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 誓いの儀式。跪いて頭を垂れるその行為がどれほど高潔なものであるかを幼い俺は知らず、未発達の憧憬を持って光景を見ていた覚えがある。

 この国では愛する人との誓いとして男が跪いて女性に誓いを立てる習慣があり、それを神前で行って成功させた者たちは幸福な人生を歩むというものがある。

 正直な話、思春期からはその迷信には懐疑的だった。高々その行為一つで人生の質が変わるわけではないし、しなかったからといって不幸になるわけではないだろうに。

 神前に立つ今でもそうだ。目の前の女性を見る。一見すれば端整な男にも見える黒髪の女性。俺よりも少しだけ身長が高いところが絶妙に腹が立つものの、そういうところも好きなのでこれが惚れた弱みなのだろう。

 ただ何故彼女が跪く側なのかは疑問だ。俺に結婚を申し込むためにそこまでしなくてもいいのにと思う。

 彼女が跪く。

 刹那、彼女の愛を視た。彼女の愛は海だった。静かに揺蕩う大海の中心で、俺は立ち、彼女は跪いている。

 切々と言葉は紡がれる。

「誓おう。君の幸せを。

 誓おう。君を守ることを。

 誓おう。君と在ることを。

 誓おう。君への愛情を。

 誓おう。君に捧げる全てを」

 頭を垂れる彼女には何も見えていないだろうが、この海に包まれて漸く、彼女が本当に俺を愛しているのだと理解した。

 俺は愛しているとも言えない臆病な人間だったが、それでもこの愛には応えたいと考える。

「私たちの頭上に輝く、消えぬ生命の太陽に賭けけて、私は君に誓おう」

「……嗚呼。誓いは我が胸に刻まれた。この時より俺は君のものだ」

 海が凪ぐ。大海が俺と彼女をさらって、遠い未来へ運んでいく。

 ……やっと儀式の意味を理解した。

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