第3話 傲慢で性悪な光の魔法使い
「おいおい、誰が俺様の家に客を連れてきていいと言った?」
聞き慣れた冷淡な声が床に伸びる自分の真上から聞こえる。
「俺様の家にはお前以外のヤツは絶対に来させねぇって前に言ったよな? 死にかけたヤツだろうが病人だろうが乞食だろうが誰も連れてくんなって言ったよな?」
「うぅ、ててて……っくそ、容赦ないヤツだな、全くっ……!」
ルディは頭部の痛みをこらえ、フラフラと立ち上がる。周囲は相変わらずの暗闇で何も見えないが相手は近くにいるはずだ。
「まず人の話も聞けよなっ! 連れてきたのはワケアリの小さい獣人の子供達で、俺の命を助けてくれたんだよ! お前の力を借りたいんだってのに追い返せるわけないだろっ!」
「なんだ、お前、十七歳のいい年してガキに助けられたのか、なっさけねぇ」
「う、うるさいなっ! しかたないだろ、大鬼ヤシの木から足が滑ったんだから! 危うく死にかけたんだぞっ!」
「んで、俺様が言った大鬼ヤシの実は手に入れてきたんだろうな。あれがねぇと実験が進まねぇんだわ。あるんだろうな、あ?」
問い詰めてくる口調にルディが「あー……」と言葉を濁すと、視界が切り替わるように明るくなった。
目の前では先程暗闇から浮かんだ男の顔が不機嫌そうに眉をひそめていた。
「言ったモンは持ってこないで余計なガキ共連れてくるとは良い度胸だな」
尖るように上に向いた青い髪の下にある表情が今度は不敵な笑みを浮かべる。メガネの下にあるツリ目がちな青い瞳はとても綺麗なのに「クソだな」と男は口汚く罵る。
自分よりも背が高い緑色のローブ姿の男の名前はリカルドという、とても性悪な魔法使いだ。
「ルディーッ、大丈夫⁉」
突如、閉められていた扉が開け放たれ、室内に三人のウサ耳がヒョコヒョコと現れた。
モフモフした両手にはそれぞれ魔法使いとしての得意属性を宿しているのか、赤帽子のピアは揺れる火の玉を、青帽子のディアは渦巻く氷の粒を、緑帽子のニータは緑色の光の玉を両手に準備し、リカルドに向けていた。
「ちっ、なんで扉を開けられるんだと思ったら魔法使いか。しかもなかなか魔力が高いじゃねぇか、チビのくせに」
リカルドは子ウサギ達に向き直り、ローブの裾を揺らして左手を前に伸ばした。
それはリカルドが魔法を放つ時の態勢だ。見ている光景としては……これじゃあ邪悪な魔法使いに立ち向かう子ウサギ勇者達の図だ。
「リ、リカルド! やめろ! 相手は子供だぞっ!」
慌ててリカルドと子ウサギ達の間に入ろうとしたが。リカルドは対象に魔法を放つ時は一瞬なのだ、止める隙がないのだ。
開かれたリカルドの左手が素早く握られる。
「やめろぉっ!」
ルディは身を挺して止めようとした。
すると開かれっぱなしだった木の扉が音を立てて勢いよく閉まった。
「外の風が寒いんだよ! 扉はちゃんと閉めろ! あと家の中で魔法は絶対使うんじゃねぇぞ! 室内を荒らしやがったら全員実験台にしてやるからな!」
「……」
そんなこんなで全員で丸い木のテーブルを囲み、ルディが淹れたハーブティーを木のコップで飲みながら、子ウサギ達の事情をリカルドに説明した。
一方、子ウサギ達には『リカルドは口が悪くて乱暴で粗雑でどうしようもないが、性根は腐っていない光の魔法使いだ』ということを説明すると。
三人は両手にコップを持ったまま、目を見合わせていた。
「光の魔法使いリカルドって……あ、あの有名な魔法使いのことじゃない! わぁ、まさかここで会えるなんて思いもしなかった!」
ピアの歓喜の言葉を筆頭に他の二人もワイワイ騒いでいる。
その様子を見たルディは少し離れた位置に座るリカルドに視線を移した。
「……お前って、有名なの?」
「ふん、魔法使いの間では伝説扱い的になっているみたいだ。最近は世の中に姿出さねぇからよ、ヒトの世の中じゃあ忘れられてるかもだけどな」
初耳だ。よくこの森の近くにあるランスという国や近隣の町村に仕事や野暮用で出かけたりするがそんな噂は聞いたことなかった。確かに色々なことに詳しいし、魔法もなんでも使えるみたいだけど。
「リカルド、お前が結構なジジイの年齢だってのは知ってるけどさ」
「失礼な言い方だな」
「お前って一体何歳が正解なの?」
リカルドは鼻で笑うとハーブティーを一口飲み「知らね」と言った。
そこでピアが耳をピンと立てた。
「リカルド様は創生の時代から生きる存在とも言われているけど、知識の量からして五百歳ぐらいじゃないかって言われているよ」
ルディはリカルドを見て叫んだ。
「五百歳っ! 予想以上のジジイじゃんか!」
「ルディ、てめぇのこと、今すぐ魔法で半魚人に変えてもいいんだぞ」
「……半魚人はやだ」
ケンカ腰のリカルドにピアが「まぁまぁ」と声をかける。さすが長男、相手が性悪魔法使いでもケンカの仲裁は得意なのだろう。
「すみません、そんなリカルド様のお手を煩わせて申し訳ないのですが。僕達のお母さんの気を探ってはもらえないでしょうか、この近くにいると思うんです。僕達はお母さんとまた里に帰って里を復活させ、一緒に暮らしたいんです」
「里の復活?」
不穏な言葉にルディが反応すると、ピアの両耳がさびしそうに折れ曲がった。
「僕達は何不自由なく平和に、ここから離れたとある森の中で暮らしていたんです。けれど約一年前、森は焼かれてしまったんです。空から突然飛んで現れた赤い竜の炎によって」
リカルドの眉がピクッと上に動き、一方のルディは言葉が出なくなった。
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