6

 屍山血河を漁ってドッグタグや遺品を回収すれば持ち帰って、一つ一つから汚れや血糊を取り除いた。それから装甲板で作った小さな舟に遺品を横たわらせて、海へと流す。

 海を舟が行く。せめて彼らの魂だけは、戦場ではないどこかで安らかに眠って欲しかった。

 ……また生き残った。生き残ってしまった。仲間の死体を踏んで進んだ先に戦いの終わりは見えず、果てしない道行きを思えばいつだって足が竦む。

 しかし止まることは許されない。まだ戦いは終わっていない。既に次の作戦は通達されているため、小舟を見送ればまた戦場に行かなければならなかった。所詮は使い捨ての駒だから、進む以外の選択肢はない。

「ライラ、オータム、ニコラス、ヴァイス、セイラン……」

 逝った奴らの名を呼ぶ。全員が友だった。しかし残ったのは小舟に乗るほどの小さな遺品と回収すら難しい遺体だけでそこから友たちの面影を見るのはあまりにも難しく、名前を呼べば彼らの死に様を思い出し、心臓の奥を締め付けた。

 いつか死んだ仲間が、弔うこの姿を見て言った。

『皆を覚えているのが……、それがあなたの優しさなんだね』

 そう言った仲間は、その次の戦場で瓦礫に潰されて声をあげる間もなく死んだ。

 言葉を思い出して、首を横に振る。違うんだ、と。

 ……覚えていなきゃ、やってられないんだ。

 人の想いは重くて抱えることは出来ないから、せめて名前だけでも終わりまで一緒に行きたいだけだ。優しくもなんともない、ただ独りで進むのは寂しいから、一緒にいたいだけなんだ。

 息を吸う。潮風の吹く砂浜に立って、小舟を見送る。

 遠くへ。俺のもとから離れていく小舟は、ここではないどこかを目指していた。

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