二個目の魔石、知られざる地下へ
第34話 魔石はどこだ
魔石は、それなりに希少なものらしい。
ココ屋の店主の依頼をこなして水の魔石は手に入ったが。それ以降は魔石を手に入れる手がかりというもなく、時間ばかりが過ぎていく。
あれから一週間、ルディはピア達と今日もランスで情報収集していた。
「正直この国だけでは手に入れるのが難しいのかもしれないね〜」
建物の壁に寄りかかり、人の流れを見つめながらピアはもっともなことを言っていた。
「魔石なんて産地に行けば、そこら辺にゴロゴロしているんだけど。産地ではない場所だとなかなか手に入らないもんだね」
隣に立つルディは「そうだなぁ」とうなずく。
「けど産地ってここからめちゃめちゃ遠い場所なんだろ。そこに行くだけでも一か月近くかかっちゃうからな……魔法が使えれば一瞬で行ったり戻ったりできるんだけどなぁ……」
転移魔法が使えれば、の話だ。
転移魔法はリカルドが光魔法としてよく使っているが強い魔力を持つ者なら己のエレメントで使えるらしい。
だがかなり魔力を消費するらしく、体力のある大人しか使用ができない。子供のピア達では使うことができないのだ。
自分の近くにはそれを使用できる力のある魔法使いはいるはず、なのだが……今は残念なことに魔法が使えなくなっている。
「リカルド様、ネコの姿から元に戻れなくなっちゃったしね……」
ピアの残念そうなつぶやきに、ルディはため息を持って返す。リカルドはあの日から、かわいらしいネコ姿のまま元に戻れず、家の中で尻尾を逆立ててイライラしている。あの時、ラズリに魔力を封じ込められたまま、彼と別れてしまったから。
解除の仕方を調べているが魔力を封じられたせいで今のところどうにもできない状況らしい。封印は時間が経てば解除されるものもあるというが、はたしてそれがいつになるのやら。
ラズリもどこにいったかわからないし……リカルドとはケンカしたままだし。
とりあえず、今できることとして魔石を集めることにしたのだ。
あとは風と火の魔石が集まればいい。
けれど簡単なことだが、なかなか思うようには進まない。
「お金持ちの人ならきれいな魔石とかだと、アンティークとして飾っているだろうけどね」
ニータがつぶやくと、隣に並ぶディアがフンッと鼻を鳴らす。
「金持ちは持ってるだろうけどケチだから、よっぽどの大金を貢がないとくれないだろうよ。なんだったら力づくで奪うか?」
ディアの物騒な言葉にピアとニータが同時に「ダーメ」と言った。
「ディアはそうやってすぐ実力行使みたいなことをするから……お母さんにもよく怒られていたんだよね。『ディア、もう少し周りへの思いやりを持ちなさい』って」
ピアはそう言い、お母さんが怒った表情を真似るように自身の目元を指で釣り上げた。
それを見てニータがプッと吹き出す。
「あぁ、あったよね。ボクへの言い方がきつい時も『もう少し思いやって言い方を考えなさい』って。ふふ、ピアの顔、お母さんそっくり」
「でしょでしょ、もっとすごい時なんかディアがお母さんにおしりをペンペンと――」
「や、やめろよ二人とも! だまれっ! また氷づけにするぞっ!」
慌てふためくディアを見ながら、みんなで笑ってしまった。またこんなふうにみんなで笑う輪に自分も含んでくれるなんて、本当にありがたいなと感じる。
プンスカと怒る青帽子を指差しながら、ピアは言う。
「ねぇ、ルディ。ディアってさ、ところどころリカルド様に似ていると思わない? プライド高いところとか」
「はは、そうだな。でもディアはあいつなんかより思いやりがあると思うよ。あいつにそんな感情なんてないからな」
「な、なんだよ。変なこと言うなよな」
けなされたり、褒められたり。気まずそうにディアは口を尖らせている。ベージュ色の毛が覆う頬の下がほんのり赤いのは照れているからだ。そういう仕草を見せる面では、あの性悪魔法使いとディアは絶対に違う。
(まぁ、リカルドにも良い部分はあるのはわかっているんだけど……今しばらくはあいつと話をする気分にならないからな……)
そのことは様子を見て、察しの良いピアもわかっているだろうに。なんで急にリカルドの話題を振ってきたのだろう、そう思っていると。
ピアは口元をほころばせながら空を見上げた。
「大人がそうだと思うけど、年齢を重ねるとさ……みんな素直さってなくなるよね。不器用というか、相手を気づかい過ぎているというか。色々なことを考え過ぎているせいで行動や言動が逆効果になるっていうか」
小さな身体が、なんだかとても難しいことを言っている気がする。
「僕達は素直に相手が好きとか嫌いとか、そういうことを言っちゃうけど。大人は言わないよね。素直に言えば相手を不快にさせないことだってあるのに。自分のプライド、相手への気づかい、体裁、他者の視線……色々なものを気にしちゃうんだよね。好きなら好き、大事なら大事、ここを直してほしいなら直してって言えばいいだけなのに。それが思いやりだと僕は思うけど」
思いやり、か。
誰かを思うこと……リカルドが自分のことをいつも守ってくれたのも、それもそうなのだろうか。
『リカルドが大好き』
竜として小さかった頃、そんなことを堂々と言ったこともあった。いつもそばにいてくれるあいつが俺にとっては大事な家族であったから。
……今もそれは変わりないんだろうか。
「ふん、大人ってめんどくさいよな」
今度はディアが答える。
「あの魔法使い、要はヤキモチ焼いてたんだろ。アンタがみんなに必要とされ、アンタに新しい仲間ができたから。ずっとアンタを自分一人で守ってきたんだって思ってたら、なおさらな」
ディアの言葉に、胸がズキッとした。
今までずっと一人で、リカルドは……そうか、リカルドこそ、一人だったのかもしれない。
「なぁにそれ。似た者同士としての見解?」
ピアのツッコミに、ディアは「うっさい」と答えると、そっぽを向いた、その時だ。
ディアが「あ」と声を上げた。
「よっ、兄ちゃんにかわいいウサギちゃん達じゃないか。元気か?」
長身で金髪に無精髭、茶色の皮のコートに身を包んだ男、ルザックが片手を上げて立っていた。
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