第5話 「軍曹」バルブ

 士官様と一言で言っても様々な人間がいる。優秀な士官も勇敢な士官もいて、その反対の士官もいる。バルブはどんな士官の下でも軍曹として指示に従ってきた。逆に指示なしでは勝手な行動は許されなかった。それが、綻びになり分隊が壊滅するさまを見てきた。やりたいことがあっても士官に助言や提言をする程度が限度だ。


 バルブのいる管区で唯一生き残った士官が「浮遊城に行く」「魔王をブチ殺しに行く」とか言い始めた時は殴ってでも止めようと思った。一時はルヴィの正気を疑ったが、すぐにそれは勘違いであることがわかった。狂気の元凶はルヴィが連れてきたヨハネスという男で、ルヴィは彼にノセられてるだけだった。


 一方のヨハネスは本気だった。バルブが子供の頃から聞いたことのあるような童謡や英雄譚の話を例えにして、魔王を斃すチャンスが来た!今こそその時!とヨハネスは繰り返し軍曹達に力説した。ヨハネスの話の論拠が童謡や英雄譚であることは不安材料ではあったし、彼の話のうち小難しい内容はバルブにはわからなかった。

 しかし、浮遊城が大地に堕ちたと言うのならば、それは何かのチャンスであることには違いがなかった。


 そして、バルブはヨハネスの演説している間、ルヴィがうわの空でいることに気がついた。


 潰れてしまっていたか...


 ルヴィが、管区の立て直しを放り出して逃げようとする気持ちはわからないでもない。将官でもない、小隊の隊長ですらないルヴィがこの管区の立て直しをしなければならない現状はバルブも知っていた。他の管区も似たようなもので支援は見込めず、王城は生存者が居るのかどうかすらわかっていない。あまりの損害に困り果てるルヴィにバルブや他の軍曹達も助言のしようがなく、目の前の負傷者の救助や瓦礫の片付けをしていた。

 そのルヴィからようやく出た新しい指令が「魔王討滅」になるとはバルブも予想もしていなかったが、ぎょっとする反面「やることが出来た。」という安心感もあった。他の軍曹達が戸惑う中、バルブは同行を同意した。


 バルブは彼の分隊を全員連れて行きたかったが、馬の数の問題で分隊から2人を選抜することになった。バルブは2人のベテランを指名したが、数時間後には分隊の全員が管区内から逃げて居なくなっていた。

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