第123話 後始末の後で
「だぁー……」
後始末をオディロンたちに任せ、オレは屋敷へと戻ってきていた。屋敷に戻ると、オレたちをひどく心配していた姉貴に問い詰められたが、全員無事を伝えて、オレは逃げ込むように自室に籠っていた。
ベッドの上に横になると、豪華に装飾された天井が見える。オレの部屋なのに、場違いな気持ちを覚えるほどだ。なんだか落ち着かない。
「結局、殺っちまったなぁ……」
思い出すのは、つい先ほどあった『切り裂く闇』との戦闘だ。クロードも、ブランディーヌも、グラシアンも、ジョルジュも、セドリックも、オレは全員を始末することを選択した。全員、止めを刺したのはオレだ。さすがにそこまでクロエたちに任せることはできない。オレの事情で、手を汚すようなことにはなってほしくなかったからな。
「バカどもめ……」
ブランディーヌたちが暴走し、オレどころか姉貴やクロエたちまで標的にするほど狂ってしまった。そんなの、殺すしかないじゃないか。
ブランディーヌたちは、曲がりなりにもレベル6ダンジョンを攻略した実力者だ。衛兵に突き出したとしても、そんな奴らの管理なんてできないだろう。そして、どんな条件が付けられるかは分からないが、またシャバに戻ってくる可能性が高い。
生かしておけば、確実に禍根となる。
だから、始末したわけだが……。
「クソッ……」
理屈の上では、殺すのが最善だというのは分かっている。だが、本音を言えば、オレは『切り裂く闇』の連中を殺したくて殺したわけではない。甘い。甘いのは分かってる。分かっているが……。
「なんで、こんなことになっちまったかなぁ……」
アイツらだって、最初は目をキラキラさせた夢見る少年少女だった。オレのことも、素直に尊敬してくれた。それがいつの間にか反発され、蔑まれ……。挙句の果てには追放だ。
未練があるわけじゃない。後悔もしていない。だが、それでも……。
なにか別の道があったんじゃねぇかな。そんな妄想がふと頭を過る。
「まぁ、もう終わったことか……」
そう。もう終わったことだ。『切り裂く闇』の面々は、終わらせた。オレが終わらせたのだ。
頭では分かっているのに、なんだか胸がモヤモヤするのが消えない。その程度は、あのバカどもにもまだ愛着があったのだろう。
「はぁー……」
コンコンコンッ!
胸のモヤモヤを吐き出すように深い溜息を吐くと、部屋にノックの音が飛び込んできた。誰だ。
「開いてるぜ」
オレはベッドの上で上体を起こすと、ベッドの縁に腰かける。
「叔父さん、今、大丈夫?」
クロエ? 皆と菓子でも食いに行ったんじゃないのか?
「大丈夫だ。入ってくれ」
「うん」
クロエの入室を断るなど、オレの辞書にはない。たとえどんな状況だろうと、オレがクロエを拒むなどありえない。
クロエの澄んだ美しい調べを聞くと、オレの胸もスッとモヤモヤが晴れていくような心地がした。さすがプリティエンジェルクロエだな。まるで厚い雲を割って一筋の光が射しこんだようだ。
ちなみに、雲を割って降り注ぐ光の柱のことをエンジェルラダーと呼ぶらしい。直訳すれば、天使のはしごだな。まさしくクロエにぴったりだ。
「お邪魔します」
「邪魔するわよ」
「おっじゃましまーす!」
「んっ……」
「失礼いたしますわぁ」
「なんだお前ら……」
クロエだけかと思ったら、イザベルに、ジゼル、リディ、エレオノール、『五花の夢』のメンバーが勢揃いだ。
「どっか、菓子でも食いに行ってたんじゃねぇのか?」
「それなら早めに切り上げてきたわ。その、叔父さんが心配だったから」
「心配?」
なんでクロエたちがオレを心配してるんだ?
「まぁ、それより立ちっぱなしってのもな……。ベッドで悪いが座ってくれよ」
「うん」
オレは腰かけていたベッドから立ち上がると、ベッドをクロエたちに空け渡し、部屋に備え付けの机にある椅子に座った。
クロエたちは素直にベッドの縁に座っていく。広いベッドは、五人の少女たちを受け止めても、まだ余裕があるようだった。ベッドの縁に五人座った少女たち。その様子は仲睦まじげだ。
「それで? オレを心配してこんな早く帰ってきたのか?」
「うん、そう」
「クロエが言い出したのよ? 貴方が寂しい思いをしてるんじゃないかって」
「そうなのか?」
「うん……」
イザベルの言葉にクロエに問えば、クロエは少し恥ずかしそうにしながらコクンと頷いた。オレが寂しい思いをしている?
「気持ちは嬉しいけどよ? オレはべつに寂しくないぞ? 独りで寂しいなんて年じゃねぇしな」
「だって、あの人たちって叔父さんの前のパーティメンバーだったんでしょ? 叔父さんがパーティから追い出されたのも知ってるよ。けど叔父さんなら、それでもあの人たちが犯罪者になっちゃったら悲しいんじゃないかって。それで……」
「…………」
まさか、クロエにそこまで気にさせてしまっていたとは……。そしてクロエにとって、オレの心を読むなど造作も無いかのように、ひょっとしたらオレよりも正確に把握しているかのように、オレの心の機微を言い当てる。
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