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ようやく二十歳になった俺の前に天敵が現れた。……正確には親戚の双子が天敵となって現れたのだ。
「久しいな、師匠。実に百年ぶりか」
「兄様、正確には百二年と七ヵ月と四日で御座います」
「そうだったか。妹よ、悠久の刻を生きる者には時間の感覚が曖昧になってしまうのだ」
「ええ、兄様。ですので記憶はこの私にお任せください」
親戚の双子、中二病になって俺の前に立つ……! まぁ中学一年生という思春期真っ盛りだから仕方がないと言えば仕方がないのだが、兄の持つ一冊の本が問題だった。
「お、お前それ!」
「ふ、これに気付くとは流石師匠だ」
真っ黒い見た目、無駄に豪奢な装丁、絶対にそんなに必要のないであろう頁数。見覚えがあるなんて話ではない。あれは、あの本は!
「お前それ俺のやつじゃねえか!」
かつて中学二年生の俺が作り上げた黒歴史本であった。その名も『零の書』。その名を聞くだけも俺の過去を想起させて恐ろしいのに、それが目の前でしかも親戚の手にあるなど失神ものだった。
「そうだ、師匠。この『零の書』のおかげで我ら兄妹は自身の本来の記憶を取り戻したのだ」
「兄様の言う通り。お師匠様のおかげでございます。特にマイナススキルについては──」
「ああああああぎゃあああああやめろおおおおお」
黒歴史が体を掻き毟る。脳内でフラッシュバックする記憶を殴り飛ばしながら考えるのは、こいつらもいつかまた今の俺のようになるということだった。早めにあの本を燃やしておくしかない。こいつらのためにも。いや決して俺のためではない。あの本をさっさと消して楽になりたいとかそういうわけではない。
とりあえず何としても明日には燃やす。
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