第2話 「爪弾き」ドニ
浮遊城の監視から帰還したが、そもそも報告する先が無くなっていた。
一緒に帰ってきた斥候は彼を馬から降ろした後に「王都ではなくて、別の街に報告をする」言ってどこかに行ってしまった。
穴だらけの城壁を見た時はドニも派手にやられたな。と思っていたが、偶然話しかけた王都の兵士に教えてもらい、王城が綺麗に無くなっていることに気がついた。
「あー、馬乗り連中は気づいていたんだな。」
王城に報告しなくて良いのか?なんてわざわざ訊かなきゃ良かった。そうすれば、置いてきぼりなんて目に合わなかったかもしれない。いやいや、4人居た斥候のうち1人だけ置いていかれるんだ。兵隊になる前は墓荒らしだった。なんて明かさなければ良かったかもしれない。
そんなことを考えながら、ドニは道で出会う兵士たちに声をかけた。
「やぁ、僕はドニ。君は、ネズミを食べたことある?」
ほらな、こいつも変な顔をした。ドニは嘆息した。ドニにとっては最高の挨拶なのに誰もそれを理解してくれない。でも、そんなのは慣れっこだった。
ドニは何人かの生き残りに同じ挨拶を続けたが、返事については期待していなかった。王都に残って、街を歩いていたのは表情の無くなった兵士達ばかりで彼らからは返事とは言えない反応ばかりが返ってきていた。
「ネズミは...もう、逃げた。この王都にはもう1匹も居ない。」
何人に話しかけたか忘れた頃、遂に返事をしてくれる人間を見つけた。兵士ではなかったが、コイツはまだ「生きている」らしい。
返事が返ってきたことに気をよくしたドニは王城に報告するはずだった話をヨハンと名乗る男に全て話してしまった。どうせ、報告する先は更地のようになっていた。
夜目の利くドニはあの晩、浮遊城に起こったことをしっかり見ていた。ヨハンは時に絵を描いたり、書き物をしたりしてドニの話を聞いていた。ドニは文字が読めなかったが、ヨハンがドニの話を彼が見た通りに絵に描くのが面白くて仕方がなかった。
学者様とか学生様というのは、大層頭が回るとドニは聞いたことがあった。ドニがその類の人間と話をするのは初めてだったが、このヨハンはそういう人間に違いなかった。なんせ、文字が書けて絵が描けるのだ。少なくともドニには文字を書くことも絵を描くことも出来なかった。
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