隠されていた深紅色の瞳、その正体とは
第21話 山へゴー!
ルディはお気に入りの赤いバンダナを引き締め、気合いを入れた。
「今からこの山を登らなきゃならないからなー! みんな行くぞーっ」
真っ直ぐ、真上へ続く岩肌の道。土の成分が悪いのか草木が全く生えないこの岩山だが、山を登って降りた麓には湖があり、そこには不思議な実のなる木々があるという。
その実はとても美味であり、栄養価も高くて美に磨きをかけたい者なんかは大金を出しても手に入れたいものらしい。
『その実、美容だけじゃなくてとってもおいしいみたいなんです! 新しいパンの材料に一度してみたくて! なんならその実をランスで栽培できないかななーんて考えてるけど、それはまぁさておき! ねぇ、ルディさん⁉』
リカルドの使いでいつも通り、ランスにあるパン屋――ココ屋を訪れた時、元気印の獅子獣人サリは目を輝かせて言った。
『私、常連の冒険者さんから青い石をプレゼントにって、もらったんです! これってルディさんがよろず屋さんで探していた魔石ってやつじゃないですかね! よかったら差し上げますけど、ちょっと私のお願いを、よければ聞いてもらえないかなーと! ねぇ、ルディさん⁉』
サリに“お願い”がなんなのかを聞いてみると、そんな感じだった。
かくしてピア達を連れ、自分は山登りをするハメになってしまった。
「ルディ……山、結構きつそうなんだけどぉ」
気合いを入れたルディの後ろでは三人の子ウサギ達の耳がしょんぼりと折れ曲がっている。末っ子のニータなんか完全に両耳が垂れ下がっている。
「ボク、体力は自信ないんだよ……ねぇ、ピアとディアで行ってきてよぉ」
ニータの弱気発言に怒ったのはもちろん二番目のお兄ちゃんだ。
「情けないことを言うな。お前ははぐれるとまたヒトに捕まるぞ。しっかり歩け」
「もう捕まらないよぉ〜」
グダグダする二人に気合いを入れようとピアはピョンと元気良く跳ねた。
「ほらほら、二人とも。サリお姉さんの手伝いしたら、またおいしいパンを作ってくれるって言っていたよ! だから頑張ろっ」
ピアはルディにしか聞こえない声で「お母さんのためにもなるんだからね」と言って楽しそうに笑う。それはずっと会えていないお母さんに会えるのを心待ちにしている子供の顔でもある。
(……そうか、魔石を集めればリカルドがピア達のお母さんを――)
というわけでそんな大事な目的を達成するためにも山登り開始だ。厄介なモンスターも出ない安全な山なので傾斜がきついのをのぞけば、ひたすら登り続ければ目的の湖にたどり着くことはできる。
しかし登って小一時間が経つ頃には体力少なめの子ウサギ達はゼエゼエハアハア状態だった。こういう時にリカルドの転移魔法とか使えれば〜とか思われるかもしれないが、自分の目的がないと魔法を使わないのがあの魔法使いのずるいというか、真っ当というか。
「大丈夫か、ニータ……あれ、ディア?」
ふと一番後ろにいるニータがまたはぐれたら大変だと思い、ルディは後ろを振り向く。
しかしそこにいたのは青帽子のディアだった。ニータはというと、ピアと並んでわりと元気に歩いている。
「ルディ、ホントはね、ボク達の中で一番体力ないのはディアなんだよー」
ニータは困ったように笑って言った。こう見えても少しは体力があるんだよ、と言いたげな笑みだ。
一方、ディアは普段の強気な言葉も吐けないようでピンク色の鼻に汗をかき、ベージュ色の毛に覆われた眉間にシワを寄せている。
「……なんだよ、文句でもあんの?」
「いや、ないけど……」
思わず「おんぶしようか」と言いたくなったがプライドの高いニータにそんなことを言えば魔法で水をぶっかけられる。
「ディア、あの、きつかったら言ってくれ?」
「……心配すんなよ。こっちはこっちでなんとかするからさ……」
なんとか吐き出した強気な言葉に(なんとかなるのかなぁ)と思ったが、やはりプライドがあるから突っ込まないでおこう。
“なんとかする”
つい最近、誰かもそんな言葉を言っていた。
『お前はそれでいい。俺がなんとかする』
この言い方は、リカルド……?
なんでそんな言葉を言われたんだっけ。
昨夜、竜が住んでいたという青の岩場に囲まれた湖で竜の話を聞いていたら、ハロルドが襲ってきて。
ゴーレムに取り込まれかけた俺をリカルドが助けてくれて。
リカルドに最後の竜のため、片竜を復活させるためにピア達と魔石を探し出せと言われたんだ。
そうすれば虹色たまごと引き換えに、ピア達のお母さんに会わせてやれるから。
(……ピア達のお母さんって、なぜいなくなってしまったんだっけ。何かあったような……それに最後の竜について俺は何か重大なことを聞いたような気がしたけど、それって――)
ルディは歩きながら首を傾ける。
頭の中がモヤモヤする。何か大事なことを忘れている気がするのだが、思い出そうとすると、何かがそれを引っ張るみたいに、また思い出せなくなってしまう。
(……俺は、何か、忘れて、いないか?)
ピア達に言えない、何かを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます