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「この人かっこいいよなあ」
彼女の家で何となく見ていたテレビドラマに出演している役者を見て、思っていた感想をそのまま口に出した。
そうしたら彼女に押し倒された。
覆い被さる恋人の顔はその凛とした端整な顔立ちのせいで、今ばかりは不機嫌そうな表情がより一層冷たさを見せていた。
正直な話、訳がわからないまま押し倒されているので心臓の律動は速く、訳のわからない恐怖感や緊張感が胃の辺りで気持ち悪く蠢く。顔に疑問が浮かんでいたのだろうか、恋人は俺の身動きがより取れなくなるように体を密着させ、唇を耳に寄せた。
「私を、怒らせたいのかい?」
え、という言葉にもならない声と共に、耳にかかる熱い息のせいで反応が漏れる。熱を帯びた息は俺の体を震わせ、その身じろぎがまた密着度を上げてしまう。
ふふ、と耳元で彼女が笑う。
「こう見えても、かっこよさには自信があるから、ねえ」
それは知っている。高校時代は美しく端整な顔立ちと凛とした佇まい、王子様のような振る舞いもあって女子生徒からも告白されるほどに人気があったし、俺もその魅力に触れた一人だった。
ただ知り合いでもないテレビに出ているだけの俳優に告げたかっこいいという言葉に、こうも反応するとは思わなかったし、知らなかった一面を知ってしまった。
「可愛いならまだしも、かっこいいという言葉を誰かにかけるのは頂けないな」
そして遂に熱い息の向こうから唇が触れる。
「あ、ッ……!」
「可愛い声。はは……まぁ許さないけど」
怒らせたいわけではなかったのだが、どうやら触れるべきではないところに触れたらしい。少し低めの声が、脳を刺激する。
とりあえずとして未だにテレビで動くドラマの俳優を恨んだ。
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