第121話 戦いの終わり
「クソッ!」
グラシアンの始末を終えたオレが来た頃には、ジョルジュの奴は既にお縄になっていた。後ろ手に腕を縛られ、地面に転がされている。
「チッ」
オレの顔を見るなり、盛大に舌打ちしてみせるジョルジュ。かなり悔しげな顔をしているな。数が数とはいえ、格下の少女たちに生け捕りにされたのだから、ジョルジュの悔しさも分からんでもない。だが、オレにはジョルジュの悔しさの向こう側が透けて見えるようだった。
「よくやったな、お前ら。生け捕りにするなんてすげーじゃねぇか」
オレはクロエたち『五花の夢』のメンバーの頭を軽く撫でていく。
「えへへ」
「まぁね!」
「まぁ、大したことじゃないわ」
「ありがとうございます!」
「むふ……」
クロエたちは、オレに頭を撫でられて喜んでいるように見えた。オレに褒められて喜んでいる。いい傾向だな。クロエたちに嫌われているわけではないことは分かっていたが、実際に確認すると安心する。
「おーい、そっちも片付いたか?」
振り向けば、巨大な両手斧を背負ったオディロンが、近づいてくるのが見えた。オディロンのパーティに処理を任せた冒険者崩れどもとの戦闘が終わったのだろう。練度が天と地ほど違うとはいえ、数的劣勢にあったのにもかかわらず、早いな。さすがだ。
「こっちも今片付いたところだ。そっちはどうだ?」
「全員生け捕りにしてやったわい。報奨金が楽しみじゃのう」
ガハハと豪快に笑うオディロン。まさか、あの人数を全員生け捕りにするとはな。
当たり前だが、殺しちまうより生け捕りにする方が難易度は高い。冒険者崩れは三十人ほどいたはずだ。一人も逃さずに生け捕りにしちまうとは、さすがオディロンのパーティだ。オディロンのパーティに依頼を出して正解だったな。
「増援もねぇみたいだし、解散でいいか?」
「うむ」
「ちょっといいかしら?」
「なんだ、イザベル?」
「この捕まえたのはどうするのかしら? まさか……殺すの?」
オレはイザベルの疑問を笑い飛ばす。
「そんなもったいないことするかよ。こいつら犯罪者は、衛兵の詰め所に持って行くと、報奨金が貰えるんだ。まぁ、大した額にはならんが、それでも小遣いぐらいにゃなる」
「……そういうこと」
「あーしらもお小遣い貰える?」
「あ! あたしも欲しい!」
イザベルがなにかを覚った顔で頷く横で、ジゼルとクロエが騒ぎ出した。今回は、クロエたちには迷惑かけちまったからな。その分多めに渡すとすっか。
「もちろんだ。報奨金の分と、オレからも上乗せして渡すぞ。皆、今日は本当にありがとう。皆が居て助かった」
「報奨金の分だけで結構よ。私たちはパーティなのだから、そんな水臭いことしないでちょうだい」
「そうそう! あーしらパーティだからね!」
「わたくしも、なにかあったら助け合うのがパーティの姿だと思いますわ」
「んっ……!」
「だって、叔父さん?」
「お前ら……」
まさか、『五花の夢』のメンバーにそこまで想われているとは……。
成人したばかりの少女たちの中に、オレにみたいなおじさんが一人。どう見ても浮いているし、上手く馴染めるかどうか、正直ものすごく不安だった。しかも、パーティのリーダーとして入るとは夢にも思わなかったし、上手く導けるかどうかも不安だった。オレのせいで、パーティが空中分解してしまう可能性すらあると思っていた。
そんな後ろ向きで、不安ばかりのオレが、まさかここまで慕われているとは……。
思わず涙腺が緩むのを感じたが、必死に涙を流さないように我慢する。ここで泣くのは、ちょっとどころか照れくさい。
「ありがとよ、皆」
クロエたちは、オレの言葉に当然とばかりに頷いてくれた。
「後の面倒なことはオレとオディロンたちでやっておく。皆は解散でいいぞ。本当に、今日はありがとう」
「えー、あーしも付いていくよー」
「そうそう。あたしたちパーティだもん」
ジゼルとクロエの申し出はありがたいが、この後を考えると困っちまうな……。そんなことを考えていると、イザベルが口を開く。
「ここはリーダーに任せましょう。思うところもあるでしょうし、ね。私たちは、スイーツでも食べに行きましょう。今日はもう疲れたわ」
「スイーツ! あーしも食べたい!」
「あたしも!」
「そうですね。わたくしも、今日は疲れてしまいました」
「んっ。たべる……」
イザベルが、上手いこと皆の興味を移して解散の流れにもっていく。おそらくだが、イザベルはこの後なにが起こるか察しているのだろう。相変わらず聡い娘だな。助かる。
「これ、報奨金の前渡しだ。スイーツ代にでも使ってくれ」
「ええ」
「スイーツ! スイーツ!」
「あたし、気になるお店があるのよねー」
オレはイザベルに報奨金と称したスイーツ代を渡し、『五花の夢』のメンバーには、悪いがお帰り願った。この先は、あまり見せられたものじゃないからな。
「じゃあ、やっちまうか」
遠くに離れ行くクロエたちの後姿を見ながら、オレは小さく零したのだった。
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