第185話 最終試練
床、壁、天井、全てが真っ白な通路を進む。
ふと気になったので、後ろを振り返ると外は見えなくなっていた。
異界の扉という単語もそうだし、時間の流れが違うとも言っていたから切り離されているのだろう。
魔物や他の生き物の気配は感じないが、油断しないように進んでいく。
10分程進んだところで通路は右に折れ曲がり、曲がった先には学校などでよくみかけるスライドドアが存在していた。
他に道は無い、このドアを開けて進めということだろうか?
この先もまた別の空間なのかドアの先の気配は読めない。
腰の聖剣に手を掛けながら油断しないよう気を付けて扉を開いた。
『ようこそ。お待ちしていました』
ドアの先には部屋があった。
スライドドアを見た時にも思ったが、学校の教室くらいの部屋だ。
中には3人、部屋の真ん中に置かれた長テーブルの奥に並んで座っている。
長テーブルの手前にはパイプ椅子のようなものも置かれている。
……面接?
『どうぞそのままお進み下さい』
「……はい」
敵意は無さそうだ。
聖剣の柄から手を離して部屋に足を踏み入れる。警戒は怠らないようにしなければ。
『そちらにお掛けください』
俺から見て右側に座る存在から座るよう促される。
椅子に向かって進みながら3つの存在をよく見てみると、どことなくルシフェルの居た迷宮内で見たウルトの中の人に似ているような気がする。
ということは天使?
警戒しながらパイプ椅子に腰掛けると、今度は真ん中に座る存在が口を開いた。
『はじめまして。私の名前はミカエル。君から見て右側に居るのがウリエル。左側がラファエルだよ』
『ラファエルです。どうぞよろしく』
『ウリエルだ』
3人の……人でいいのかな? まぁいいや、3人の自己紹介が終わり視線が俺に集中する。
……なんぞこれ?
「えっと……久里井戸玲央です」
あれ?
レオ・クリードと答えたつもりだったが俺の口から出たのは久里井戸玲央の方だった。
『不思議そうな顔をしているね』
ミカエルと名乗った天使は微笑みながらこちらを見つめている。
『この空間では嘘はつけない。それを覚えておいてね』
そうなんだ。
俺の中で久里井戸玲央が正解でレオ・クリードは偽名扱いなのか、今初めて知ったよ。
『理解して貰えたようだね。では、最終試練を始めようか』
いかん、予想外すぎて少し惚けてしまっていた。
気を引き締めなければ……
『まずは人格面、ガブリエルからの報告から見るに問題は無さそうだね。孤児に対する慈悲の心は評価が高いよ』
「……どうも」
『それに被災地に対しての援助なんかもね。君はとても慈悲深い人みたいだね』
そんなことは無いと思うんだけどな……
あくまで日本人の価値観だし、何だかんだで金に困ってなかったからできた事だし。
『反面、盗賊団に対する容赦の無さも私から見ると好ましい。人格的に問題は無いと判断するよ』
そう言ってミカエルは頷いて話を終える。
あれ? 教国のお偉方や王国のお偉方の前でブチ切れたことは不問なのかな?
続けてラファエルと名乗った天使が話し始める。
『久里井戸さん、貴方は異世界、日本という国で高度な教育を受けているはずです。その知識をこの世界で活かさなかった理由はありますか?』
魔法とか技とか考える時には大変役に立ったけど……
多分そういう事じゃなくて、科学知識とか政治理念とかそんな感じの話だろうね。
「活かすもなにも……覚えてないし」
酸素を加えると火力が上がるとか、光合成とかは何となく覚えてるけど活用する場面無くない?
確かに魔法を使う時には……ああ、俺あんま魔法使ってないわ……
『なるほど、では覚えていれば活用しましたか?』
「戦闘技術としてなら使ったかも。私生活で使ったり、知識をひけらかしたりはしないかな。勇者とか賢者ならやりそうだけど」
別にこの世界を発展させようとも思わないし、この世界が科学じゃなくて魔法で発展していくならそれでいいじゃない。
政治にしても、別に封建制度で何が悪いの。
インターネットどころかテレビもラジオも新聞も無いこの世界で民主主義とか無理だろ。
それに誰かに何かを教えられるほど偉くないし。
あ、侯爵様だったわ……
『なるほど、久里井戸さんの考えは理解しました。政治体系についても僕も同意見ですね』
「もしかして心の声聞かれてる感じ?」
『はい。ダダ漏れです』
ダダ漏れなのか。まぁいいけど。
『無用な知識を持ち込むことは無駄な争いや事件、事故を引き起こします。それをしない久里井戸さんに僕は好感が持てますね。僕からは以上です』
ラファエルの話も終わりらしい。
それよりこれ、なんなの?
『最後は俺だな。戦闘能力に関してはなんの問題もない。技術的にまだ拙いところはあるがそれを補ってあまりある身体能力があるしな』
どーも。
『どういたしまして、だな。次に精神面の強さだが、これも問題無さそうだ。芯がある。それでいて細かいことは気にしない柔軟性も持ち合わせているな。責任感もある』
昔から鉄の心臓とか、心臓にびっしり毛が生えてるとか言われて来たからなぁ……
『合格だ。ミカエルとラファエルも合格だろう? ならもうガブリエルの意見は必要無いな?』
ガブリエル……ウルトか。ウルトも審査員なのか。
『意見は聞いていますよ。マスターは最高です。だそうです』
『ならガブリエルも合格ってことだな。満場一致だな!』
ウルト……試練の内容は知らないって言ってたのに、意見出してるってことは知ってたな?
知った上で隠してたな?
『以結論としては全員合格だね。おめでとう久里井戸くん。最終試練合格だよ』
「え……」
『嬉しくないのかい?』
「いや、てっきり戦闘でもあるものだと……」
強敵と戦え! とかこの試練の迷宮を攻略せよ! とかそんな感じかと……
ゲームのやり過ぎかな。
『戦いたいのなら俺が相手をしてやるが……さっきも言ったがお前さんの戦闘能力は一級品、改めて調べる必要は無いな』
「そっすか……」
なんだろう、拍子抜け……なのかな?
自分より強い相手と戦うことも視野に入れてたんだけどなぁ。
『強いだけでもダメだからね。それはわかるよね?』
「まぁ……」
確か力なき正義は無力、正義なき力は暴力だっけ?
自分が正義とは思えないけども。
『それでいいんだ。人が一番残酷になる時とは自分が正義の側に立っていると信じているときだからね』
それは何となく分かる気がする。
『さて、最終試練も突破したことだし、神の座へと案内しよう』
ミカエルの言葉と共に景色が変わる。
いつの間にか俺は立っていて、俺の前にミカエルたち天使の姿は無い。
その代わり、どこまでも続くような階段が姿を現していた。
周りには誰も居ない。入ってきた扉も存在しない。あるのは目の前に伸びる階段だけだ。
「これを上るのか……」
上を見上げても先は見えない。一体どれほど段数があるのやら。
「実はこれが最終試練だったり?」
ため息が漏れる。
ウリエルは俺は精神的にも強いとか、芯があるとか言っていたけど早速折れそうだ。
これなら強敵と死闘を演じた方が……いや、そうでもないな。
「行きますか……ね!」
息を吐いて気合いを入れ直し階段に足をかけた。
「ふぅ……」
どれだけ上っただろうか?
300段くらいまでは数えてたんだけど、そこから先は分からなくなった。
振り返って下を見るとかなり上ったように見えるがまだまだ先は見えない。
やはりこれが試練なのではなかろうか……
それから数時間上り続けてようやく終点が見えてきた。
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