司馬楚之2 琅邪貞王

拓跋嗣たくばつしの治世の末期、奚斤けいきん河南かなん一帯を攻撃させた。司馬楚之しばそしはこのときに使者を送り、帰順を表明している。送った手紙の内容は以下の通りだ。

江淮こうわい地域より北に住むもので、陛下の軍が向かってこられたと聞き、喜び舞い踊らぬものはおりませんでした。皆が陛下の御威光に浴したいと考えていたのですが、南方より逆賊の圧力を受けておりましたため、叶わずにおりました。臣はこうした民草の意向を受け、義軍を率い、お国のための先鋒として働きたく思います。ただし我らは無官の身。軍を率いるに、確かな権威があるとはとても申せませぬ。そこでもし、この身を諸将軍がたの末席にお加えくださいましたならば、陛下の御威光をお預かりすること叶い、従わぬ民もいなくなることでしょう」


この手紙を受け取ると、拓跋嗣は司馬楚之を使持節しじせつ征南將軍せいなんしょうぐん荊州刺史けいしゅうししに任じた。この段階では北魏隷下と言うよりも、外国のトップとの同盟、的な待遇となっていたのが伺える。


奚斤が河南を平定すると、司馬楚之が率いていた民を汝南じょなん南陽なんよう南頓なんとん新蔡しんさいの四郡に分配。豫州よしゅうの民として加増した。


拓跋燾たくばつとうが即位して間もなく、司馬楚之は妻や子をぎょうに移住させたが、間もなくして平城へいじょうからの召喚を受け、入朝した。


劉宋りゅうそうの皇帝が劉義隆りゅうぎりゅうに移ると、北伐のための準備が進む。そこで司馬楚之を使持節しじせつ安南大將軍あんなんだいしょうぐんとし、琅邪王ろうやおうに封じ、潁川えいせんに駐屯させ、防御に当たらせた。



その後北涼ほくりょう柔然じゅうぜんとの戦いで大きく功績を上げ、假節かせつ侍中じちゅう鎮西大將軍ちんざいだいしょうぐん開府儀同三司かいふぎどうさんし雲中鎮大將うんちゅうちんだいしょう朔州刺史さくしゅうししに任じられた。言ってみれば対柔然防衛線の総司令官クラス待遇である。琅邪王であることはもとのままだった。こうした国境線統治に二十年あまり携わり、清廉倹約の統治にて名を知られた。


464 年、75 歳で死亡した。当時の皇帝であった拓跋濬たくばつしゅんはその死を悼み惜しみ、都督ととく梁益秦寧りょうえきしんねん四州諸軍事ししゅうしょぐんじ征南大將軍せいなんだいしょうぐん領護西戎校尉ごせいじゅうこうい揚州刺史ようしゅうししを追贈。貞王ていおうと諡し、金陵きんりょうに陪葬した。


長子の司馬宝胤しばほういんは司馬楚之と同タイミングで北魏入り。中書博士ちゅうしょしょし雁門太守がんもんたいしゅになり、死亡した。司馬楚之は後に拓跋氏のある王の娘、河內公主かだいこうしゅを娶り、司馬金龍しばきんりゅうを産んだ。北魏では司馬金龍の家門が司馬氏宗家となり、以降北斉まで貴顕として名を残す。




太宗末,山陽公奚斤略地河南,楚之遣使請降。因表曰:「江淮以北,聞王師南首,無不抃舞,思奉德化。而逼於寇逆,無由自致。臣因民之欲,請率慕義為國前驅。今皆白衣,無以制服人望。若蒙偏裨之號,假王威以唱義,則莫不率從。」於是假楚之使持節、征南將軍、荊州刺史。奚斤既平河南,以楚之所率戶民分置汝南、南陽、南頓、新蔡四郡,以益豫州。世祖初,楚之遣妻子內居於鄴,尋徵入朝。時南藩諸將表劉義隆欲入為寇,以楚之為使持節、安南大將軍,封琅邪王,屯潁川以拒之。後拜假節、侍中、鎮西大將軍、開府儀同三司、雲中鎮大將、朔州刺史,王如故。在邊二十餘年,以清儉著聞。和平五年薨,時年七十五。高宗悼惜之,贈都督梁益秦寧四州諸軍事、征南大將軍、領護西戎校尉、揚州刺史,諡貞王。陪葬金陵。長子寶胤,與楚之同入國。拜中書博士、雁門太守。卒。楚之後尚諸王女河內公主,生子金龍。


(魏書37-2)




司馬金龍

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/209128

墓誌が残っている。それにしても河内公主の続柄がまるで絞れない。公主がつく以上貴種なのは間違いないんだが、一方で皇帝の娘でもない。最高でも孫。うーん、これはどう見たものか。


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