山の霧の話

@szap

山の霧の話

朝日が山肌に照ると、しゅわしゅわと霧が立ち上がる。


春の霧が好きだ。

薄ぼんやりと桃色をしていて、少し甘いから好きだ。

じんわりと地面を踏みしめて山を登ると、靴跡から新芽が立ち上がる。

大きい石は朝露に濡れていて、教科書で見た勾玉みたいにつやつやしている。

春の霧が好きだ。


夏の霧が好きだ。

蝉の大声から私を隠して、ひたひたとついてくるから好きだ。

高い草をかき分けて山を登ると、倒した草たちがお辞儀をしているみたい。

大きい石はもう熱く乾いていて、手をかけて登るとスタンプラリーみたいに跡がついていく。

夏の霧が好きだ。


秋の霧が好きだ。

私が通るとさっと避けて、木々の色づきを自慢してくるから好きだ。

落ちた葉に足を取られながら山を登ると、頑張っててっぺんまでおいでと言われている気がする。

大きい石にはもみじが張り付いて、道はこっちと案内してくれる。

秋の霧が好きだ。


冬の霧が好きだ。

吐いた息が全部霧になって、山とわたしが一緒になるから好きだ。

積もった雪で山を登られず、また今度ね、と言われているのだと思う。

大きい石は雪にすっかり埋もれて、冬眠のまねごとをしている。

冬の霧が好きだ。


山の霧の話

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