第173話 久里井戸タクシー
「んむ……」
「ふふ……おはようございますレオ様」
「おはようサーシャ」
朝目が覚めると目の前にサーシャが居た。
俺より先に起きていただろうにそのまま俺の腕を枕にして寝顔を眺めていたのだろう。
「早く起きないとみんな来ちゃいますよ?」
「ああ、起きるよ」
腕に少しだけ力を入れて一度ギュッと抱きしめキスをしてから体を起こした。
「もぅ……あの私はお風呂に入ってきますから、早く起きてくださいね!」
顔を赤らめながらサーシャは立ち上がり、翌浴室に向けて歩き始めた。
サーシャが立ち上がった際に柔らかそうな桃が見えたので思わず手を伸ばしたがサーシャが歩き出す方が早く俺の右手は空を切った。
気付かれなかったからセーフである。
とりあえずまずは片付けか、自分と布団に浄化魔法を掛けて下着を身につける。
適当に【無限積載】の中にある服を思い浮かべて取り出して装着、準備は整った。
「お待たせしました」
30分ほど経ちサーシャも風呂から上がってきた。
他のよめーずはまだ誰も姿を現さない。
「気を使ってるのかな?」
「どうでしょう? もしかしたらまだ起きていないのかもしれませんね……」
時刻は既に8時を回っている。
もう間もなく朝食が運ばれてくる時間だ。
確認のため【思念共有】を発動してウルトに話しかける。
――おはようウルト。
『おはようございますマスター』
――みんなは? まだ寝てる?
『はい。お休み中です』
――……起こして差し上げろ。
『かしこまりました』
ウルトとの会話を終了して【思念共有】を解除する。
「まだ寝てた……」
「朝食に間に合いますかね?」
俺たちが心配してもどうしようもない。
サーシャならまだしも俺が行ってもただ慌てて着替えるよめーずを眺めるだけになってしまう。
邪魔でしかない。
そんなこんなでどうしようもないと割り切ってサーシャと2人でのんびりとみんなを待っていると、バンと扉が開かれた。
「おはよう! レオ、サーシャちゃん」
「お、おはようございます」
「失態です。申し訳ございません」
「はよッス!」
よめーずが揃って部屋に入ってきた。
朝食はまだ運ばれてきていない、セーフである。
そんな慌ただしい朝を過ごし、数時間後にはイリアーナとジェイドも顔を出してみんなでお茶会、昼食後に俺は皇帝の執務室へとやって来ていた。
「レオ・クリード参りました」
中では皇帝といつもの秘書官が数人、それと見たことの無い若い男が待っていた。
男はクリス・バーグと名乗りどうやら【思念共有】の使える人間で今回教国へと派遣される人らしい。
「レオ・クリードです。お見知り置きを」
こちらも自己紹介を返して軽く握手、その際クリスはじっと俺の顔を見つめてきた。
え? なに? アタシには妻がいるのよ!?
「失礼致しました。もう大丈夫です」
「は、はぁ……」
何だったのだろうか?
まぁあまり気にしても仕方ない、皇帝に挨拶をして教国王城近くの裏路地へと転移する。
少し歩いて王城へ、王城では前もって俺たちの来訪を分かっていたからか出迎えの人間が待っていた。
青い軍服を着込んだ彼はパウロ・ベッツと名乗り俺たちを国王の待つ執務室へと案内してくれた。
パウロはそのまま俺たちと共に入室、扉の横に控えた。
「よく来たなクリード侯爵、そちらが?」
「はい。こちらが今回帝国より派遣されて来た職員でクリス・バーグ殿です」
クリスにも国王とアンドレイさんを紹介、これで俺のお役目は終わりかな……
「クリード侯爵、紹介しよう。こちらはグレンデル伯爵家の四男でロイ・グレンデル殿だ」
「お初にお目にかかります侯爵様。ロイ・グレンデルと申します」
「ああ、どうも……レオ・クリードです」
「ロイ殿は教国から帝国へと派遣する【思念共有】スキルを持った者だ。どうか帝国まで連れて行ってやっては貰えないだろうか?」
「それは構いませんが」
俺とアンドレイさんが話している間にクリスとロイはお互い自己紹介、握手をしながらお互いの顔を見つめあっていた。
「ライノス公爵、彼らはなにを?」
「アレかい? どうも【思念共有】を使うには顔と名前をハッキリ覚えておかないといけないらしくてね、お互いの顔を覚えているんじゃないのかな?」
「なるほど」
【思念共有】を使うにはそんな条件があったのか……
今まで何気なく使っていたけど確かにハッキリと顔を覚えている相手にしか使ってないな……
そもそも顔も知らない相手に送ることも無いけど。
「そういえば今更な質問かもしれませんが、よろしいですか?」
「うん? なんだい?」
「【思念共有】が出来る者同士を会わせたらあとは自国に戻ればいいのでは? わざわざ出向する必要あるんですかね?」
単純な疑問だ。
【思念共有】が出来る者同士がお互いの顔を記憶すればお互い出向する必要無いよね?
「ああ、それはね、信頼関係の構築と彼らの功績作りだね。クリス殿も貴族の子弟なんだろう?」
「はい、クリス殿も伯爵家の三男だと聞いています」
「貴族の子弟がする仕事というのは案外少ないものでね、こういう機会に功績を作れるようにしているんだよ。それにお互い貴族の子弟を交換するんだ、信頼関係の現れだね」
そういうもんか?
まぁアンドレイさんが言うのだからそういうものなんだろう。
「お、終わったようだね、じゃあクリード侯爵、ロイ殿のこと頼むよ」
「お任せ下さい」
俺が【傲慢なる者の瞳】で帝城周辺の転移出現ポイントを探っている間ロイはじっと俺の顔を見ていた。
「では行きましょうか。失礼します」
ロイの肩に手を置いて転移、そこからまた歩いて皇帝の執務室まで移動する。
皇帝にロイを紹介すると本日の俺のお仕事は終了、自室へと戻る。
部屋に戻ると誰もいない。
呼び鈴を鳴らして部屋付きのメイドを呼び出して聞いてみると、どうやら中庭に居るようだ。
メイドに案内されて中庭へと移動すると、東屋で景色と紅茶、会話を楽しむよめーずと、何故か戦っているソフィアとジェイドの姿があった。
なんで?
「あ、レオ様。お疲れ様です」
「ありがとう。なんで2人は戦ってるんだ?」
ジェイドの方は余裕な顔してるけど、ソフィアはあれガチの顔だぞ?
「同じ槍使いという事でソフィアの方からジェイド様に頼んでこうなりました」
「なんとなく察した」
自分を高めるために格上のジェイドに挑んでいるのだろう。
それはいいけど中庭じゃなくて訓練所とかでやるべきだと思う。
「大丈夫よ、あたしたちで結界を張ってるから被害は出ないわ」
「そういう問題でも無いと思うけど……まぁいいか」
数名居る使用人も何も言っていないので問題は無いのだろう。
夕食の時間までソフィアとジェイドの訓練を眺めながら紅茶を楽しんだ。
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