魏書 巻84~ 様々な人たち

梁越他  昔蘇武何以加之


梁越りょうえつ、字は玄覽げんらん新興しんこうの人だ。幼い頃から学問を好み、広く経典、史伝に通じ、把握しないものはなかった。その性格は純真素朴、ものごとをえり好みすることもなかった。北魏がたった初期に禮經らいきょう博士はくしに任じられた。拓跋珪たくばつけいはその慎ましくも忠義心厚く、儀礼に適った振る舞いを踏まえて上大夫じょうたいふに任じ、諸皇子の経典教育に従事させた。拓跋嗣が即位すると、こうした講義を授けてくれたという恩義から祝阿侯しゅくあこうに封じた。後に雁門太守がんもんたいしゅとして現地に赴任、瑞獣の白雀はくじゃくを獲得したため献上した。光祿大夫こうろくたいふとなり、死亡した。



于簡うかん、字は什門じゅうもんだいの人である。拓跋嗣の時代に謁者えっしゃとなり、馮跋ふうばつを挑発する使者として出向くこととなった。和龍かりゅうに到着すると、はじめ町中の宿舎に詰め、敢えて城に入ろうとはしなかった。


そこから人を遣わせ、馮跋に伝言させる。

大魏皇帝たいぎこうていよりみことのりあるゆえ馮どのにおかれては我が元にまかり越し受け取られよ、しかるのちに城に赴こう」


馮跋は臣下をやって于簡を城内に引きずり入れさせるも、結局于簡は馮跋に対し、拝礼もしない。馮跋は臣下に命じ、そのうなじを地面につけさせようとする。すると于簡が言う。

「馮どのは拜し詔を受けられよ、わしはそなたに賓客なりの敬意は示しておると言うに、そうも威圧を仕掛けてこられるのだ!」


そこから馮跋と拝礼しろ、ふざけんなとやり合う。その声色はきわめて烈しく、決して馮跋よりの威圧に屈することはなかった。結局馮跋は于簡に拝礼を強要させることを諦め、退出を許した。すると于簡は人々のなかに紛れると馮跋に思い切り背を見せ、「被袴後襠」にて馮跋を侮辱した。このため拘留されることとなった。


この拘留の時、かなり手荒く扱われたのだろう。身にまとう衣服はズタボロとなり、ヒルやシラミがその身にまとわりついていた。馮跋は新しい衣服を与えようとしたのだが、于簡はそれを拒んだ。和龍の人々はみな于簡の気骨に感服し、言う。

「古の烈士でも、あれだけの者はいなかっただろう!」


実に 24 年後、馮弘ふうこうが北魏に降伏を願い出た際、ようやく于簡も帰国が許され、治書侍御史ちしょじぎょしに任じられた。拓跋燾たくばつとうは詔勅を下し、言う。

「于簡は上意を受け和龍に出向き、クソガキのキチガイにぶちあたるも、その志を折ること叶わず、むしろ意気ますます盛んとなり決してその節度を曲げることがなかった。かんの勇士、蘇武そぶとて到底敵うものではあるまい」


羊千頭、帛千匹が下賜され、上大夫じょうたいふに進んだ。その功績は宗廟にも報告され、天下にも広く示され、誰もが于簡の名声を耳にするのだった。





梁越,字玄覽,新興人也。少而好學,博綜經傳,無所不通。性純和篤信,行無擇善。國初為禮經博士。太祖以其謹厚,舉動可則,拜上大夫,命授諸皇子經書。太宗即祚,以師傅之恩賜爵祝阿侯。後出為雁門太守,獲白雀以獻,拜光祿大夫。卒。子弼,早卒。

(魏書84-1)


于簡,字什門,代人也。太宗時為謁者,使喻馮跋。及至和龍,住外舍不入,使人謂跋曰:「大魏皇帝有詔,須馮主出受,然後敢入。」跋使人牽逼令入,見跋不拜,跋令人按其項。什門曰:「馮主拜受詔,吾自以賓主致敬,何須苦見逼也!」與跋往復,聲氣厲然,初不撓屈。既而跋止什門。什門於羣眾之中,回身背跋,被袴後襠以辱之。既見拘留,隨身衣裳敗壞略盡,蟣虱被體。跋遺以衣服,什門拒而不受。和龍人皆歎曰:「雖古烈士,無以過也!」歷二十四年,[3]後馮文通上表稱臣,乃送什門歸。拜治書侍御史。世祖下詔曰:「什門奉使和龍,值狂豎肆虐,勇志壯厲,不為屈節,雖昔蘇武何以加之。」賜羊千口、帛千匹,進為上大夫,策告宗廟,頒示天下,咸使聞也。

(魏書87-1)




どちらもわくわくする来歴の人ですが(拓跋珪が皇子のために任命した教育係とかときめくに決まってる)、しかしそれをぶち抜いても于簡のこの剛直さ! 最高すぎます。蘇武を引き合いに出して拓跋燾が語ってんのがおもしろすぎますね。オメーどっちかってと匈奴きょうどだろ!!!!!!!!!!


蘇武

漢から匈奴への使節として出向くも十九年間抑留を喰らい、とはいえ一切節を曲げなかった人。

https://kakuyomu.jp/works/16816700428584992583/episodes/16816927861887489171

https://kakuyomu.jp/works/16816700428584992583/episodes/16816927862426471478

まぁ確かに、比較するなら蘇武やね。

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