155-[MID]Y/[IN]R_侵入者(1)
作戦会議、と言っても非力な悠や紫苑にやれることなぞ知れている。
「間違っても、殴ったり蹴ったりなんてしても意味はないですし、肉壁なんてもっての
夜の地面へ直に座り込んで、悠はううむと眉を寄せた。非力な自分たちがどうすれば、敵を撃退しえるか。撃退しなくてもよい。どうすれば、蓮やヨナスがあの敵を無力化するのに導けるか。
中は外と違って、道具を自由に調達できない。中にある家具も家電も、すべては勝手に湧いて出てきて、そして消える。とくに食材は日々勝手に現れているが、そのきっかけは未だにわからない。わからないものは使えない。
悠の前で胡座をかいて座った紫苑もまた、ううむと首を捻って、
「玄関に逃げ込まれると厄介だし……いっそソファか何かでバリケードでも作る?」
そんな馬鹿な策ありますか、と悠は呆れ果てた。
そんなことをしたら、まずソファだけで廊下が詰まってしまう。廊下はそんなに広くない。ますます身動き取りづらくなるだろう。
それに、ソファを片手でひょいと持てるならまだよいが、えいこらと二人がかりで運んでいたら、足手まといこの上ない。重たいものを持っている関係で襲われても防御できず、蓮やヨナスもそれをきっと放っておかないわけで――最悪四人まとめてあの世行きだ。
ふと、悠はブラックの時のことを思い起こした。
「なんとかブラックさんのときのように空き部屋に閉じ込められるといいんですけど」
ブラックは住人を殺そうとする危険な住人だ。そのブラックがうっかり幽閉されていた部屋から出てしまった時は、蓮が謎の鍵を使って常ならば閉まっている部屋を開けてその中に放り込んで閉じ込めた。あの鍵がいったい何で、どうして蓮だけが持っているのかは未だに悠は知らない。
――それに。
蓮の個室には、部屋の中にも鍵穴があった。彼はきっと、紫苑や
「今回はどうして、部屋に閉じ込めようとしないんでしょうか?」
「しないんじゃなくて、できないんじゃないのかな。ぼくの見たあの感じからして、そもそも抑え込むのに二人以上は必要そうだったよ」
紫苑はクロレンス側の一階へたどり着くまでに見た光景を思い起こして、眉を寄せる。二階で道をあけるのに、ヨナスだけでは叶わなかった。
「ということは、抑えつける要員が足りていないんですね」
「まあ、そうだけど……て、まさか」
げっと紫苑は声を上げ、座ったまま少しだけ後退る。悠もまた座ったまま真顔できっぱりと、
「はい、そのまさかです」
痛いのも苦しいのも嫌なので、蓮さんには死ぬ気で扉を開けてもらわないとですね。悠はそう言うと、すっと立ち上がり左の親指の爪を噛んで続けた。
「一応、わずかながらの
✙
そもそもの事の発端はなんだったのだろうか。
靄がかる意識の中で、蓮は考えた。
全身打撲でズキズキと痛む。激しく打ち付けた場所や、その衝撃で破損した壁や床で抉られた場所は息を詰まらせるほどに痛む。
早く、立たなければ。
今は
「あー、クソ」
よろよろと立ち上がり、ペッと血を吐き捨てる。目の前ではちょうどヨナスの肉壁が払い除けられているところで、蓮は急いで飛びついた。
その黒い
「おチビさん、さすがにオレ限界なんだけど」
「耐えろ。隙さえできりゃいいんだ」
「逃げたい……」
「悪いが、逃がしてやる余裕はねえからな」
そもそも、事の発端は何だったのだろうか。
疲弊して回らない頭で、それでも蓮は思考する。わかっている。
ゆえに、蓮の部屋の扉が開いていると発覚したあの時から二つの窓を悠と紫苑たちで守らせて、しらみ潰しに侵入者を探し回った。なかなかその何者かは見つからなかった。
あの黒い
それはなかなか見つからず、仕方なくもう一度クロレンス側の二階を
何処から現れたのか、蓮
「――っ
ズタンッと床に叩きつけられて、蓮は息を詰まらせた。血痕が飛び散り、咄嗟につこうとした右腕がゴキリと鈍い音を鳴らす。その音にヨナスはギョッと目を剥いた。
「大丈夫!?なんか今、イヤな音したよ!?」
「大丈夫なわけあるか。てめえみたいにすぐ治んねえんだよこっちは」
「いや、それでも痛いんだよ。オレだって痛いのはイヤだよ」
早口で捲し立てるヨナスに、蓮は何も返さない。痛む右腕をおさえながら、とにかく起き上がろうとした。
どうして。
カシャン、と音を立てて床に落ちた鍵を見て、蓮は目を見開いた。それは、ブラックを部屋へ押し留めたさいに用いた鍵だ。日本でよく使用される家鍵より一回り大きく、南京錠なんかでよく使用されるウォード錠だ。普段は鎖に繋いで首から下げ、服の下に隠しているのだが、とうとう鎖が切れてしまったらしい。
――
唇を噛み締め、蓮はその鍵を拾い上げた。後方でヨナスの叫び声が聞こえる。どうせまた、腹に穴を開けられたのだろう。早く駆けつけてやらねば、あの黒い
中では、本当の肉体はない。
だというのに貧血や脳震盪という概念はあるらしい。蓮は何とか立ち上がったものの、ふらつき、眼の前が暗転した。
そのとき。
やにわに、廊下に叫び声が轟いた。
「うああああ!」
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