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「真一、今日も可愛いね」
「男に向かって可愛いって言わないでもらえますか、先輩」
部室を開けた途端に先輩、篠崎怜から熱烈な言葉を言われて、俺は無愛想にいつも通りの反論をしておく。
演劇部部長、篠崎怜は女性だ。その凛とした秀麗な容姿や女子の平均よりも一つ抜けた身長も相まって男子生徒に間違われることは多いものの、性別は間違いなく女性である。
ただ演劇部で王子役や周囲からの声を反映してか、普段から漫画の中の王子のような言動が目立つ。……特に俺には。
小道具のチェックをしようと棚を確認する俺に、先輩は所謂壁ドンをしてくる。漫画か?
「そう言わないでくれ、真一は本当に可愛い顔をしているんだから」
「はあ」
最早反応するだけ疲労に繋がるので適当に流す。
それが気にくわないらしい先輩は俺のネクタイを掴み、強引に自分へ向かせる。チェック表が床に落ちた。
「真一、私も冷たい反応ばかりは寂しいよ。寂しくて、多少強引になってしまいそうだ」
他の部員がまだ来ていないからか、今日はやけに構ってくる。
しかしいつまでもやられっぱなしというのは癪なので、俺も今日は反撃したい気分だった。俺のネクタイを掴む彼女の腕を壁に押し付ける。反撃されるとも思わなかった先輩は、目を丸くした。
「どうし、」
「……『先輩、あまり俺を困らせないでください。』」
緊張。
「『俺は、後輩である前に一人の男です。そういうことをされると、俺も……歯止めが効かなくなります。』」
先輩と見つめ合い、至近まで顔を近づける。先輩も雰囲気に呑まれているのか、視線を泳がせつつも、次では目を閉じていた。軽く上を向く。
そして……、
「あたっ!?」
先輩にデコピンを一つ。強い威力で。
痛みに悶絶して、踞る彼女を見下ろした。
「俺のアドリブも捨てたものじゃないですね」
鼻を鳴らした俺を見上げて、先輩は何かに気付いたように「あっ!」と言う。
「改編しましたけど、先輩の台詞ですよ。王子役なんですから気付いてください。……あと、あんまり邪魔してると次のヤツで木の役にしますよ」
息を吐いて、俺は部室のより出る。
案の定、他の部員は出歯亀をしていたようで、急に出てきた俺に気まずそうな笑顔を向けている。
「倉庫に小道具を取りに行ってきますね。……武器の」
微笑んで、ダッシュで倉庫へ。
背中から阿鼻叫喚が聞こえた。
「……やっぱり、誰よりも王子だよ、君は」
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