17

 人を殺すこと。……戦いの中で、これだけを追求するべく不必要なものを削いで、落としていった。

 楽しかった趣味や友人関係や、他の何もかもがどうでもよくなっていく中で、それでも幼馴染だけは自分から削ぎ落とすことができなかった。幼馴染さえいれば、それが俺の生きる理由になり、戦う理由になった。

 ベッドに眠る幼馴染の黒髪を指先でなぞれば、軽く身動きして鬱陶しそうに声を上げられる。

 自分の苦労も知らないでぐっすりと眠る幼馴染だったが、恨めしくも何ともなかったし俺に気付かぬまま眠っていてほしい。

 午前五時。もうすぐ夜が明けることを示唆するように遠くの空の端が仄かに白み始める。

 また次の仕事をしなくては、と思い立ち上がった時だった。俺の手を、幼馴染が掴んでいた。

 起きているのか、と思ったが、完璧に寝ている。寝ぼけて掴んだということで、少し安堵する。

「んん……いくな……けい……」

 けい。自分の名を呼ばれて、胸の奥が熱を持つ。

 言葉通りに行きたくない気持ちに駆られ、パイプ椅子にまた腰を下ろした。そんなことを言われては、反論も反抗も出来ない。

 込み上げる愛しさは鮮やかに色付いて、幼馴染しかいない世界を染めていく。

 そっと、幼馴染の前髪を上げる。額にキスを。

「ん……ふふ……」

 ごそごそと動いて薄く笑う。本当は起きてるのではないだろうかとも思うが、確認するとやっぱり寝ている。

 ……しまった。一回すると止まらなくなってしまう。

 頭に、髪に、瞼に、頬に、そして唇に。

 キスをする場所には意味があると誰かが言っていたが、今はどうでもよかった。

 いつか削ぎ落ちてしまうかもしれない愛情を、決して消えぬ愛情を、絶えず膨らみ続ける愛情を、ただ込めるばかりだった。

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