第51話 死を生む光の魔法使い

 リカルドは恐ろしいことを口走っていた。

 聞き間違いだと思いたい。いくら口と性格が悪いヤツでも、他者の命を顧みないヤツじゃなかったのに。


「ルディ、今わかったよ。カジャってーのは、世界を育てる存在でもあるが、どんなヤツにもある“思い”なんだよ、世界の思いだ。この世界は多くの生き物の思いによって育てられる。良くも悪くも世界のためになるものを生かし、いらないと思われたものは消す。それは自然の摂理でもあるが、生かすも殺すも決めてしまうのは生き物の思いだ、それなんだよ。だがカジャの良いところは“世界が育てばいい”っていうことだ」


 リカルドはとても楽しそうだ。なんでそんなに楽しそうなんだ。


「それは命は関係ねぇってことだ!」


 リカルドは森を再生した時のように杖を大きく空に向かって振り回した。

 そこから放たれるのは白い光だ、俺を再生した時のような優しい光の粒だ。

 それはまっすぐに空へと舞い上がっていく。あまりにも数が多く、空を埋め尽くす勢いだ。


 リカルド、まさか……。


「リカルド、お前は光の魔法使いだろっ、光魔法は再生や生み出すことだ。そんな恐ろしいことはできないだろっ⁉」


「あぁ、そうだ。俺の魔法は生み出すことができる。この世界のヤツら全ての身体の中に世界へつながる“根”を発芽させる種を埋め込ませてもらった。世界中の生き物はこの世界とつながり、世界は生き物の命を糧にさらに育っていく……ルディ、ここがポイントだ。俺が言ったのは全ての生き物だ。人も獣人も動物も虫も、生き物全てだ。だがそこに竜は含まれていねぇ。お前だってさっきそう望んでくれただろう」


 その質問の意味は……。

 そうだ、さっきリカルドが俺に聞いた。

 一緒にいたいと望んでくれるかと。

 もちろん、俺はそう答えた。

 でもそれは、こういう意味じゃないのに。


「全てはこの世界の醜いヤツらが悪い。俺の竜をいじめやがって。だから俺は全員を許さねぇ、俺のルディを奪うヤツは許さねぇっ!」


 リカルドはさらに杖を振り回す。どんどん光は溢れていく。それは神々しく、美しい光景であるはずなのに。

 それはとても恐ろしい意味を持つ。

 その光は人々に死をもたらす。

 死を生み出す光の魔法使い。


「リカルド、や、やめてくれ……」


 立ち上がってリカルドを止めようと思ったが、すぐに身体が崩れ落ちる、力が入らない。


「ルディ、少しだけ、そこで待ってろ。俺の魔法で少しは抑えたが、そこまでお前も力はないはずだ。世界中の人間の養分を吸収したら、世界から少し力を分けてもらって治してやるよ……それにしてもここじゃ都合が悪いな。もっと高い場所に行かねぇと」


 リカルドは一旦、杖降ろすと空中に飛んだ。


「リカルドッ!」


 リカルドは瞬く間に空の中に消えていった。

 彼を止めたい、止めなくては。

 どうしたらいい。竜になり、彼を追いかけるのがいいか。だがフィンにかけられた魔法によって自分は竜になったら即座に石になってしまう。

 リカルドを止める前に石になってしまったら、きっと彼は思いのままに、ただ人々の命を奪う存在になる。

 そんなことは嫌だ、絶対に嫌だ、どうすれば。


「なんだか大変なことになってるみたいだね」


 この場に似合わない明るめの声がした。

 気配に横を見たら、いつの間にか隣にはニコニコと笑うハロルドが立っていた。


「なんかリカルドが暴れてるなぁと思ってきてみたら、すごいことになってるね。俺はあいつの魔法なんか消すことはできるけど、世界中のヤツらはそうはいかないだろうね。一時間もすればみんな死に絶えるよ。いや、世界と一つになるって言った方が正しいのかな」


 ハロルドは空を見上げながら他人事のように話している。

 ルディは彼の肩に手を置いた。


「ハロルドお願いだ、俺はリカルドを止めたい。リカルドにそんなことをしてほしくないんだ」


「でもルディ、リカルドをあのままにしておけばキミは生きられるんだよ? 誰にも何も言われずに生きられる。キミは生きていたいんでしょ」


 ……違う、違わないけど。そうじゃない。


「……わかってるだろ、そんなこと」


 ルディは歯を食いしばり下を向く。

 思わず涙が溢れ出してしまった。


 みんながいないとダメなんだ。リカルドといるのは嬉しいけど、今の俺はそれだけじゃダメだ。たくさんの友達ができて仲間ができた。そんな人達と一緒にいたい。

 リカルドとラズリとモフモフな子ウサギ達とみんなと一緒にいたい。


「ごめん、いじわる言った。わかってるよ」


 ハロルドの言葉に、ルディは顔を上げた。


「他ならぬキミのためだ。ボクもキミみたいな人が友達だと、なんだか楽しそうだから。もっと生きてみたいなって思うから。ボクの闇の魔法でキミの中にある石化を消してあげる。そうすれば竜になって、あいつのところに行けるでしょ」


 目の前に突如現れた希望にルディは熱くなった。ありがとう、ハロルド。


「でもルディ、そっから先はどうする?  あいつをどうやって止める? 悪いけどボクの魔法じゃ歯が立たないよ、あいつ自信があるだけに、とんでもなく強いからね。あいつの好きな甘いものでも積めば許してくれるかもしれないけど」


 甘いものか。今のリカルドはそれすらも拒絶する気がする。


「ハロルドの魔法はなんでも消すことができるのか」


 ハロルドはきょとんとした後、うなずいた。


「まぁ、できるけど。でもリカルドがかけた魔法を全ての人から消せっていうのは無理だよ。すでに全ての生き物に種は埋め込まれてしまったからね。そんなのどうしようもないからね、まぁでも――」


 ハロルドは唇に指先を当てた。


「魔法の力を増加させるアイテムとかあれば、もっとなんかすごいことできるかもしれないけど」


「もっと、なんか?」


 魔法の力のアイテム、もしかして。

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