第180話 クリード、やらかす

 ベラは大変に研究熱心でした。


 翌朝起きて準備を整えてから最後の迷宮へと向かう。


「最後の迷宮ね、早く行きましょう」

「そうだね。リンはちょっとこっち来てね」


 ウルトに乗って迷宮へと攻め込む。

 リンを除くよめーずを前の方に座らせて俺はリンに詳しく話を聞くことにした。


「ってことがあったんだけど」

「良かったわね。それでどうだったの?」

「結構なお手前で……じゃなくて、なんでリンがあんなこと知ってたの?」


 この世界でも普通のことなの?

 でもベラは俺の居た世界ではって言ってたような?


「初代ヒメカワ家当主はレオと同じ世界の出身ってことは知ってるわよね?」

「ああ、勇者の仲間だったんだろ?」

「そうそう。その初代様が書き残した本に書いてたのよ」


 なんて本残してるんだよ……


「ヒメカワ家の人間は結婚前に全員その本で勉強するのよ。だからヒメカワ家に連なる者で子供が産まれずに……って話はほとんど例がないのよ」

「そうなんだ……」


 でもリンにしてもらった事って無いような……


「口でってなにか抵抗あるじゃない? 後で実践したベラに話を聞いておくわ」

「それはそれでどうかと思う」


 リンらしいと言えばらしいけど……


「レオはしてくれるけどね」

「それ以上はいけない」


 リンとの話を打ち切ってよめーずの下に戻る。


「レオ様、なにを話してたの?」

「イリアーナにはまだ少し早いかなぁ?」

「むぅ……あたしもうすぐ20歳だよ?」

「いやまぁそれはそれは……」


 イリアーナって20歳だったんだ……てっきり15歳くらいかと……


 そういえば俺ベラの年齢も知らない……

 これって不味いのでは?


 えっと……確かサーシャが17歳、リンが27歳、ソフィアが22歳でアンナが19歳……それでイリアーナが20歳か。

 あれ? アンナとイリアーナは同い年?


 ベラは……10代だとは思うんだけど……


「ベラ、ちょっといい?」

「なんですの?」


 先程までリンと話していた隅に呼び出して話をしてみる。


「ベラ、凄く申し訳無いんだけどさ……」

「はい? なんでしょうか?」


 ベラは怪訝な顔でこちらを見ている。


「ベラってさ、歳いくつ?」

「13ですが……」

「13!?」


 あ、オワタ……俺オワタ……

 そうだ、死のう……潔く腹を切ろう……

 魔剣で切れば治らないから……


「いくつだと思ってましたの?」


 そんなことを真剣に考えていると、ベラが質問してくる。

 答えたら死のう……


「15か16歳くらいだと……」


 俺が正直に答えると、ベラは小さく息を吐いた。


「旦那様? 旦那様はわたくしが勇者召喚の後に聖女になった事は知っていましたよね?」

「……ああ」


 そういえばそうだった……


「覚えていませんでしたのね……それならば仕方ありませんが、わたくしは就職の儀で聖女になりましたの」

「ということはまだ……」

「成人はしていませんわね。それもあって結婚式には新婦として参加していません」


 ああ……どうして俺は確認しなかったのか……

 当時の俺の首を刎ねたい気分だ……


「その……すまない。俺の責任だ」

「あの、先程から何を?」


 ベラはなんの事だか分かっていないようだ。


「いや、未成年に手を出してしまって」


 俺の認識からすると、リンとソフィア以外は未成年なんだけどね。

 とりあえずアンナは18歳超えてるからセーフ、サーシャはアウトだ。


「平民ならまだしも、一応わたくしは貴族の出ですわ。貴族なら有り得ないことでもありません」

「そうなの?」

「はい。年齢一桁で婚約というのも珍しくはありませんし、子供を産める体になったらすぐに嫁ぐことも珍しくはありません」


 子供を産める体……初潮を迎えたらってことか。

 なら……俺死ななくていい?


「旦那様も貴族です。なので問題は無いかと思いますが」

「そうなんだ……俺の居た世界だと13歳の女の子に手を出したらすぐに警察……こっちだと憲兵とかかな? に捕まるからね」

「そうですの? でしたら、責任を取って貰いませんと」

「ああ、もちろん責任は取るさ」


 こうやって話してると13歳には思えない。

 13歳って中学生だよな……中学生の時の俺なんて……

 辞めよう、悲しくなりそうだ。


 これは大人びてるベラが悪いんであって俺は……

 ごめんなさい嘘です100パーセント俺が悪いです。


 そんな話をしているうちに昼食時となったので【無限積載】の中に保存してある食事をとる。


 現在位置は4階層終盤、間もなくボス部屋にたどり着くだろう。

 話に夢中でこの迷宮に出現する魔物を見ていなかった。


「ソフィア、この迷宮ってどんな魔物が出現するんだ?」


 静かに周りを見たり手に持っている本を読んだりしていたソフィアに尋ねてみる。なんの本だろう?


「特殊な魔物ばかりですね。エレメント系の魔物がほとんどです」

「エレメント?」

「はい。各種属性攻撃をしてくる厄介な魔物ですね。見た目は……ちょうど現れたようです」


 ソフィアの視線の向かう方向を見てみると、赤く光る人型の影が立っていた。


「レッサーファイアエレメンタルですね。火属性の魔法を使ってくる魔物です」


 ソフィアが手に持っている本を見ながら説明してくれる。

 説明と同時にレッサーファイアエレメンタルは火球を放ってくる。


 サイズは小さく、火力もそこまで高くは無さそうだ。飛んでくる速度も遅い。


 当然ウルトに通用する訳もなくそのまま突進、ウルトと衝突したレッサーファイアエレメンタルは一瞬で消滅した。


「消えたな、素材とかは取れないの?」

「はい。エレメント系の魔物からは素材は取れません。代わりに属性魔石を落とします」

『こちらです』


 ソフィアから説明を聞いていると、ウルトが割り込んできた。


 テーブルの上に小さな赤い魔石が出現、これが属性魔石か。


「これって何に使うんだ?」

「これは……」

「属性魔石も普通の魔石と同じで魔道具の燃料になります。普通の魔石よりそれぞれの属性に特化しているので普通の魔石より少し高値で取引されていますね」


 ソフィアが言い淀んでいると、横からサーシャが入ってきて説明してくれた。


「魔道具か、何回か見たことはあるけど持ってないな」


【無限積載】にも入ってないよな?

 魔法が付与された装備品が魔道具だというなら山ほど持ってるけど。


「レオ様、屋敷にもたくさんありますよ?」

「そうなの?」

「はい。ランプもそうですし、厨房にも設置されています。お風呂を沸かしているのも魔道具ですよ?」

「そういえば説明されたような……」


 でもあれ魔力込めて使ってるよね?


「私たちのように魔力に余裕のある人は自分で魔力を注ぎますが、魔力の少ない人は魔石を利用して魔道具を使用するのです」

「なるほど……」


 なら俺の死蔵してる魔石も屋敷に出しておこうかな?


「色付きのが属性魔石なんだよね? 何個かあると思うけど」

「エレメント系以外の魔物でもたまに属性魔石を持っている個体がいますからね。珍しいですよ?」

「そうなんだ」


 新しい知識を覚えているうちに無事ボス部屋も突破。

 5階層へと進んで行く。

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