5-5 海の写真
「このフィルムを、一枚ずつLサイズにプリントしてください。あと現像してから何枚か焼き増ししてほしいのですが……」
「フィルムからL判ですね。一旦、ネガを現像してから、インデックス・シートを出しますので、それから必要な枚数をシートに記入してくださいね」
「すいません、フィルムカメラ初めてで……」
「そうなんですね。僕もデジタルカメラから入ったんですよ」
受付に来たのは、歳の頃十七・八の女子高生だった。近くの西峰高校の制服を着て、髪をポニーテールにしていた。瞳が大きく、可愛らしい印象を覚えた。
僕と同じように、デジタルカメラからフィルムカメラに移ったと聞いて、少し親近感を覚えた。
「一時間位で、現像が仕上がりますので、とりあえず一枚ずつL判で良いですか?」
「はい。宜しくお願いします」
女子校生は現像の申し込み用紙に「マキ サヤカ」と書き、携帯の電話番号を記した。
「あと、一時間後位にまた来ますね」
爽やかな笑顔を残して、サヤカさんは写真館を出て行った。
僕は、サヤカさんの置いていったフィルムを現像しようと、機械にかけた。現像機の画面に、撮影した写真が表示される。
−−海か。
サヤカさんのフィルムに有ったのは海だった。
幾重にも押し寄せる波頭が、まるで絵画のように美しかった。
現像機では、明るさやコントラスト、そして色味の調整ができる。
−−少しアンダーだけど、良い写真だ。
僕は明るめに補正をかけようとして、止めた。この写真は、少し暗い方が美しい。
僕は少しだけコントラストを上げ、色味と明るさの調節はしなかった。
−−この子には、才能があるのかもしれないな。
一時間ほどして、サヤカさんが写真館を再び訪れた。手にはデパートの買い物袋をぶら下げている。
「あの、現像はできていますか」
不安気にサヤカさんが訊いた。
「こちらになります」
僕は先程つくった、ネガとインデックス・シートと、二十四枚のL判写真と請求書を手渡した。
サヤカさんは、お金を支払うと、その場でL判写真を見はじめた。
「コレとコレをあと二枚。この写真は上手く撮れてる。……こっちはダメか」
サヤカさんは、追加で十枚程の写真の焼き増しを頼んで、「明日取りにきます」と告げた。
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