魏書巻32 後燕よりの帰属者1

高湖   高歓の曾祖父()

高湖こうこ、字は大淵だいえん勃海ぼっかいしゅう県の人だ。かん太傅たいふ高裒こうぼうの子孫である。祖父は高慶こうけい慕容垂ぼようすい司空しくうとなった。父は高泰こうたい吏部尚書りぶしょうしょ。おそらく早い段階で死亡している。


高湖は幼いころより素早い頭の回転を示し、大きな器をも示し、兄の高韜こうとうと共に大いに名を知られた。また早い段階で同郷人の崔逞さいていより敬服、賛嘆を受けていた。若い頃より顕職を歴任し、後燕こうえんにて散騎常侍さんきじょうじにまでいたる。


395 年、慕容垂が太子の慕容宝ぼようほうに兵を与え、北魏ほくぎに侵攻させる。ここで高湖は慕容垂に対し諫言している。

「魏はわれらが燕の同盟国。かの国に內難があったとき我らは援軍を与えましたが、そこに関する要求を求めたときには決して約束を違えませんでした。長らくの和好関係にあり、多くの人々が両国を行き交っています。先にも馬を求めたところ答えられないからと、拓跋珪たくばつけいは自身の弟、拓跋觚たくばつこを人質として差し出してくる誠意を見せたではありませぬか。この部分を曲げて攻め立てたのです、これでは相手方に非を見出すことはできませぬ。政策としては、旧交を元通りにし、国内の安定を図ることでございましょう。にもかかわらず太子に兵を率い発してしまった。このふるまいのどこに大義がございますか。加えて拓跋珪は雄略の王、兵馬は精強にして、險阻な地形にて守られております。我々に対する備えも万全でございましょう。太子は未だお若く、戦果をお挙げにならんと躍起になっておられますが、敵を軽んじ、目先の勝利にばかり心を奪われております。太子のみで向かわせるのは危険である、と申すより他ございません。この出征には恐るべき未来しか見えぬのです、どうか深くご考慮くださいませ」

その言葉はきわめて切実なものであった。慕容垂は怒り、高湖を免官とした。しかしこの頃、既に慕容宝は参合陂さんごうはにて大敗していた。


慕容宝が立つと、高湖は征虜將軍せいりょしょうぐん燕郡太守えんぐんたいしゅとなった。慕容寶が中山ちゅうざんを捨て和龍わりゅうに逃げ込むと、兄弟同士で相争うようになった。高湖はその衰え乱れた様子を見てついに燕を見切り、三千世帯を率い北魏に帰順した。拓跋珪は高湖を東阿侯とうあこうに封じ、右將軍うしょうぐんを加え、代東諸部だいとうしょぶを総督させた。拓跋燾たくばつとうの時代に寧西將軍ねいせいしょうぐん涼州りょうしゅう鎮都大將ちんとだいしょうとして姑臧こぞうに派遣され、優れた政をなした。70 歳で死亡。鎮西將軍ちんせいしょうぐん秦州刺史しんしゅうししが追贈され、けいと諡された。



高湖の弟、高恒こうこう。字は叔宗しゅくそう。後燕の鉅鹿太守きょろくたいしゅであった。拓跋珪の時代に鉅鹿郡をひっさげ降伏。涇縣侯けいけんこうに封じられ、龍驤將軍りゅうじょうしょうぐんに任じられた。鉅鹿守備は継続となった。死亡すると安東將軍あんとうしょうぐん幽州刺史ゆうしゅうししが追贈され、けいと諡された。




高湖,字大淵,勃海蓨人也。漢太傅裒之後。祖慶,慕容垂司空。父泰,吏部尚書。湖少機敏,有器度,與兄韜俱知名於時,雅為鄉人崔逞所敬異。少歷顯職,為散騎常侍。登國十年,垂遣其太子寶來伐也,湖言於垂曰:「魏,燕之與國。彼有內難,此遣赴之;此有所求,彼無違者。和好多年,行人相繼。往求馬不得,遂留其弟,曲在於此,非彼之失。政當敦修舊好,乂寧國家,而復令太子率眾遠伐。且魏主雄略,兵馬精強,險阻艱難,備嘗之矣。太子富於春秋,意果心銳,輕敵好勝,難可獨行。兵凶戰危,願以深慮。」言頗切厲。垂怒,免湖官。既而寶果敗於參合。寶立,乃起湖為征虜將軍、燕郡太守。寶走和龍,兄弟交爭,湖見其衰亂,遂率戶三千歸國。太祖賜爵東阿侯,加右將軍,總代東諸部。世祖時,除寧西將軍、涼州鎮都大將,鎮姑臧,甚有惠政。年七十,卒。贈鎮西將軍、秦州刺史,諡曰敬。湖弟恒,字叔宗,慕容垂鉅鹿太守。太祖時,率郡降,賜爵涇縣侯,加龍驤將軍,仍守鉅鹿。卒,贈安東將軍、幽州刺史,諡曰惠。


(魏書32-1)




はい、と言うわけでここからある意味一番楽しみであったと言ってもいい、後燕からの帰属貴族のお話です。トップバッターは渤海高氏。いやトップは清河せいが崔氏さいしだろうがどう考えてもいいかげんにしろよ案件なんですが、仕方ないのです、なにせ渤海高氏は北斉皇族の先祖「と言う公式設定」。ご先祖さまならね、仕方ないね!


なお北斉書ほくせいしょでは高湖が四人の子を産み、そのうちの第三子の高謐こうひつ懷朔鎮かいさくちんに移り、高樹こうじゅを産み、そして高歓こうかんを産んだ、と書かれます。


魏書でどうかというと、高謐→高樹生こうじゅせいのラインが存在はしていますが、懷朔鎮のかの字も存在していません。その最終官位や追贈をみても都督ととく青徐齊濟兗せいじょせいさいえん五州諸軍事ごしゅうしょぐんじ驃騎大將軍ひょうきだいしょうぐん太尉公たいいこう青州刺史せいしゅうしし武貞公ぶていこう。えっいつ懷朔鎮(オルドスの北、つまりめっちゃ西のほう)に出たの? そして高樹生はそんな父親の来歴から突然懷朔鎮将に。いいかげんにしろよマジで。


まあ、楽しいからいいんですが!

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