第24話 竜を狙うヒト
ラズリの言葉に耳を疑った。
そんな……ラズリも竜を狙っている?
「ど、どうして」
「俺は小さい頃、竜に村と家族を焼かれた。俺は竜を斬るために、ずっと竜を探している。今まで何度も竜と対峙した……何度も竜をこの剣で斬ったがヤツの命を絶つまでにはいかなかった。だが逃しはしない、いつか必ず切り捨てる」
二人の間に冷たい空気がひゅうと流れる。
あまりの寒さに肌がジリジリと痛むのを感じながら、ルディは考えた。
ラズリが竜を狙う目的はフィン達のように力を欲しているわけじゃなく、竜の命を狙うこと。故郷と大事なヒト達を奪われたから、竜への復讐……ピア達と似たような境遇だ。
「で、でも、ラズリ。竜がどんな存在とか知っているのか」
「あぁ、世界の要、だろ」
「じゃあ、竜がもし死んだらどうなるか、わかっているんだろ」
「あぁ、世界が滅ぶかもな」
ラズリは平然と答えた。見た目には左腕に弱ったディアを抱える心優しき戦士なのに。内心では世界のことなど、どうなろうとかまわないという復讐心が渦巻いているようだ。
「なぁ、ルディ。お前は竜と何か関係があるのか? ……いや、あるよな」
ラズリの深紅色の左目がルディを見据える。それは獲物を見つけた蛇のように瞳孔が縦長になっていた。
「俺は竜の気配が、なんとなくわかる。お前が竜に近い、もしくは近づいたことがある存在だというのは初めて会った時からわかった。だから別れたとしても、いずれまた会うと思っていた」
ラズリの目が怖い。見た者を萎縮させる目。
自分を見下ろすその存在に、今まで抱かなかった恐怖心を抱かずにはいられない。
「……お、俺が、竜に近かったら、どうする気だ」
「どうするか……?」
竜を憎むラズリ。その竜を知っている――わけではないけど、そう思われているならば。
自分はラズリにとって、なんなのか。
「――クシュン」
その時、この緊迫した場に似合わない小さなクシャミが聞こえた。それが聞こえたのはラズリのマントの下、彼の腕に抱かれているディアからだ。
思わずルディとラズリは目を見合わせる。確かに落ち着いて考えると辺りは寒い。自分もラズリも長袖ではない衣服だが、なぜかお互い寒さを感じて
いないようだ。
だが小さな存在は寒いだろう。他の二人は凍りついてしまい、何も感じることはないが。
「……この子達を先に助けよう」
ラズリはディアを気づかうように持ち上げると凍った足元に注意しながら先に進み出した。
ルディも慌てて後を追う。
追いかけながらラズリの優しさに、さっきまでの殺伐さが嘘のように感じた。
(ラズリ、あんたは……優しいのか、それとも)
ラズリが竜を憎むのは当然だ。大事な思い出となるものを滅ぼされたのだ。
竜……この世界の大事な存在であるはずなのに、こうも疎まれるなんて悲しすぎる。
自分が竜だったら生きているのがつらくなると思う。そして竜の力なんていらないと望むだろう。
ただこの世界で静かに暮らしたいのだから。
『ルディ』
「……え?」
ふと誰かに呼ばれた気がした。
しかしラズリは先を歩いており、自分は離れた位置をゆっくり考えごとをしながら進んでいる最中だ。ディアの力はかなりのものらしく、この山一体を氷で包んでしまったのか、行けども行けども地面は凍り、吐く息は白かった。
『ルディ』
また聞こえた。寒い世界で音もないから呼び声がハッキリと聞こえる。
『……こっち来いっつーの!』
いきなり乱暴な命令口調。こんな話し方をしてくるのは身近に一人しかいない。
「リカルド……?」
こんなところに? 一体どこに?
そう思って周囲を見回していたら、足元に転がっていた手の平サイズの岩にピョンと何かが乗った。
「リカルド……え?」
足元にいる存在はジッと自分を見上げている。リカルドと同じように青い髪がツンツン尖った様子に小さな眼鏡、寒いのか小さな緑色のポンチョを着ている。
それはリカルドのようでありながらも、いつもの彼ではない異様な存在だった。
『んだよ、俺がわかんねぇのか、トロくせぇヤツ』
「わ、わかるわけないだろっ! いつも化けて人里に降りてくるって言ったけど、まさかそれかっ⁉」
『おう、かわいいだろ。この姿だと色々食い物もらえんだぞ』
「……かわいい……お、お前が、かわいい……でも色が変だし……青いし、眼鏡かけてるし」
色々ツッコミどころが多くてどうしたらいいかわからなくなる。とりあえず足元にいるのは正真正銘、あの性悪の光の魔法使いらしい。
だがその姿は全身の毛色が青い、長い尾を揺らすネコだった。
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