第4話  「隊長」ルヴィ


 「上級士官はいない。騎士もだ。」


 王都を護った勇敢な戦士は皆屍になった。この王都の北西部の区画では最上位の士官は小隊の副官の補佐官を務めていたルヴィが最高位の兵士だった。士官との面会を希望したヨハネスが案内されて彼と面会をしているのもそういう事情だった。ただ、軍曹達がルヴィにヨハンを押し付けた理由は階級が高いからではない。まず面倒だったし、何より彼らには今すぐやるべき仕事が山のようにあった。


 ルヴィの本来の役割は伝令で、戦闘指揮の経験はなかった。伝令をする先が無くなった今、この廃墟の中では軍曹達やあるいはベテランの兵卒のような彼よりも下の階級の兵士の方が余程役に立つ存在だった。一方のルヴィは今までに経験したことのない判断を他の兵士達から次々と要求され、精神的に限界を迎えていた。


 ルヴィは屋根も壁も吹き飛んだ区画本部の建物から空を仰ぎ見た。

 このヨハネスの言う通り、今朝から空に浮遊城の姿はなかった。ヨハネスの横でへらへらと笑っているドニという男はこの区画からの徴募兵だった。軍籍の確認はすぐに取れた。

 一方、ヨハネスの話は状況証拠と空想ばかりで平時であれば到底受け入れられる内容ではなかった。何より、このヨハネスは学者でも学生でもなく、無職の無学者だった。死んだ上官にこんな与太話を信じて兵を出す上申をしようものなら迷わずブン殴られただろう。

 しかし、ルヴィは今すぐにでもこの場を逃げ出したかった。この区画で生き残った兵士で騎乗の資格がある者が彼しか残っていなかった。この場から逃げる言い訳はすぐに思いついた。


 「騎馬を出すには士官の俺が出ないと軍規違反になる。」


 ルヴィは生き残った軍曹達が昼食に集まった時を見計らって、彼らに浮遊城へ偵察を出す話を持ち掛けた。ルヴィの真意は軍曹達に一瞬で見破られたようで、彼らはすぐにルヴィに軽蔑のまなざしを向けたが、ヨハネスの勢いのある弁舌に助けられた。

 「今なら、誰でも魔王を斃せる!」と息巻いたヨハネスの力説に吞まれた軍曹達は譲り合いの末、人と馬を集めて調査隊を編成することに目を白黒させながら同意した。話を聞きながら、ふとルヴィは魔王の周囲を固めているハズの魔王の軍勢についてヨハネスが何も考えていないことを憂慮したが、この場から逃げられることに比べればそれは些事に思えたので黙っていることにした。

 軍曹達とヨハネスが話し合った結果、生き残った騎馬のうち6騎を抽出して、ヨハネスやドニを含めた6人で現地に向かうことになった。魔王の軍勢の防御を強行突破したくなった時のためにもっと多くの人数が欲しかったが、馬は貴重な労働力で、瓦礫だらけの王都でも必要だった。

 ルヴィとヨハネスとドニの他には軍曹の1人と彼が選んだ兵士と荷役が1人付いてくることになったが、軍曹が選んだ兵士と荷役は2人とも出発の直前に雲隠れして逃げてしまった。

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