20

 かつての仲間は祖国の敵となった俺を前にして、ある者は憎悪を、ある者は怒気を、ある者は悲哀を、ある者は諦感を持って立ち向かった。

 そうして俺は傷と血を一身に受けて立っていた。全力の戦いを経て、俺は死のカウントダウンを心臓から聞いている。左腕は半ばから千切れ、腹には三つの穴があり、ふくらはぎには双剣が突き刺さり、頬は削げて歯が見えて、死を目前にして何とか立っていた。

 仲間だった奴らも満身創痍だが、致命傷は一つもない。俺も腕が落ちたもんだな、と思うと共に、無意識の内に手加減していたのかもな、と自らを嘲った。ごぽ、と口から血を吐く。

 もう次で死ぬ。

 というのに、死の間際で聞いてはならないはずの声を聞いた。

「お兄ちゃん!」

 声の方を見れば、城門の向こうから黒髪の少女、我が妹がやって来る。

 嗚呼。

 ああ、駄目だ。やっぱりお前がいると、俺はどうしても揺らいでしまう。妹のために敵となって今を生きているのに、あいつのもとに駆け寄って、抱き締めたい衝動が顔を出す。

 しかし揺らいだとしても、俺はもうあいつの兄を名乗ることはできないから。俺は叫んだ。

「デッドマンズボム!」

 半径一キロメートルを焼き尽くす自爆魔法。それを聞いた元仲間は一瞬だけ何かを考えたものの、すぐに武器を取って俺に殺到した。

 刺される。全方向から刺され、相棒が、駄目押しで俺の首を斬るべく剣を振るった。

「……ありがとう」

 勝負には負けたが、少しだけ勝ち誇る。

 こいつらなら、ちゃんと殺してくれると信じていた。最期まで仲間を信じていた俺の勝ちだ。

 瞠目した仲間たちを置いて、俺に手を伸ばす妹を見て、俺は確かに絶命した。

 金木犀の香りを、最期に感じた。

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