22
俺は、本当はアイドルになんてなるつもりはなくて、普通に高校を卒業して、普通に大学を出て、普通に就職して、この間まではそんな普通の人生で良かったはずなのに、いつの間にか俺は大きな舞台に立っている。
まだ照明のない舞台は暗く、そこから見えるファンたちの様々な色のペンライトは、鮮やかな星の海にいるようだった。夢のような世界に立ちながら思うのは、自分の『もしも』だった。
普通に生きていたらこの景色は見れない。普通に生きていたら歓声に笑うこともない。普通に生きていたら、きっと誰にも見つからない。
もしもを考えれば、たまにその普通が恋しくなって、一歩この世界の外に踏み出てみたくなる。
……そんな普通の俺を知っているからか、いつかマネージャーに問われたことがある。
『君はどうなって、どうしたいの?』
あの時はあまりにも漠然とした問いに戦き、また遠くの未来へ行くための足取りは重くて、どうしたってその問いを正面から上手く答えることは出来なかった。
だけど今は、自信を持って言える。胸を張って言える。
『俺は、アイドルとして、みんなを照らしたい。みんなに辛いことがあっても、俺を見ている時だけは忘れられるような、そんな美しい存在になりたい』
妄想にまみれた夢のような言葉だし、かつての俺なら鼻で嗤っただろう。
だけどそれが今の俺が抱える本心であり、そこに何の偽りも嘘もなく、そう言える。
だから。
……照明が白光として弾ける。アップテンポの音楽が鳴り響き、会場が歓声に包まれ、ペンライトの色が揺れている。
だから俺は歌う。
だから俺は踊る。
だから俺は笑う。
せめて今だけは、みんなの笑顔のために、アイドルであり続ける。
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