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「愛沢! 愛沢はいるかしら!」
昼休み。予定よりも大幅に速く教室に来訪した女子生徒、天法院ありさに呼ばれて、冷や汗が止まらなかった。バレるかもと思っていたが、あの顔は相当にご立腹である。
クラスの視線を一身に浴びながら、気まずくも天法院の前まで行く。
「な、なんすか、お嬢様」
明らかに挙動不審な俺とは対照的に天法院は堂々たる立ち姿で俺を見据える。
「なんすか、ではありませんわ! あなた、」
詰んだ。
「今日のお弁当にピーマンとにんじんを入れましたわね!」
天法院ありさの弱点は野菜である。
「お嬢様、流石に最近野菜不足なので! 奥様の言いつけもありますし!」
「言い訳は結構! ミートボールに混ぜたことは変えようのない事実ですわ!」
「あそこまで細かくしたのに気付くか……!」
「言いたいことがあるなら目を見てはっきりと言いなさい、愛沢?」
我が主、天法院ありさは大の野菜嫌いである。特に野菜の中でも緑黄色野菜を極端に嫌うため、栄養の偏りが凄まじい。これでも随分と克服したようだが、ピーマン、にんじん、プチトマトに関してはセンサーよろしく過敏に反応する。
一通り文句を言って満足したらしい天法院は、咳払いを一つして、
「とにかく今後は入れないように! わかりましたか?」
「はい……」
「よろしい」
くる、とまた己のクラスへ戻っていく嵐のような主だったが、途中で言葉を投げてくる。
「まあ、食べれなくはなかったですわ!」
夢かと思った。言葉の意味を正しく理解するまで長い時間を要していた。気付けば視界から主は消え、俺は廊下に取り残される。
「……今日の晩御飯、野菜炒め作るか」
その夜めっちゃ怒られた。
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