6-6 僕たちのスナップ・ショット
ブライダル・フォトグラファーの仕事は、とにかく体力勝負だった。午前中からお昼にかけての撮影の後は、夏場だったこともあり汗だくになっていた。
とにかく、無我夢中でシャッターを切った。何度も、弱音を吐きそうになった。それでも、僕は撮り続けた。撮り続けることしか出来なかった。週二回から三回、撮影の仕事があった。土・日に当たることが多かった。
そんな時だった。
くるみから、「一緒に住まないか」と誘われたのは。
「同棲ってこと?」
「はっきり言って、そう。いつもそばにいて、カナタのお世話をしたいの。写真の仕事があまりに大変そうだから」
「くるみ、本当にありがとう。僕も、くるみとならやって行ける気がするよ」
「私、今度のシルバーウィークに休日があるんだ。平日に。その日なら、一緒に貸物件を見に行けるの。どう?」
「ちょっと待って」
季節は晩夏。
僕は、手帳をめくり九月のページを開いた。秋分の日に、撮影の仕事は入っていなかった。
「その日なら大丈夫」
「良かった」
「あのね、くるみ……」
「何?」
「僕と結婚してくれないか。長い付き合いだけど。今更って言うかもしれないけど……」
くるみは、一瞬黙った。
「私のことを考えてくれて、ありがと。私からもお願いするわ。ぜひ、結婚して下さい」
「記念写真を撮りたいね」
「いい記念写真にしてね」
それから、僕らは割と良い物件を選んで、一緒に住みはじめた。物件は川の堤防の傍にあり、河からの風が心地よかった。近くには古くからのパン屋があり、その店の老夫婦と親しくなった。
僕らは、十月の晴れた日に、堤防の土手でピクニックをしていた。十月の空は高く、雲一つ無かった。
「くるみ、僕たちの結婚式の写真は、誰に撮ってもらおうか?」
「テツローさんがいいんじゃない」
「自分で撮りたいけど、こればっかりはね」
僕はそう言って笑った。
「今日の風景も撮ってくれないかしら。記憶に残したいの」
「記念にしたいね」
記憶のような写真。それは偽りを含まないだろう。写真の色や形は、現実をそのまま残す。写真はウソをつかない。僕にはそう思えた。
太陽が夏よりも、優しく感じられた。
風が草原を駆け抜け、くるみの白い帽子を
小鳥のさえずりが聞こえた。
僕は、カメラを構えた。
そして、シャッターを切った。
『恋カメラ』(結)
恋カメラ 雨宮大智 @a_taichi
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