第179話 攻略前夜

 みんなで黒毛和牛ミノタウロスのヒレ肉を堪能した後転移魔法陣を使って地上へと帰還する。

 サーシャに渡した10キロほどの肉塊は全て俺たちの胃に収まっていた。


「うぅ……食べ過ぎたッス」

「あれはいけません。自分を抑えることができませんでした」

 ソフィアとアンナもお腹を擦りながら苦しげな表情を浮かべている。

 2人共普段の倍くらい食べてたからな。


「さて……今からもう1つの迷宮に突入してもいいんだけど……」


 みんなの様子を見てみると、ソフィアたちと同じように食べ過ぎで苦しそうだ。


 うん、帰ろうか。


 全員をウルトから降ろしてウルトを小型化、ポケットに仕舞ってから自宅に転移する。


「旦那様、おかえりなさいませ」

「ただいま。今日は屋敷でのんびりするから」

「かしこまりました」


 使用人たちも慣れたようで、いきなり俺たちが転移で帰宅しても慌てないようになっていた。


 すでにイリアーナの部屋も整えられているそうなのでこの前2人で出かけた時に購入した物をその部屋で出しておく。


「レオ様、ありがとう」

「構わないよ。あとはメイドに手伝ってもらってね」


 俺とイリアーナはまだ夫婦では無い。

 夫婦であったとしても旦那に見られたくないものもあるだろうからメイドに任せて俺は部屋を出る。


 庭に出て剣を振って汗を流しながら時間を潰す。

 屋敷に戻ってすぐイリアーナとベラを除くよめーずが風呂に入って行ったので順番待ちである。


 別によめーず入浴中に突撃しても怒られることは無いだろうけど、さすがにね……


 1時間半ほど剣を振ってから屋敷に戻るとよめーずはリビングに集結していた。

 どうやら風呂は空いたらしい。


 ゆっくりと風呂に浸かって疲れを癒して上がる。


 明日も迷宮だし、今夜はゆっくり休もうという話になったので自室に戻り横になる。

 明日はいよいよ最後の迷宮だ。


「なぁウルト」

『なんでしょうか?』


 ベッドに転がりながらサイドテーブルのウルトに声をかける。


「明日ですべての迷宮を攻略するわけだけど、攻略したらすぐに神の座に行けるのか?」

『すぐにという訳にはいきません。まだ最終試練が残っていますので』


 最終試練?


「え、まだ何かあるの?」

『はい。7つの力を集めると最終試練に挑むことが出来ます。その試練を突破することが出来れば神の座へと行くことが出来ます』

「すべての迷宮を攻略することが試練だと思ってたよ……」


 違うのか……まだあるのか……


『マスターなら問題なく突破出来るはずです』

「ありがとう。それで最終試練とやらの内容は?」

『申し訳ございません。それは私の知識にはありません』


 知らないのに俺なら突破出来るとか……

 ウルトからの信頼が重いね。


『どうされました?』


 30分ほどゴロゴロしていたが眠れる気配が無い。

 ずっと1人で寝る機会が無かったからそろそろ大丈夫かと思ったがダメらしい。


「眠れない」

『なるほど、どなたかお呼びしますか?』

「いや……」


 わざわざ呼び出すのも悪いし、たまには俺から行ってみようか。


 立ち上がり、部屋を出る。誰のところに行こうかな?


 既に寝ていたらさすがに申し訳ないので気配を探り起きている嫁を探る。


 サーシャは既に寝ているようだ。

 ソフィアとアンナは同じ部屋に居る。

 イリアーナはまだ結婚していないので一緒に寝るのには抵抗がある。


 となるとリンかベラのどちらかだな。

 それならこういう機会のあまり無いベラの部屋へ行こう。


 扉の前まで移動して軽く扉を叩く。


「どちら様ですの?」

「レオだけど、ちょっといいかな?」

「旦那様? すぐに開けますわ」


 パタパタと足音が聞こえてすぐに扉が開かれた。


「お待たせ致しました。どうされたんですの?」

「1人じゃ寝れなくてさ、一緒に寝てくれない?」


 ベラは一瞬キョトンとした顔になるが、すぐに真っ赤になってしまう。


「だ、旦那様がどうしてもと言うなら……」

「どうしても。頼むよ」

「わ、分かりましたわ……どうぞ」


 部屋に通されたので中に入り部屋の中を見渡す。

 ベラはしゃべり方や顔立ちはなんとなくお嬢様っぽいのに部屋の中は殺風景だ。


 よめーずで出掛けたりする時にはお金も渡したりしているのだが、ベラは私物を買うのではなく教会や孤児院などに寄付しているらしい。

 私服も質素なものだし、今度買い物にでも連れ出して色々買おうと思う。

 ベラにはもっと派手な服が似合うと思う。

 扇子を持たせてみてもいいな……


「どうぞ」


 部屋の片隅に備え付けられている小さなテーブルセットに腰掛けると、ぎこちない動きでお茶を淹れてくれた。


「ありがとう」


 受け取って一口飲む。うん、美味い。


「なんだか落ち着きないみたいだけど、どうしたの?」

「い、いえ! なんでもありませんわ!」


 ベラはソワソワとしている。

 なんだろう、迷惑だったかな?


「迷惑だった?」


 まぁ予告無しに来てるし仕方ない。

 この一杯頂いたら戻ろうかな……


「迷惑などとは……わたくしを訪ねてきてくださったことは心から嬉しく思いますわ。でも……あの……」


 なんだかモジモジして言いづらそうだ。なんだろう?


「今日は……その、あの日……なので」

「……ああ」


 なるほど、そういうことね。


「それが目的で来たわけじゃないからね。ただ俺がベラと一緒に寝たかっただけだから」

「それなら……」


 小さく頷いてくれた。


 お茶を飲み干して歯磨き代わりに自分に浄化魔法を掛けてベラをベッドに誘う。

 まだ慣れないのか、ベラは俯きながら俺に着いてくる。


 俺が先に横になると、俺の右腕を枕にするようにベラも横になった。

 そっと抱き寄せて布団を掛ける。


 うん、眠れそうだ。


「あの、旦那様?」

「ん? どうかした? 苦しい?」

「いえ、そうではなく……リンさんから聞いたのですが……」


 リンから? 何を?


「旦那様の居た世界では、手とお口で御奉仕することもあると」


 ……あいつはなんてことを教えてるんだ!


「だから……御奉仕しましょうか?」

「いや……無理にしなくても……」

「御奉仕してもよろしいでしょうか?」

「したいの?」


 少しの沈黙、ベラは数秒黙ってから小さく頷いた。


「してみたい……ですわ」

「じゃあ……」


 お願いします、と言おうとしたが口を開く前に俺の唇はベラのそれに塞がれた。


「初めてですので……その……教えてくださいまし」

「あ、ああ……」


 それからベラに色々と教えることになってしまった。


 本当にリンはなんてけしからんことを教えているのだろうか。

 ありがとう。

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