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「テスト期間だからしばらくは会いに来ない」と珍しく鼻息を荒らげて言っていた恋人がその翌日に泣きながら家に来たのでとりあえず事情を聞いてみると、

「寂しいから会いに来た……」

「意思が弱すぎる」

 と言いつつも無理に追い返そうとは思えない辺り、自分もやはり恋人を愛しているのだと、しっかりと抱き締める。

 幼馴染である恋人は昔から気弱な部分があったし自分の後ろをついて回ることが多く、それを鬱陶しいと思ったことは、正直何度かある。だからこそテスト期間が来て自分自身で頑張る、と言ったときは嬉しかったし、誇らしい部分もあった。……同時に、隣にいない恋人を思えば大きな寂しさもあった。ずっと一緒にいるからこそ、その寂しさは強く、濃く、大きくなっていた。

 抱き締めた恋人の鼓動を感じる。……多分だが、寂しさは恋人よりも自分の方が強かった。意思が弱すぎると言ったが、本当は会いに来てくれたことが堪らなく嬉しくて、愛しい。

 抑えきれない愛しさが、俺の両手を動かして恋人の顔を上げさせる。恋人の潤む瞳と視線が交わされる。

 そして唇同士が触れた。たったの数秒、触れるだけのそれだったが、唇を離したときには恋人の表情に笑顔が戻っていた。

「……ありがとう」。言って、恋人はまた頑張るために俺から離れていく。

 まだ行かないでほしい。もっと側にいて欲しい。

 と言えれば良かったのだけれど、そうやって恋人の覚悟を俺の一言で揺るがすわけにはいかなかったし、俺自身が弱いことを知られたくなかった。

 一人になった部屋で、まだ唇に残る熱を思う。

「意思が弱いのは、俺の方か」

 テストの後は目一杯一緒にいよう。向こうが鬱陶しくて仕方なくなるくらいに、一緒に。

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