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「おはようございます、先輩。とりあえず資料だけ纏めておいたんですけど、あとはどうし……っ」

 疲れて居眠りをしてしまっていた先輩は、目を覚まして周囲を確認すると俺に飛びかかるように抱き着いた。その衝撃で著しくバランスを失ったものだから、尻餅をついてしまう。頭を打たなくてよかった、とか思っていると先輩が俺を抱き締める力がより強くなった。

「……苦しいですよ、先輩」

 まるで幼子のような恋人を優しく撫でて、言う。別に呼吸ができなくなるほどではないし、むしろこの苦しさと痛みが、彼女に愛されている証拠だと思うと嬉しかった。

「ゆめを、みた」

「俺がいなくなる夢ですか?」

 俺に額を着けながら首を横に振って否定する。

「君が、だれかと結婚するって葉書をもらうゆめ」

 それは、何とも恐ろしい夢だ。自分の知らないところで自分の好きな人が自分の知らぬ誰かと結婚するなど、考えただけでも胸が苦しくて絶叫しそうになる。先輩がそうなったなら、俺は己の胸を、心臓が見えるほどに掻き毟るだろう。

 俺はその夢を見た先輩を強く抱き締めて、俺はここにいるのだと知らしめた。

「先輩。俺、貴女以外に人生を捧げる気はないですよ」

「……うん」

「……本当は、もうちょっと、ちゃんとしたかったんですけど、」

「うん」

「先輩、俺と結婚しましょう」

「うん……!」

「俺の一生をあげるから、貴女の一生を俺にください」

「……夢じゃないよねっ?」

 強く、力一杯に抱き締める。痛く、苦しくなるように。その痛みは現実のものだと感じてもらえるように。

 先輩は涙目のまま微笑んで、俺を見上げた。

「苦しいよ」

「現実、ですからね」

 とりあえず明日は休みだから、彼女に似合う指輪を買いに行くところから始めよう。

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