第7話 ニータが消えた
「カッコイイ冒険者、か」
ポツリとつぶやくと、後ろを歩いていたピアがピョンと跳ねて隣に並んだ。
「ルディも冒険者なんだよね?」
「俺? うーん、俺はどうだろ。たまに離れた土地とか仕事で行くことはあるけど、別に冒険するわけじゃないしな。もっぱらリカルドの手伝いばっかりしてるな、居候してるし」
今度はピアとは反対側に青帽子のディアがピョンと跳ねて並んできた。
「でもお前、剣は携えてるじゃないか。剣術はできるんだろ」
「剣術は、あー、まぁまぁかな……護身ぐらい。俺は別に剣士になりたいわけじゃないし」
「ずいぶん、グダグダだなぁ、お前って何がやりたいわけ?」
「ディア、口の聞き方が悪いよ!」
ディアはピアに怒られても鼻を鳴らす程度だった。
「はは、大丈夫だ、口の悪さならリカルドにはかなわないからな。そうだなぁ、俺はただ静かに生活していたいだけなんだよな」
「なんだ、それ」
ディアは拍子抜けしたように目を丸くした。
「ヒトって欲張りじゃん、もっとないのかよ。有名になるとか金持ちになるとか」
「ディア、言葉っ」
トゲのあるディアの態度に、さっきからピアは慌てっぱなしで、ちょっとかわいそうだ。別に気にしなくても大丈夫なのに。
それより、ディアはヒトに何かされた過去でもあるのだろうか。ディアのヒトに対する嫌悪をひしひしと感じる。
だが今はそれを聞いても教えてはくれないだろう。ならディアがいつかヒトに対して嫌悪を抱かなくなるようにヒトの見本になればいい……自分なんかで、なれるかは、わからないけど。
「俺さ、小さい頃とか、ほとんどの記憶が全くないんだ」
左右を歩く二人の子ウサギ達が「えっ」と両耳を立てる。
「いつからこの国にいるのかもわからない。ただこの国で知り合ったヤツらは俺にいつも優しくしてくれるんだ。さっきのサリもその他の獣人もヒトも……みんな優しい。リカルドも態度はあんなだけど、いつも俺を助けてくれるんだ」
記憶が断片的だが。雨降る森の中をさまよっていた自分を、リカルドは自宅に連れ帰ってあたたかいスープをくれ、あたたかい寝床も用意してくれた。それは今でも覚えている、その時の胸があたたかくなる感覚。さびしい、寒いと沈んでいた気持ちが――一気に嬉しい、幸せだと感じて身体が震えたのだ。
ヒトの思いやりというもの……とても嬉しかった。
「まっ、ピア達が来てリカルドがとんでもないジジイだってのは判明したから、リカルドは“一般的なヒト”ではないんだろうけど。なんでもいい、あいつは俺にとって家族みたいなものだからと、俺は勝手に思ってるから」
思いを伝えると、ピアは「うん」と笑みを浮かべ、ディアは視線を地面に向けて黙ってしまった。
人の流れを避けながら、ふとルディは前に視線を向ける。
前方からこちらに向かって冒険者が歩いていた。なんのことはない、よくある光景だ。冒険者は手前で横にそれ、ただすれ違っただけだ。
(……ん、今のヒト)
緑色の麻のフード付きマント、その下に左目を覆うように黒髪が流れ、腰には短剣を提げ、袖なしの衣服からは筋肉質の日に焼けた腕をのぞかせていた、
『ホント、カッコイイヒトだったんですよー!』
サリの明るい声を思い出し、ハッと後ろを振り返ったが、すれ違った冒険者はすでに人混みにまぎれていた。
今のヒトが、サリが気にかけていた冒険者では……確かに不思議な印象だ、別に一般的な冒険者と変わりはないのだろうが、ちょっと雰囲気が違うと思うのはサリに『カッコイイヒト』と念押しされたからだろうか。
(確かにカッコ良かったけどな)
再び前を向き、歩こうとした時だ。ピアとディアが「あれ?」と二人でキョロキョロし出した。
その様子を見てルディも気づいた。
「ニータ、ニータがいない⁉」
緑帽子のニータがいなくなっている。
二人は隣に並んで話をしていたが、ニータだけは後ろを歩いていたと思っていた。
「ニータッ! ニータッ!」
小さい身体では追いつけなかったのかもしれない。小さい子を連れ慣れていない自分のせいだ。
ルディは来た道を引き返し、ニータの名前を呼びながら探した。道中、店を構える商人にも聞き込みをしたが、ニータは見つからず。
「な、なんでだろ、ニータの気を感じられない、近くにいないのかな」
ピアは魔法使いとして他者の気を感じられるのだが、ニータの気が感じられずあせっていた。
「いくらオレ達でも離れ過ぎてるとわかんないんだよっ! くそっ、ニータ、もしかしてまたヒトにっ」
ディアが苦しげな表情を見せる。その苦い過去を思い出すような様子で、ルディは合点がいった。
「もしかしてニータは過去にも?」
顔を背けたディアの代わりに、ピアがコクンと両耳を揺らした。
「ニータは前にもヒトに誘拐されたことがあるんだ……その時は犯人を捕まえて、こらしめてやったんだけど」
ディアがヒトを憎む理由はそれなのかも。ルディが「なんで……」と口にすると、ピアも苦しそうに答えた。
「獣人の子供の魔法使いは高く売れるんだって……僕達は元から魔力が高いから、わかるヒトにはわかるみたいで狙い目なんだって、前の犯人はそう言っていたよ」
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