」は、当時の合戦がどのようにして行われたか、そして続成の戦ぶりとはどのようなものであったのかを後世まで伝える貴重な史料となるのだが、当然のようにまだその書はこの世に墨一滴存在していない。

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