保護観測惑星T
水球
第1話 序章
宵闇の中、難攻不落の空中要塞が空気を焼くような音と共にパッと火花をあげて、大輪の花が大地に落ちるかのようにドスンと落ちた。城内からは火の手が上がり、時折パッと閃光が瞬く。
これが浮遊城の終焉だ、と言われれば誰もが信じただろうが、城は城の主が封印されるか、滅びでもしない限り、この世から消えることはない。逆に言えば城が目に見える限りは、主たる「魔王」は健在だ。
記録上、この浮遊城は「勇者」以外の災害に遭ったことがない。城の主たる魔王が討たれる以外の災厄には見舞われたことがないのだ。
巨大な城郭ごと地面に叩きつけられ、針山のように聳える尖塔が崩れ、折れ、中に潜む無数の魔物が衝撃に打たれたまま業火に焼かれる未曽有の地獄絵図を魔王やその配下は体験したことがない。この災禍は今、浮遊城も彼らも史上初めて経験するものだろう。
落下地点のそばにいた何人かの人間がしばらく呆然と大地に落ちた空塞の燃え広がる様を眺めていたが、そのうち我に返り、闇に紛れて去っていった。
浮遊城が空から消えたことはすぐに誰もが知るところとなった。ある方角の空に目を向ければ必ず目に入ったものが、ある日を境に空をどんなに見回しても見つけられなくなったのだから、当然とも言える。
しかし、「どこかの勇者が魔王の討伐に成功したのでは?」というような噂話はすぐに消えた。数は減ったものの魔王配下の魔物の活動は未だに治まらず、各地の村や集落は多くの被害を受け続けていた。家畜が奪われ、畑は荒らされ、女子供は攫われた。腕っぷしの強い小村の勇者や、戦神の神殿の神官や、勇名を轟かせた兵士が魔物に挑んだが、彼らも傷つき、やがては還らぬ人となり、一度は希望を抱いた人々も、まもなく絶望の日々に還った。
魔王の城が大地に墜ちた、と聞いても多くの人にとっては何の感情も感慨もなかった。魔王の城が空に浮いていなくても、今日も明日も魔王の魔の手の恐怖から開放されはしないことを彼らはやがて知った。
この国の王は既に国の外に逃げ、王女は囚われ、王国の兵団がもはや統率を失っていることは国中にとうに知れ渡っていた。この国は既に亡国となりつつあるのだ。
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