10.Style.

 「いま、何て言いました……?」

またしても朝食の席にひょっこり現れた十条が、お天気の話でもするように切り出した話に、ハルトは冷蔵庫から牛乳を取り出そうとしていた手を止めて振り向いた。

「ベレッタが消えたんだってえー……」

十条はテーブルに両肘をつき、女の子みたいに顎を乗せてぼやいた。70丁も?聞き返したハルトに、彼にしては深刻そうな顔で頷く。

「ミスター・アマデウスの元で受け取ったのは、ベレッタの積み荷じゃなかったそうだ。でも、運び人は確かに彼の部下で、彼もその筈だったと言ってる」

「ディックに担がれたわけじゃないですよね?」

此処にディックが居たら、あっさり疑ってかかるハルトにひどい!と叫んだに違いない。

その可能性が低いのはハルトも知っている。周囲に振り回されて見えるが、ディックはやり手の武器商であり、その道のプロである。騙し騙されるなど珍しくも無い世界のこと、こんなにわかりやすい爆弾を背負いこむのは有り得ない。十条も首を振った。

「ディックが企むにはリスキーな計画だよ。ディック本人も割に合わない。今回の件で基地関係者にも相当払ってるだろうし、ご自慢の改造アウディも穴空いちゃったんでしょ?顧客のひじりさんを怒らせても良いことないしさ……アマデウスさんには絶対に貸しを作りたくないだろうし」

ディックは聖に70丁分のクレジットは返却したそうだが、あのイカレ支部からマークされたのは間違いない。彼の職務上、そう安易に代わりは居ない為、殺されることは無いだろうが。大っぴらなツケや値引きに悲鳴を上げそうな顔をハルトが思い浮かべていると、十条は机を意味も無くなぞりながら呟いた。

「一番可哀想なのは、病院送りになった運転手さんと千間せんまくんかな」

「あいつはまあ……仕方ないでしょう。自業自得です」

「ハルちゃんは殺し屋には厳しい」

例の優しい顔で微笑まれて、ハルトは微かに硬い声を和らげた。

「聖さんは――こっちに何も言って来てないんですか?」

千間は強襲がこちらの仕業と知っているし、怒り心頭に決まっている。聖の武装の規模は知らないが、いきなり店を爆撃されても驚かない。

「これまでも、女王様から直々にお電話を頂いたことはないんだ」

コワいよねえ、と面白そうに笑うと、十条はやれやれと首を振った。

「ともかく、行方は探さないと。海外に行ってくれればまだしも、国内に残っていると思うと、僕もおちおち眠れないよ」

「……そうですね」

弾丸の入手先はともかくとして、ベレッタが70丁もあれば、少人数でも一波乱起こせる程度の武力になる。銀行強盗程度なら可愛いものだが、目的次第では後手になる日本のこと、被害者が何人出るかわからない。

「まだしばらく店閉めないと駄目かなあ……」

などと十条が言い掛けた時だった。

玄関に新聞を取りに行っていた未春が、すたすたと戻ってきた。

「十条さん、ハルちゃん、これ」

未春が示すのは、毎朝届けられる新聞の山だ。テーブルに扇状に広げると、殆どの一面に掲載されていたのは、『女子高校生、銃殺』の黒字だった。

結論は急がない派の上司も、すぐに電話を掛けていた。

「――どうも、アマデウスさん――はい、ええ……見ましたか」

話しながら新聞を数冊とって、自室のオフィスに消えていく彼を見送り、ハルトと未春は残った一面を揃って眺めた。


〈『女子高校生、銃殺』――昨夜、東京都K市の住宅街にて、付近に在住の高校生『左子さこえみか』さん(17)の遺体が発見された。付近では発砲らしき音を聞いたという情報や、争った形跡はなく、警察は何処かで射殺された後に運ばれたとみて捜査している〉


「K市って、ここからどのくらいだ?」

「場所によるけど電車で20分ちょい。車だと30分以上が目安」

「近いな。今回のベレッタだと思うか?」

「わからないけど……この子、ラッコちゃんと同じ高校みたいだよ」

「げ……マジか……!」

たちまち、嫌な予感が胸に広がる。さて、ハッピータウンとやらは何処のことだったか?

「電話してあげれば?」

「ったく……この時間なら、まだ自宅か?」

短い逡巡の後、ハルトは電話を掛けてみた。待っていたかのようにすぐに電話は取られる。

〈もしもし、ハルちゃん?〉

「ラッコちゃん? 早くからごめん。いま大丈夫?」

〈大丈夫。どしたの?〉

さすがは殺し屋志望か、思ったより倉子は落ち着いていた。

「いや、新聞見て。同じ高校の生徒が殺されただろ……?」

〈ああ……うん、……ハルちゃんたちと関係あるの?〉

「それは――わからない……もしかして、知ってる子?」

〈……同級生。クラスは別だし、仲良くはなかったけど……〉

倉子は何か躊躇っているようだった。一旦、移動するような気配をさせた後、殊更に声を潜めて言った。

〈……ハルちゃん、亡くなった子ね、いじめっ子グループの中心だったの〉

「えっ?」

〈この子に主にやられてたのが……瑠々子なの〉

不気味な情報に、ハルトも顔をしかめた。

「彼女に……連絡した?」

〈したけど、電話でなくて。メールや通話アプリにも返事がないの。家の電話までは知らないから、学校で会えればいいんだけどさ……今日は自宅待機になっちゃったから――〉

「そっか……わかった。学校行くときは気を付けて。彼女も――深追いしない方がいい」

心配だったが、恐らく学校側からも連絡が回されるだろう。日本は何かと手薄だが、銃が関わったとなれば最低限の警戒ぐらいはできる筈だ。

〈ありがと、ハルちゃん。……さららさん、どうしてる? お店はまだ無理そう?〉

「あー……うん。警察は引き揚げたけど、十条さんも落ち着かないし、さららさんもまだ来られないみたいだ」

〈早く行きたいなあ。今日とかホント行きたいよ。大丈夫になったら連絡してね!〉

応じてから電話を切ると、未春がハムと溶けだしたチーズを挟んだホットサンドを皿に置きながら言った。

「ハルちゃん、リッキーにも電話してくれる?」

そう言ってスマートフォンで示される記事は、大学生の銃殺事件だった。



 メディアはひっくり返したような騒ぎになった。

無理も無い。東京都内10ヶ所の中・高・大学で起きた銃殺事件を放置できるなら、日本はそれこそ超ゴキゲンな国だ。テレビはひっきりなしにこのニュースを流し続け、マスコミは元警察官などを招いて、予測と憶測だけの推理を論じ始めた。

犯人は捕まっていない上、目星も付いていない。発生時刻と場所からして、車を使えば何とか回れる上、使われた拳銃が一丁だったのか、最大数の十丁だったのかもわからない。警察が弾丸の種類など報じる段階ではないため、DOUBLE・CROSSの時と同じなのでは、とか、未解決事件の同一犯では、大規模テロではなどと、テレビやネットではまことしやかな噂が飛び交った。

「ととととりあえず! 落ち着こううううー!」

あんたが落ち着け!と、いつかも思った一言を胸に吐き、ハルトはリビングに戻って来るなり大声で吃音を発した上司を見上げた。

「十条さん、アマデウスさんは何て?」

「『ハッハッハ!出張中の私にわかるわけないだろトオル! それよりベレッタ早く探してくれ!』って言われた……」

しょぼくれる男を呆れ顔で見て、ハルトは数回頷いた。

「……そんなことだろうと思いましたよ。落ち着くのはいいですけど、何もしないんですか?」

「……だってねえ……一番怪しい聖さん疑うのコワいじゃないか。千間くんに怪我させたのは君たちだってバレてるしさ……」

70丁を聖が確保している可能性は低いが、ディックの話が事実であれば、ベレッタ30丁が彼女の手元にあったのは間違いない。暴力団やテロという机上の可能性を排斥するなら、言うまでも無く最高に怪しい。

「じゃあ、俺がセンター・コアを調べてもいいですか?」

虎の穴に入ります、と同等の面倒臭そうな発言に、十条はハルトを驚いた顔で見た。

「ハルちゃん……ホントかっちょいいねえ……007みたい」

惚れそう、などという上司に心底嫌そうな顔を返して、ハルトは首を振った。

「……その代わり、単独でやります。この件が聖さんと関係あるのか確かめるだけ。追及はしません。アマデウスさんにも言わないで下さい」

「いいけど、一人で大丈夫? 未春連れてけば?」

十条の言葉に、いつもの無感動な視線を送って来る青年だが、にわか007は首を振った。

「未春まで連れて行くと向こうが構えます。幸い、今なら千間も居ません。虎の穴を探りますが、虎狩りに行くわけじゃありませんから」

「……わかった。じゃあ僕の車使う?」

「いえ。十条さんが噛んでいないと見せた方が都合いいんで、ディックに適当なの借ります。相棒だけ携帯させてもらえませんか」

徹底的に単独で行くつもりらしい青年に、十条は幾らか不安そうに頷いた。

「いいよ。こういうことは、エリート出身の君の方が詳しそうだ。任せるよハルちゃん。気を付けて行って来て」

「了解です」

未春を見ると、彼はやはりいつもと変わらぬ様子で、目だけゆっくり瞬かせた。



 アポイントを取るのは難しくなかった。ディックが一枚噛んでくれた分、聖のオフィスの受付嬢は、ハルトが電話越しにBGM内で呼ばれているあだ名を名乗ると、よく存じている風で取り次いでくれた。次に出たのは凄みの有る低い声の男だったが、口調だけは丁寧に応じてくれた。

「一人でいらっしゃいますか?」

「いや、二人です」

「……同業者ですか?」

「いえ、丸腰の一般大学生です」

殺し屋の珍妙な申し出に、男は少し戸惑った様子だった。隣に誰か居るのか、微かに話し合うような気配の後、すぐに了承した。

「……かしこまりました。明日、午前11時に一階の受付でお名前をお伝えください。係の者がご案内致します」

非常に事務的なOKをもらった後、ハルトは『丸腰の一般大学生』に電話をした。

――斯くして、葉月力也は予期せぬ悪の巣窟へと向かうことになったのである。

「セ……センパイ、すごいトコっすね……!」

きょろきょろする力也の肩をトン、と叩いてハルトは笑った。

「リッキー、緊張してもいいけど、胸張って歩いて」

「り、了解ッス……!」

堂々としていればそれなりに見える力也だが、慣れないスーツを着込み、ガチガチに緊張している。通りすがりの一般職員たちにくすくすと微笑まれる青年を伴い、ハルトは意気揚々と高級絨毯の上を歩いていた。

靴を履いていても厚みを感じる絨毯が敷き詰められたそこは、都心に位置する有名ホテルの上層部だ。オフィス街である周辺にはタワー・ビルが立ち並び、商業施設が溢れかえる好立地である。午後の光を燦々と浴びるこの場所に、日本最大の悪党の巣窟が存在するなど、誰が想像できるだろう。

「こちらに」

案内に立ってくれた男は、電話の男らしい。敵意さえ感じる鋭い目をしていたが、物腰は低姿勢で、足元から髪に至るまできちんと整っていた。テレビドラマで見るようなヤクザ者を想像していた力也は少し拍子抜けしながら、一流ホテルマンのように規律正しい男の背を見つめた。

「不肖ながら、ひとつお願いがあるのですが、宜しいでしょうか」

男の肩越しの問い掛けに、力也はぎくりとした。

さては、腕一本や内臓――いきなり命が欲しいなどと言うのか?

思わず身構えそうになる背を、ハルトが幼子にするようにトン、と叩いて男に笑い掛けた。

「何でしょう?」

「後程、サインを頂けませんか。ホルスターで構いません」

――ホルスターってなんだっけ?

力也がそんなことを考えていると、ハルトは苦笑いを浮かべた。

「手入れのとき邪魔じゃありませんか?」

「構いません――注意を払います。その命中率にあやかりたいもので」

「恥ずかしいあだ名の方ならいいですよ」

男は満足そうに頷いた。なんだか知らないが、ハルトは有名人らしい。

さすがセンパイ、と誇らしい気持ちになりつつ、やがてひとつの部屋の前に辿り着くと、男はドアを手で示して頭を下げた。

入口には、米大統領の脇に立っていそうな屈強な男が立ち、やはり同じように若い来客二人をじろりと見たが、すぐに扉を開けてくれた。

ハルトは愛想よく笑うと、開けられた扉から力也を押しやるように入室した。その後ろから最初の男が静かに入室し、扉を閉めた。静かに閉まった扉に力也がびっくりして振り返るが、ハルトは前に座っていた女性に丁寧に一礼した。

「こんにちは、聖さん。お時間を取って下さってありがとうございます」

女王の風格で紅茶色のチェスターフィールド・ソファーに腰掛けていた女性は一人だった。

BGM内でもやばい殺し屋ばかり抱える、センター・コア支部代表・聖 茉莉花まりかは、今日は白地に銀や青の糸が交錯するジャケットを纏っていた。知らない人間からすれば、敏腕女社長といった風格だ。白いシャツにまろやかな艶のあるシルバー……もしかしたらプラチナかもしれない――ネックレスを垂らし、『魔女』の形容がぴったり似合う笑みを浮かべている。

「『ハル』だったわね。今日は貴方が可愛い坊やを連れているのね」

「ええ、まあ。後輩です」

肘で小突くと、力也はぎぎぎ、と、出来立てのフランケンシュタインのようにお辞儀をした。聖はそれを見て鼻で笑うと、手前の席を柳のような手で示した。

「どうぞ、お掛けなさい。例の銃殺事件の件で来たのでしょう?」

「話が早くて助かります」

力也は座るのももどかしげに、見たこともない飴色の革張りソファーに座った。

悪の親玉の前に居る――そう思うと、心臓も呼吸器官も落ち着かない。おまけに、さっきの男も視界の端で睨みを利かせている。

『銃殺事件の件で殺し屋支部を訪ねる』とハルトに連絡されたとき、力也は本気で嬉しさに胸が高鳴った。きっと、こいつらが犯人なのだろう。同じ大学でも、一人銃殺されている。あの国見という学生をいじめていた連中のリーダー格だった金髪の学生だ。あの日、力也は学生相談室にそれとなく情報は伝えたものの、国見本人からの相談は無かったらしく、対策らしい対策は打てなかったらしい。銃殺された学生は、どうやら国見以外にも、後輩から金を無心するような悪評のある男だったらしいが、それでも拳銃をばら撒くなど以ての外だ。ヒーロー思想の力也からすれば、ラスボスのように見える美女は、悪役として素晴らしい風格だった。隣のハルトが落ち着いていることに、興奮と感動でいっぱいになりつつ、二人の会話に耳を傾ける。

「千間さん、どうしてます?」

「ギムレットなら、利き腕を七針縫って、足を吊っているそうよ。今頃は、ベッドで針千本研いでいるでしょうね」

上等のソファーに体を預け、聖は年齢不詳の白い顔で含み笑いをした。怪我人の話題とは思えないほど気楽な顔に、ハルトも似たような笑顔を返した。

「それはお気の毒に。早く良くなるといいですね」

「余裕だこと。アマデウスが『フライクーゲル』と呼ぶだけのことはあるのかしら」

――フライクーゲル?

聞き慣れない単語に力也は首を捻った。どうやらハルトの事らしい。意味はわからないが、カッコいい。

「そのあだ名、恥ずかしいんでやめてくれませんか?」

本当に恥ずかしそうに言う青年に、聖は口端を歪めただけで応じると、脇に置いていた中身が見えない薄いファイルをテーブルに置いた。

「これは貴方の上司に渡しなさい。見ればわかるわ――ウチが無関係なのは」

えっ、と腰が浮きそうになる力也をハルトが肘で小突き、ファイルを取って頭を下げた。

「ありがとうございます。コレ、俺は見ない方がいいですか」

「構わないわ。好きに確認なさい」

状況が呑み込めずにおろおろする力也だが、怪しさ爆発のファイルは気になる。ところがちらりと見たそれは、学校で配られるお知らせみたいな字面だった。ドラマで見るような怪文書でもなければ、秘密文書らしき様子も無い。ちょっとがっかりしていると、改めてトントン、と叩かれた。大人しくしていなさい、とでも言うように。聖はその様子を薄笑いで眺めている。ハルトはほんの一、二分でファイルを閉じ、聖に向き直った。

「ところで聖さん、ミスター・アマデウスとは連絡取りましたか?」

「ええ。電話だと『忙しい』しか言わないわね、あの男」

小馬鹿にするように呟くと、聖は足を組み替え、少しだけ身を反らした。

「それで、貴方の要件は?」

「10年前の件で御伺いしたいことがあるんですが」

聖は切れ長の目を細めただけだった。その目がちら、と力也の方を見て、青年はぎくりと身を震わせたが、女は唇を歪めたのみで何も言わなかった。

「それは、上司の過去を知りたいのかしら?」

「どちらかというと、亡霊ファントムに興味があります」

亡霊? 力也がきょとんとする中、聖はにこりともせず、静かにソファーにもたれた。

「それを知って――どうするつもり?」

そのセリフは、秘密を囁くようでもあり、呪いを呟くようでもあった。

「さあ……古巣の匂いがするんですよ。漠然と、不快な気分になる場所のね」

力也は不思議そうにハルトを見た。彼はまるで、本当に不快な匂いを感じているかのような顔をしていた。無論、そんな香りは全くしない。目の前の聖から香るらしい、大人の女性に感じる花のような匂いが漂うだけだ。

「古巣を見つけたら、踏み潰しそうな顔だわ」

フフ、と聖は笑った。

「亡霊という名前からして、かつての東京支部に居た人間か、その関係者ですよね?聖さんはご存知だと思ったのですが」

「私が知るのは今のセンター・コアだけよ」

目許を笑ませた聖の答えに、短い沈黙の後、ハルトは頷いた。

「わかりました。要件はそれだけです」

そう言ったところで、隣の力也は急に空気が軽くなった気がした。わけもなく、ほっとする。何だろう、さっきの胸が詰まるような空気は。10年前、亡霊、古巣、東京支部……

ちっともわからない単語を力也が胸に唱えていると、聖がとろりと口を開いた。

「では、私からも宜しい?」

「はい、何でしょうか」

「貴方をフライクーゲルと見込んで、ひとつ仕事を頼みたいのだけれど」

「BGMの仕事なら、十条さんを通して頂ければ何なりと」

「いいえ、私の事業の方よ。アメリカ・ネバダ州のシークレットエリアと言えば、貴方には懐かしいでしょう?」

不意に力也は背筋がぞっとした。先程よりも明確に、ハルトの表情が変わっていた。いや、傍目には温和なままだったが、何か――得体の知れない冷たいものが、目の奥にあると思い、慌てて視線を逸らした。無意識に拳をぎゅっと握っていると、ハルトが霜を吐くように喋った。

「まさか、そこに行けと仰いませんよね?」

「安心なさい、場所は日本。“あれ”を知る貴方に、私の施設を見学に来て頂きたいの」

施設、という言葉に、ハルトの怒気はいや増した。

「……俺を呼んで、どうするつもりですか」

「来ればわかります。貴方なら」

「野暮な質問で恐れ入りますが、俺がご招待に応じられない場合は」

「フフ……そうね、貴方は断らないと思うけれど――別の人を呼びましょう。フレディ、オイゲン、マンフリー、リチャード……それとも他の人が良いかしら?」

聖の穏やかで滑らかな声が並べる名前を、力也は目をぱちぱちしながら聞いていたが、一人も思い当たらない。有名な殺し屋だろうか?先輩は知ってるのかな……そう思いながらハルトをちらと見ようとして、力也はまた自分の膝に視線を戻した。ハルトは黙って聖を見ていた。

その眼は力也のことを忘れたように聖を見ている――いや、睨んでいるようにも見えた。とても、とても怖い目だ。

怒った時の両親なんて比べ物にならない――怖い目。

「――なぜ、彼らをご存知で?」

話し掛けられたのは聖だったが、力也はぎく、と身を震わした。いつものハルトとは思えない声だ。怒鳴ったわけでもないのに、この声は嫌だ。聞いていたくない。

――先輩、怒ってるんだ。

力也は直感した。きっと、すごく怒ってる。どうしてだろう?さっきの名前が原因か?

「知りたければ、招待を受けなさい」

「……いいでしょう。上司と相談してからご連絡致します」

ハルトは挑むように返答すると、ファイルを手に立ち上がった。いつの間にか恐怖対象がすり替わっていた力也は、慌ててそれに倣った。ハルトは来たときと同じように深くお辞儀をし、どこか呆けている力也の肩を、ぽんと叩く。

「わわっ!」

飛び跳ねそうになる力也に、むしろハルトは驚いたようだった。

「おいおい、どうした?」

苦笑い混じりの声は、いつものハルトだ。力也が不審そうにじろじろ見てくるのに首を捻りながら、困った様に笑った。

「大丈夫か? 帰るぞ、リッキー」

「えっ……センパイ、帰るんスか……!?」

急に目的を思い出したような口ぶりの力也に、ハルトは頷いた。

「そうだよ。ほら、聖さんにちゃんと挨拶して」

「な……なんで!? ぶっ潰さ……――」

「無いって、リッキー。ほら、立って立って」

興奮気味の言葉を遮ると、ハルトは聖に頭を下げた。茫然と立っている力也の頭も無理やり下げさせると、影のように立っていた男に促されるまま、まだ何か言いたげな青年を押してのんびりと部屋を出た。

まっすぐエレベーターに向かうと、ジロッと見てくる男達に会釈しながら、先に立った案内の男が停めているそれに愛想良く乗り込む。すると、落ち着かない顔つきの力也を余所に、男はおもむろにそれを差し出した。よく見る黒い油性マーカーと、もう一方の革製品に力也は目を瞠った。ベルトとポーチが合体したような特徴的な革製品には、真っ黒な拳銃が納まっていた。エアガン……じゃないよな?と、冷や汗を垂らしそうになる傍ら、ハルトは何でもなさそうにペンだけ受け取り、男が示す位置にサインした。

サインは力也には読めない筆記体「Freikugel」だったが、どうやら先ほどの“フライクーゲル”という言葉らしかった。

「ありがとうございます」

男が深々と頭を下げて礼を言い、ハルトはペンを返して照れ臭そうに笑った。

「それ、本物の革? 高価でしょう」

「それなりに」

頷く男に、ハルトは自分の左脇の辺りを叩いて微笑した。

「ぴったり納まるのは良いんですけどね。重いし、夏場は匂うし、手入れは時間かかるし……日本じゃ、ナイロンの方が楽ですね」

愛想のない男は曖昧に頷くと、入口まで同行した。係の者が手際よく運んできてくれた車にハルト達が乗り込むと、丁寧に一礼して見送った。

「やれやれ……」

ファイルをグローブボックスに放ってハンドルを握るや、困ったような笑顔で言ったのはハルトだ。振り向いた力也を、半ば呆れ顔でちらりと見る。

「リッキー、これじゃ30点もやれないな」

「え……さ、30点?」

唐突な点数に目を白黒させていると、ハルトは尚も可笑しそうに続けた。

「大人しくできたから、25点くらいか。違う組織だったら、二人で仲良く地獄行きかもしれないぞ?」

「う……」

その得点か。

「でもセンパイ、なんで銃もあるのにボスと戦わなかったんスか?」

「ボス?」

ハルトは笑った。

「そんなゲーム感覚じゃあ、プロは無理だ」

大きな身を縮ませる力也にやんわり言うと、快調に車を滑らせながらハルトは言った。

「銃は、ボスと戦う武器じゃない。あれは話の通じない変態が居た場合の護身用。BGM同士の戦いは基本的にNGだ。あんなとこで発砲なんかしたら、俺達は脱出不可だろ。意味わかるか?」

「……でも……悪党……ッスよね?」

「俺もそうだよ。それに、此処に何人在籍してると思う?俺のコレで撃てる弾は最大十五発。マガジンはあるが、外れる可能性もあるし、一発で倒せるとは限らない。こっちも撃たれるしな。あのヤバそうなオッサン達、ちゃんと見たか?」

力也は頷いた。立っていた男たちのプレッシャーは、かつて自分を取り囲んだヤクザ者などとは比べ物にならなかった。体力に自信のある力也でも、あの頑丈そうな拳を一発でも食らったら首がへし折れてしまいそうだし、どう太刀打ちするかなど想像でも難しい。

押し黙る力也にハルトは苦笑した。

「何だって、帰るまでが仕事なんだよ、リッキー」

「帰るまで……」

「そう。俺はゲームは詳しくないけど、正義の為だろうが人命の為だろうが『死ぬ』ことを現実でやろうとするな。現実にゲーム・オーバーは無い。コンティニューできないんだから」

「……死んだら、終わりってことっスよね……?」

「わかってるじゃないか」

流れゆく都会の景色を見つめながら、力也は再び口を開いた。

「……センパイ、今日……なんで俺を連れてきたんです?」

ハルトは事もなげに言った。

「社会科見学。ま、リッキーにこっち側のわかりやすい顔を見せるには丁度いいと思ってさ。見る方が早いし、こういうのを見せる機会はあんまり無いから」

謎かけのように笑うと、力也が想像していたような追手も、息つくドライビングもない穏やかな道路を車は走った。

「で、感想は?」

「よく、わかんなかったッス……」

「じゃ、俺は怖かったか?」

ぎくりとして振り向くと、ハルトは前を見たまま小さく笑っていた。

「怖かったんだな? そいつは何より……殺し屋がヒーローじゃないのが、ちょっとはわかったろ?」

それを解って貰いたかったと呟くハルトの横顔を、力也は見た。未だ見たことがない表情を、何に例えよう。傍目には苦笑いに見えたかもしれない。思えば、彼はよく困ったように苦笑する。だが、信号の赤を見つめる目は、悲しみ、怒り、後悔などと呼べそうなものが複雑に絡み合い、纏りがつかぬまま――いつもの表情に戻っていった。

「……でも、センパイ達は悪いやつを……」

膝に置いた拳を握り、尚も食い下がったのは何故だろう。力也は得体の知れぬ意固地になっている気がした。先程、怖いと思ったのは本当だ。あの恐怖感は、隣に化け物が座っている感覚と同じだと思う。見たくないし、関わりたくない――しかし、今のハルトが隣に居るのはむしろ頼もしくてほっとする。ハルトは肩から小さな溜息を落とすと、「悪いやつ、か」と呟き、走り出した道路を真っ直ぐ見据えた。

「それなら聴こう。殺すほどの悪いやつ、てのは……どういうやつのことを言うんだ?」

突拍子もない質問に、力也は目を丸くした。ハルトは一体何を言っているのか?

「悪いやつ」――そんな安易な定義も無いと思ってから、力也は戸惑った。

悪とは――何か? 不思議と容易く出てこない。悪。悪。悪。世の中は悪いやつだらけだと思う。自分が苛められなくなった今も、そう思う。

悪は居る。山ほど。沢山。そうでなければ、苛められて自殺する人間も、詐欺師に貯蓄を奪われる人も、身勝手な理由による無差別殺人が起きることも無いではないか。だが、被害者なのに申し訳なさそうな祖母の顔を思い出す傍ら、ハルトの問いの正解には弱く感じた。何が足りない? 人を騙して金銭を巻き上げるのは、どう控えめに見ても悪いやつだ。経験談なら、人を苛めるのも悪いやつだ。悪いやつ……けれど、彼らは殺されねばならない悪なのか? いや……そもそも、彼らは悪だったのか? 犯罪者として認知されたから……悪いやつと判断しているのか? 違う……人を陥れたから、悪いやつ。そうだ。でも……彼らは殺さなくてはいけない“悪いやつ”なのか?

詐欺グループのヤクザが殺されるのを目の当たりにしたとき、どう思ったろう?自分は悪くないのに、泣いて両親に謝っていたばあちゃんの貯金の仇が死んで――爽快だったか?

未春のことは、ヒーローに見えた……筈、だ。何故? 窮地を救ってくれたから。彼がヤクザ者をのしていく様が、演舞を見るように華麗だったから……――

思い出しながら、力也は自分でも青ざめるのがわかった。呆然としていた際のビジョンが痛烈に甦る。呆然としていた耳にようやく届いたのは、ごっちゃになった怒声と悲鳴、吐瀉物が吐き出される音くらいのものだ。けれど、肉にめり込むナイフを見たし、眼球が裏返るのも、みるみる内に服を濡らす血液も、尿を垂れ流す遺体も見た。ひょっとすると、自分も吐いたかもしれない。そこにひとり立っていた未春は――ナイフ片手に、とても綺麗な顔に何の表情も浮かべずにいた彼は、

ヒーローに、見えた……?

「どうだ、リッキー?」

ハルトに促され、力也は混乱してきた頭をやにわに振った。断言できないことに狼狽しつつも、なるだけ大きな声で答えた。

「そ、そんなの……悪いやつってのは、決まってるじゃないスか……誰かを苛めたり、傷つけたり、殺したりするようなやつが――」

言い掛けて、力也は硬直した。口をつぐむのを待っていたように、ハルトが小さく笑った。苛める。傷つける。それは当然、悪いこと。

その究極は、殺し。殺す人は、悪いやつ。

力也は自分の言葉を掻き消すように慌てて両手を振った。

「ち、違うッス……! それは、良い人を傷つけるようなやつの事で――」

「いいよ、質問の仕方を変えよう」

ハルトは穏やかに遮り、言い含めるように訊ねた。

「俺がこれから言う人間が、悪いやつかどうか判断してみてくれ」

力也が精一杯、集中した顔で頷くと、ハルトは順に上げていった。

「まず、テロリストを率いる男。武器を手にし、若者を懐柔して従わせ、自爆テロを強要する。彼は悪いやつか?」

「はい!」

自信満々に力也が頷くのをちらりと見て、「そうか」とハルトは続けた。

「次は、独裁者だ。国民の貧困を顧みずに、軍による厳しい政策で締め上げ、権利や自由を奪うやつは?」

「当然、悪いッス」力強く頷く。

「最後は、この二者に恨みも関心も無い第三者だ。そいつは二者を順に殺し、テロ組織を散会させ、軍事政権を崩壊させた。悪いやつか?」

「……悪いわけ無いスよ。センパイのことでしょ? テロも軍事政権も無くなったら、国の人たちは喜ぶじゃないですか」

「残念だが、そう安易には行かない。現実に、正義役や悪役なんかの明瞭な役柄は無いんだから」

否定もやんわり述べると、ハルトは自戒するように続けた。

「リッキーが言う通り、第三者の殺し屋は俺だ。この話は俺が一番苦い経験をした事実。先に結果を言うけど、この国は現在も内戦が続いている。武装勢力も、軍事政権もピンピンしてるよ」

案の定「えっ?」と出た声に従い、ハルトは苦い経験を述懐した。

「それどころか、散り散りになった関係者の中には小さな村や集落を襲った人間もいる。大人の男と高齢者、十代以下の子供は皆殺し、それ以上の男児は兵士或いは奴隷にするために連行、女はその場で強姦の末に殺されるか、性奴隷にするために連れていかれる」

突然垂れ流されたあまりにも残酷な現実を、力也は殆ど想像できなかった。力による搾取と略奪を何のためにするのだろう? 強姦? 性奴隷? 革命を起こして……悪い権力者を倒すのに、何故そんなワードが転がり込むのか?

「嫌な話だよな」

「……あ、いえ、ええと……」

辛うじてそう答えて、力也は俯いた。実際、ハルトが言う通りだった。自分とは直接関係のない国の圧倒的な不幸は、持ちたくはない重みを感じる。ふと、いじめられた時に同級生の荷物を一度に持たされ、道路に投げてやりたい気持ちと、そうした場合の報復を恐れながら、ふらふらと運んだのを頭の片隅で思い出す。知らん顔でいれば気楽だが、知ってしまうと、なにやら重い飲み物をたらふく飲まされた気分がする。

「もう止そうか」

ハルトが前を見たまま問う。些かも責める様子はなく、むしろ気遣う調子だった。正直、力也の感情的には、この苦しい話をやめたかった。しかし、此処で自分が諦めてしまうと、ハルトを、未春を、十条もさららも、悪いやつとして暗に認めることになる――それも嫌だったので、力也は羽虫でも払うように首を振った。

「……続けて下さい」

自分の膝を見つめる視界の端で、ハルトが少し笑った気がした。悪意や嫌味を感じる笑いではないのが、なんとなく気配でわかった。

「リッキー、俺が思うに――こういう話をして顔色が悪くなる人間は、殺し屋には向かない」

「……センパイは、俺にやめさせたくてしょうがないんスね」

「まあ、聞けって。リッキーの正義の使い所は、殺し屋じゃないと思うんだ。もっと良い場所がある」

「十条サンにも……言われたことありますけど……」

力也はしょげた様子で言った。

「消防士とか、レスキュー隊とかどう?って言われたッス。俺の性格も体格も、天性の才能だからって……十条サンやセンパイが言いたいことはわかるんです。わかるんスけど……」

頷きながら、緩く首を振るようにして口許をへの字に曲げる。

「センパイ、俺、たぶん……脱力感、じゃないな……なんだっけ……無力感……じゃない……き、き……きー……」

むぐむぐとつかえた後、異国の言葉を喋るように言った。

「き、虚無感?みたいなのを感じてるんです、うまく言えませんけど」

「虚無感?」

意外な言葉の出現にハルトがおうむ返しにすると、力也はまだ腑に落ちない顔で頷いた。

「その……普通の仕事に就いても、何ともならない、って思ってるっつうか……俺が人を助ける仕事についても……悪い奴のせいで、酷い目に遭ってる人を直接助けることは、たぶんできないっていうか……」

ハルトは倉子との会話を思い出した。十代の若さで時間が足りないと言っていた倉子。今の日本にある仕事では、思い描く未来を実現できないという思想。どうやら彼らの清々しい意志に、日本社会が追い付いていないらしい。ハルトは前を向いたまま、そうかと頷いた。力也もフロントガラスの向こう――様々な車が、決められた道筋を同じように流れて行くのを見つめたまま、自分に言い聞かせるように言った。

「でも……何かにならなくちゃ、いけないんですよね……」

それは、切なく聞こえた。ともすれば、茫然自失にも聴こえる。ぼろりと崩れやすいものを、何とか指先で掬い取ったような響きだった。

「殺し屋になったら……リッキーは何か果たせるのか?」

力也の困り顔に向けて、ハルトは質問を変えた。

「ラッコちゃんはさ、殺し屋になったら、動物を苦しめる悪党を殺したいそうなんだ。動物の命を軽んじるブリーダーを始末したら、殺処分のシステムにテコ入れする気でいる」

「はは、さっすが……ラッコちゃんらしいスね」

「ラッコちゃんにネズミも取り締まられたら恐ろしいけどな」

現実的には笑えないジョークだが、幸い、力也は「そういう将軍いましたっけね」と、ちょっと吹き出してから一息ついた。

「……ぶっちゃけ、俺はそういう大きな目標は無いんです。ただ、うちのばあちゃんみたいな人は可哀想だから。振り込め詐欺なんかやる奴は全員ボコりたいってだけです。口に出すとアホっぽいスね」

ボコりたい――なるほど、殺したいのではなく、単純に懲らしめたいのか。

確かに、その発想では警察やレスキュー隊はお呼びではないし、近しい職業は無い。許しがたい人間に対し、死ねば良いと考える倉子よりも穏健派だが、反省や罪悪感を促すよりもまず殴るというのは短絡的でもある。

「そうだなあ、俺にアホとは言えないよ。俺の元上司が、躾で子供を叩く親が嫌いなんだ。要は『意味がないこと』が嫌いで、叩いてもわからないんだから意味がない、って言い分なんだが、大人は言うまでもないからな。うちの組織はわかっててやってる奴に反省の余地を見出ださない」

「だから、殺しちゃうんスか……?」

「意味がないと判断した奴はな。――何様だって話だけど、刑法とは違う。まあ、これも上司の感覚だけど、リストラを極端にやる感覚だ。言うまでもないミス――悪事をやった大人に、BGMは情状酌量の余地を与えない。同時に、“意味がある”と判断された人間は、生かされる」

「先輩達が言う“意味”って、何なんです?」

「ああ……俺は――判断する側には殆ど居ないけど……」

元上司の価値観は、これに尽きる。

「豊かな世界の為になるか、だ」

――ハル、あらゆる争いの種は、負の感情から育つ。

かつて、苦心した時にミスター・アマデウスが語ったことを思い出しながら、確認するようにハルトは言った。

「弱肉強食って言葉があるだろ? 俺の上司はこれを踏まえて、弱者だから強者に食われるイコール、貧しいから豊かな者に貶められるって考え方なんだ。まあ、豊かになりすぎるとバカになるから、バランスが大事なんだが……貧しいと感じていても、死に直結しないだけの衣食住が整ってることが重要なんだと。毎日暮らすのに不安がない程度ってことだな。これが整わないと、劣等感や怒りが溢れて、爆発する」

衣食住はどれが欠けてもいけない。人間以外の生物は、この何れかに不具合を持って尚生きているパターンが数多いが、人間はそうはいかない。といっても、その状況下で短命なのは乳幼児くらいのもので、『そうはいかない』状態でも人間は生き延びる。何やら矛盾して聞こえるが、酷な環境で生きるのを強いられた人間は、多かれ少なかれ反発を始める。事態の好転を望み、試みた者にリーダーシップがあれば支持者が集まる。リーダーが賢ければ良い方向に物事が進むが、大抵の場合、負の感情による集団は攻撃的であり、短絡的になり易く、本来の目的を逸れた暴徒になってしまう。

かつて、この目で目撃したように。

「……ま、貧困はひとつの例で、信仰や主義も争いの原因になるから、一概には言えないけどな」

「センパイは……そういうの、ずっと前から知ってたんスよね?」

力也が尚も尊敬の眼差しを向けるので、ハルトは苦笑いしか出なかった。

「俺は……ある時まで、間違いなく知ったかぶりのガキだったよ。今も……そうかもしれない」

ふと、アマデウスが笑う気がした。殺し屋としても一般人としても、ま四角で突っ張っていた部下が、あまり変わらない歳の青年に、えらくまんまるな講釈をしていると知ったら。

――ハル、それで君はあがなえると思うのかね?

リビアの仕事から戻った後、狂ったようにユニセフや国境なき医師団にポケットマネーを注ぎ込み始めた部下を見て、アマデウスは笑っていた。

「嫌いではない。しかし、今の君ではナンセンスだ。ハル、忘れたなら思い出したまえ。君は何者だ?」

殺し屋です。殺し屋にさせられたんです。

俺はBGMに作られた殺人マシーンでしょう!

「おいおい、ハル、違うだろう。君は確かに殺し屋だし、安易に辞めることはできまい。しかし、それは君の仕事であり、君の自己ではない。何故なら君は望んで殺すわけではないからだ。現に今、君は友人を殺したことに激しく動揺している。彼の死を夢に見、氷が無いと不安になり、氷を食わねば吐きそうになるのだろう?機械に不安や吐き気は無い」

じゃあ、俺は何なんですか?

俺はなんにも考えずに引き金を引いたんですよ? 理由なんかない! 怖かったからとか、止めようと思ったわけでもない! 機械みたいにオートで友達を撃ったんだ!

なんにも迷わず友達を殺したんだ!

「わからないなら考えたまえ。君は機械ではないし、考えられる頭脳がある。機械は悲しみもなければ、後悔もしない。君がオートで使ったという銃がそれだ。考えるのは君だ、ハル。考えて、答えを見つけなさい」

わからない。わからない。わからない、俺は、俺は――――

「センパイ……殺し屋って、ツラいですか?」

訊ねる力也の方が辛そうで、なんだか少し笑えてしまった。

「当たり前だろって言ったら笑う?」

目が点になった力也を横目で見て、ハルトはごめんと謝った。

「ニュアンスが難しいんだ。現に俺が続けられてるから、当たり前……ってのは言い過ぎな気がするし、全然って言うと嘘になる。……とりあえず、俺は昔、氷をガリガリ食いながら考え続けて……ひとつ、答えを出した。それからは少し楽なんだ。都合のいい話にしたからだと思うけど」

「氷……焼き肉屋で見たやつッスね?」

「そう。俺のアレ、どう思った?」

「びっくりして――……でも、あの時はよくわかんなかったんです。戦闘ストレスとか、ああそうなんだ、すげーな、大変なんだな、ぐらいで……後でラッコちゃんと話したら、『なんでわかんないの!』ってどつかれちゃいました。それでも俺、ピンと来なくて」

「それが普通だよ。ラッコちゃんは鋭いからな。あれは女の勘って言うより、野生の勘って感じ」

倉子が感じ取れるのは、恐らく、命に関わっているからだ。人間ではないにしろ、日常的に生死に――どうしても理不尽さや厭らしさを感じずにはいられない生死に触れている倉子は、多感なところがあるのだろう。売買の為に生まれる命。売れた命は生き延びるが、捨てられることも、雑に扱われることもある。売残ったが為に殺される命もある。

本人に言わないように、と念を押すと、力也は少し陽気に笑ってくれた。

「センパイの答え、教えてくれませんか?」

「いいけど、これは俺の持論だから、鵜呑みにしちゃ駄目だぞ」

「うのみ?」

「丸呑みってこと」

「ああ、了解ッス」

真剣に頷いた力也の視線を感じつつ、ハルトは事故らないように注意しながら話し始めた。

「……俺な、18の時に初めて、友達だと思える奴に会ったんだ。そいつはリビアに住む少数民族で、同い年のいい男だった。紛争続きの国で育ったくせに、いつも綺麗な目で、外国人にも親切で、笑顔が子供っぽくて……初対面から好感が持てる奴だった。でも、そいつは当時の軍事政権に反発してて、反政府勢力に参加していた。反政府勢力……って、実感湧くかな?連中は否定するけど、要はテロリストだ」

「……自爆テロとか、する人達ですか……?9.11みたいな……」

「そうだ。信仰と貧困を利用して、爆弾抱えて自爆すんのが素晴らしいとか吹き込みやがる、クソみたいな連中だ」

9.11――アメリカ同時多発テロ事件。アメリカ史上最悪のテロ事件は、マンハッタンの世界貿易センター施設内にあったノースタワーとサウスタワーに、ハイジャックされた航空機二機が乗客ごと突っ込み、更に二機のハイジャック機がペンタゴンとペンシルベニア州の野原に墜落した事件だ。

ハルトは当時、ニューヨークには居なかったが、居合わせたアマデウスとジョンの双方が、らしからぬ動揺を見せていたのは衝撃だった。

誰もが固唾を呑み、呆然と、或いは絶叫して見つめるしかなかった悲惨な光景。

あれはテロの中でも最たる例だが、ハルトが紛争地域で見たテロにも小規模ならではの凄惨さが有る。悲鳴、吹き飛んだ人体、血、怒号、焦げてばらばらの瓦礫、手足の千切れた人間、汚い土煙に紛れる生き物が焼ける臭い――すべてが至近距離で起き、誰もが巻き込まれる可能性がある。無論、この暴力は爆弾テロには止まらない。強いて言えば、やり尽くすまで止まれないのだ。人生をレールに例える話はよくあるが、だとすれば彼らのブレーキはある瞬間に破損したも同然だ。レールが途切れるまで何かを牽き、撥ね飛ばしてでも進むしかない。ブレーキは理性だ。理性を失った人間は、婦女をレイプした上に殺すことを厭わず、泣き叫ぶ無抵抗の子供の頭を割るのを何とも思わない。

「俺はその反政府勢力の代表を殺す予定だった。当時の俺は恥ずかしいぐらいのガキで、正直……殺したい願望は無くても、殺すことに抵抗は無かった。仕事だって割り切って、人ひとり死ぬことの重みは理解してなかった。特に俺は指名手配されるような犯罪者ばっかり相手にしてたから、罪悪感なんて殆ど無い。潜んで、狙って、引き金を引いて、殺したら退散する――この時も、テロリストなんか死んじまえと思ってたし、いい奴が下らない組織で死ぬなんてバカらしいと思ったから、俺はいつも通りに仕事をした。問題はその後だ。標的を殺した後、反政府勢力は混乱して、次々に軍部に掃討された。俺はとっとと脱出すれば良かったのに、どうしても友達が気になって会いに戻った。俺は今なら一緒に逃げられると説得したが、あいつは俺の正体を知って、泣いて、激怒し、俺を殺そうとした。当然だよな。信奉してた指導者を、友達だと思ってた奴に殺されたんだから。ぼろぼろ泣きながら怒りに血走った目を、俺は一生忘れられないと思う」

一般人には凄まじい話だろうが、力也は黙って聞いていた。

「なんとか説得しようとして――話していた筈だった。なのに、気付いたら……俺は友達を殺していた。死んでもなんとも思わなかった連中と、同じように射殺したんだ」

力也が小さく息を呑み、音を立てないように深い息をする気配を感じた。

「情けないが、その時が初めてなんだ。自分が人殺しだと気付いたのは」

それまで殺してきたのは、人間ではなかったとでも言うように。

「俺は遺体を前に動けなくなって、仲間に引っ張られてようやく脱出した。氷が必要になったのはそのすぐ後。最初はコップ数杯で落ち着いたのに、冷静になってくると身体中がざわざわし始める。表現が難しいんだが――身体中の血管の内側にびっしり湿疹が出来てる感じ。痒いような痛いような、赤いぶつぶつが脳味噌まで腫れて疼く、気色悪い感覚。まあ、要するに俺は狂ったってこと。鎮静剤なんか気休めにもならなくて、腹も内臓も悲鳴上げてんのにがばがば氷食うしかなくてさ。薬と氷で胃痛で冷や汗かきながら『冷たいものはやめなさい!』なんて医者に怒鳴られて。ドクターストップでどうにかなるもんでもなくて、メシは食えなくなるし、白湯も気持ち悪い始末で、発熱と悪寒がしんどいわ、精神的にはズタボロで眠れやしない。参ってたからなのか、許してもらいたかったのか、俺はリビアに関わる募金や寄付にひたすら注ぎ込んで、やっと少し寝て、悪夢で飛び起きるのを繰り返したよ。上司は休ませてくれたけど、看病してくれる誰かが居るわけでもなし、ベッドとトイレ往復しながら虚しいやら苦しいやら……結局、胃潰瘍まで行っちまった」

思い出すと、あまりの醜態に笑えてくる。けっこう繊細だったんだとハルトは自嘲気味にへらへらしたが、力也は笑わなかった。

「センパイ、優しいから」

真剣な双眸をちらりと見て、よしてくれと受け流し、見なければ良かったと思いながらハルトは続けた。

「胃から血を吐いて、体はしんどいのに……俺は自分が吐いた血を見てたら、少し冷静になってきた。俺は何に抵抗してるんだって思った。苦しいのは全部身から出た錆で、きちんとしていれば何ともない健康体なんだと気付いた。そこからは芋づる式に色々わかったよ。寄付ばっかしてる俺を上司が笑った理由とか。俺が友達を殺したことを悼むのは人間として当然だが、それを後悔して自分をいたぶるのは滑稽なんだ。懺悔する神も持たない殺し屋が、死者に札束捧げてごめんなさいと言ったところで許してもらえる筈もない。それでも後悔するなら……きちんと後始末でもした方がマシだと思った。それから、俺はのろのろ回復して、もう一度リビアに行った」

「えっ……!」

「正確には仕事を受けたんだけど……無謀というか無為というか。“人の良い”上司は一枚噛んでたけどな――とにかく俺はそうしないと殺し屋の自分をどうにもできなかったんだ。辞めることも、死ぬことも腑に落ちなかった」

「リビアで……何をしたんスか?」

「軍事政権のトップと、ブレーンの側近を全員殺した」

今度こそ、力也は呼吸が止まったようだった。

「俺の独断でも、私怨でもないよ。現地の穏健派から依頼された――仕事だ」

「ど……どうなったんスか……?」

「一時的に、治安は良くなった。でも、紛争は収まらなかった。今でも、あの界隈は変わらない。テロも貧困も相変わらず。要は、その国だけの問題じゃあないんだ。大国や悪い商売をする奴らが、隙あらば火を点ける。国が枯れていれば早く燃え上がる――殺し屋が与える影響なんて、そんなもんかと思い知った。殺し屋に殺しを依頼されるような奴が死んだところで、大したことは起きないし、さして世の中が良くなることもない。人の死が無意味ってことじゃないが……俺は物事の外側に居るのがわかった。本来、関わるべきじゃない人間のポジションから、表でやらかした奴を裏のこっちに引っ張ってるだけだ」

それが、BGM。

良くも悪くも、全て、背景にて事を成せ。

「だからさ、俺も未春も、リッキーが言うようなヒーローじゃないんだよ。俺たちが悪役に見えないなら、単に仕事の線引きがはっきりしてるだけ。カッコ良く見えるんなら、もっと良いことをしてる人間をちゃんと見た方がいい」

視界の端で、力也はこくん、と頷いた。

「センパイ……争いごとを無くそうって思ってる人は結構居るのに、なんで上手くいかないんスかね?」

「おいおい、悪党に聞かないでくれよ」

ハルトは苦笑した。倉子もそうだが、この清く正しい若者たちは、同じ年の頃から何人も殺してきた悪党に何を求めるのだろう。はぐらかそうにも純真無垢な力也の目は逸れる気配がなく、ハルトは自らの辛うじてまともな一面から、なけなしの言葉を選んだ。

「そうだなあ……俺の主観じゃ……大半が日和見なんだろ。他力本願で、当事者にはなりたくないってこと。リッキーを苛めた連中の大半はほぼソレじゃないか? 悪党を前に置いて、後ろに山といる傍観者に混じれば、高確率で痛い目を見なくてすむ。そういう奴はとにかく自己防衛したいだけだから、臆病をけなされても詰られても知らん顔してればいい」

「自己防衛……知らん顔、そっか……」

力也が言葉の意味をなんとか咀嚼するのを待ってから、ハルトは続けた。

「戦時下ではない国の人間にとって、基本的に殺しは身近じゃないから実感が湧かない。世界でどんだけ泣いてる人が居るとわかっても、近くに火種が無ければ気にしないんだろ」

「なんか……皆がリアリティー湧く方法はないんスか?」

「それは……他力本願でのんびり生きてる人間に、戦争がヤバいって思わす方法か?」

「はい」

「あー……まあ、水洗トイレが無くなって、電気は使用不能、コンビニもデパートも閉店して、一日に何か一口食べられたら贅沢って言ってやれば。阿鼻叫喚するんじゃないかな」

「げ……」

力也も想像がつかなかったのか、目を白黒させた。

「センパイ……それって、災害みたいな状態?」

「似てるが、違う。自然災害は人間を殺す目的で起きてるわけじゃないだろ。戦争は人が人を殺すことが正当化される究極の人災だ。しかも、整合性というか――正確な情報がわからなくなる。その時、権力を持ってる奴にとって都合が良いように発信するからな。世界大戦のとき、日本は不利な真実を伏せて、国民に戦争を続けさせたろ。これは別に日本に限った話じゃない。何処だって、権力者は自分に不利な情報は漏らさないし、保身の為の嘘は躊躇わない。権力を持ってるってことは、あらゆる手が使えるってことだからだ」

「でも……政治家って、みんな良いこと言うじゃないスか。少しくらい――」

そう言いながらも、力也の声には自信がない。

ハルトの言う事実が、頭ではわかっているのだ。答弁やスピーチを聴いていると、小難しい言い回しや力一杯の声音に惑わされがちだが、それらを削いで削いでシンプルにして行くと、どうしたわけか大半の政治家は薄っぺらい。地元を汗水垂らして走り回り、声張り上げて改革を訴え、頑張りますと手を握り締めてきた候補者が、いざ当選して国会に行ってみると、映像の中でぼんやり椅子に座る人間になっている。勿論、ただ呆然と座るか、賛否とヤジを飛ばすだけが政治家ではないが、掲げた壮大なマニフェストを形にする政治家は一部に過ぎず、失言ひと言で支持者を裏切るしょうもない政治家が後を絶たない。国会を法廷と勘違いしている議員や、やりたくない審議は集団サボリの議員、他党の実績を素知らぬ顔で横取りする政党、これで永田町が正常回転なら、日本の中枢は割れねばわからない腐った卵だ。

「俺もまともであってほしいが、仮に真実でも政治家が信頼されない今の日本じゃ、半数の国民は疑心暗鬼になるだろうな。否定的で悪いが、いつも睨み合ってる与野党が、じゃあ今は協力しましょうって急に一枚岩になれると思うか?」

最近まで不在だった母国の政治なんぞ講釈するのは変な気分だが、力也は生唾呑む顔つきで首を振った。

「昔の戦争みたいに、都市が焼け野原になるんスかね……?」

やや怯えた目には、空襲後のモノクロの更地が浮かんでいるのかもしれないが、ハルトはちょっと考えて首を振った。

「憶測だけど……戦争やっても、日本は焼け野原にはならないと思う。なあ、リッキー、戦争ってさ、銃や爆弾で殺し合いするだけじゃないんだ。思想が関わるとそういう排除するような殺戮も起きるが、俺なら、世界的に見て圧倒的にヤワな日本人に億単位の武器なんか投下しない。まずは電気やデータを奪うか抑える。真夏か真冬にライフライン止めれば数日で音を上げるだろうし、ゲームだろうが会社データだろうが根こそぎ消すなり奪えば、総じて精神病棟行きか自殺者続出かもな。大人も子供も、いま普通に食べてるパンが固くてボソボソしたのになるだけで食べられないとか喚くんじゃないか? それこそ水なんて、透明なだけじゃ安心して飲めないんだろ? 羽虫一匹浮いてるだけで駄目なんだから、せいぜい文句並べて死ぬのがオチだな。……ま、器用な国民性だけに、うまく工夫して凌ぐタイプも大勢居るだろうけど」

「そっか……そっスね……」

「嫌な話で悪いな、リッキー。俺はこれでも紛争地域や貧困街を見たからわかる。何もかも酷だ。空気も、人も、風景も、食物も、全部だ。それを不思議なくらい、皆が黙って凝視してる。狭い場所に不潔で臭う汚いものをぎゅうぎゅうに詰め込んで、それが腐って変な色や染みを作るのをじっと座って見てる感じだ。テロリストの下っ端はさ、黙って座っていられなくなって発狂した奴らだよ」

力也はかくかく頷きながら、静かになってしまった。

「大丈夫か?」

「……はい。なんか、色々……わかった気がします。ありがとうございました」

呟いた力也の顔は前の景色に向いていて、少しだけ大人になったみたいに見えた。

「わかったけど、やっぱ俺、センパイや未春サンのコト、悪には見えないです」

有無を言わせぬ強い言葉だった。ハルトの顔に、今日一番の苦笑いがこぼれた。もっと、怖い思いをさせてもダメなんだろうな――そう思いながら、仕方ないな、と強固な意志の若者に呟いた。

「じゃ、この話は終わりだ。昼食ってくか。奢るよ。リッキー何好き?」

「へ? え、えーと……カツ丼とか……?」

育ち盛りの青年らしい一言に、ハルトは愉快そうに笑った。

「いいね。日本の平和的説得メシか。旨いとこ知ってる?」

平和的説得?なんだろ、アメリカンジョークかな……などと思いながら、急いで調べようとして、力也は呟いた。

「……あの、先輩」

「ん?」


――さっきの――聖の所で聞いた名前の人達、誰なんですか?


聞いてみたくて堪らなかったが、ハルトがあの時のような声になるのが怖くて、言い出せなかった。

「えと……い、いい天気ッスね!」

「なーんだそりゃ」

確かにな、とハルトはいつものように笑った。

幸い、空はよく晴れていたが、“笑ってくれた”のだと、力也は思った。

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