第172話 メッセンジャーレオ
「皇帝陛下、こちら我が王よりの返書となります」
「うむ……しかし本当に今日中に戻ってくるとはの……」
皇帝陛下は呆れたような驚いたような、不思議な表情を浮かべながら返書を受け取り封を開ける。
「うむ、向こうも乗り気のようだな。レオよ、済まないがもう一度行って貰えぬか?」
「かしこまりました。お任せ下さい」
「助かる」
皇帝陛下はすぐに返書を認め手渡してくる。
「近々実務者級の会談を行いたい旨と【思念共有】が出来る者を双方に配置しようという提案が書いてある。ではよろしく頼む」
「かしこまりました。では行って参ります」
【傲慢なる者の瞳】で出現ポイントを確認、転移する。
今回の出現ポイントは王城近くの裏路地だ。
一度自宅に転移して準備してとなると時間がかかる。
それに帰りも使用人を帰してからでないと戻れないので時間の無駄が多い。
なので風聞だとか、侮られるだとかは気にしない。
侮れるものなら侮ればいい。舐めた態度で来るなら高値買取だ。
堂々と入城して要件を伝え国王様の執務室まで案内してもらう。
この城内の移動も手間だ。なにせ広い。
しかも侵入者対策なのかやけにややこしい造りとなっているので1人で目的地までたどり着ける気がしない。
「ありがとう」
案内してくれた兵士に礼を言って別れ扉を叩く。
【思念共有】で城内を移動中にアンドレイさんに連絡しておいたのでスムーズに入室出来た。
「失礼します。皇帝陛下より返書を預かって参りました」
「早いね……」
早速受け取りに来たアンドレイさんに手渡しすぐに国王様の手へと渡る。
「どうぞ」
「うむ」
国王様はすぐに封を開け中を確認する。
「なるほどな、実務者級会議に【思念共有】か……ライノス公爵、【思念共有】の出来る者は居るかね?」
「数人ほどアテはあります。帝国へ出向させるのですね?」
「うむ。あと帝国からも派遣されてくるようだからその者が困らぬよう整えておいてくれ」
「委細承知しました」
「よろしい。ではすぐに返書を……」
白ヤギさんからお手紙着いた黒ヤギさんたら読まずに食べた……
何故かやぎさんゆうびんが頭の中で流れ始めた。
このお手紙はちゃんと読まれているのに何故だ……
「待たせたな、よろしく頼む」
「あ、かしこまりました」
頭の中で唄っている間に書き上がったようだ。
返書を受け取り再び転移で帝都へと戻る。
中身はさっきの手紙のご用事なぁに? では無いだろう。
帝都に到着、ここでも兵士に案内してもらい皇帝陛下の執務室へと訪れた。
「お待たせしました。こちら返書です」
「……だんだん口調も崩れてきたの。もっと砕けても良いのだぞ?」
「……失礼いたしました」
カカカと楽しそうに笑う皇帝に返書を手渡す。
「ふむ……なるほどの……レオよ、頼まれてくれぬか?」
「なんでしょう?」
もう一往復かな?
行くのはいいんだけど城の中歩くの飽きた……
「明日の昼食後にここへ来てくれ。【思念共有】が出来る者を用意しておくで教国へ連れて行って欲しい」
「なるほど、承ります」
「頼んだ。そうだ、これを受け取れ」
皇帝が秘書官に目配せすると、秘書官は俺に小さな袋を手渡してきた。
「これは?」
「今日の礼だの。レオのおかげでスムーズに話が進んだからの」
手のひらで弄ぶとチャリチャリと音がする。数枚の硬貨が入っているようだ。
「ありがとうございます」
「心ばかりだがの。ではあとはゆるりと過ごせ」
「はっ! では御前失礼致します」
執務室を出て自室へと歩いて戻る。もちろん案内してもらいながら。
「レオ様、おかえりなさいませ」
「お疲れ様レオ。どうだった?」
部屋に戻るとよめーずが勢揃いで俺を迎えてくれた。
イリアーナは不在、既に実家に戻っているらしい。
俺との結婚前に家族との時間を大切にしたいそうだ。
しかしジェイドは家族で教国に移住するつもりのようだし何時でも会えるだろうに……
まぁ会える会えないではなく娘を嫁に出す側とすれば大事なことなんだろう。
俺も将来そうなるかもしれないし。
「ただいま。教国と帝国を2往復してきたよ」
「2往復ですか……魔力の方は大丈夫ですか?」
「問題ないよ。使っても使った分すぐ回復するし」
昨日の模擬戦で体感的には7割ほど魔力を使ったがすぐに全快した。
魔王城に乗り込む前に暴食のスキルをコピーした時にも思ったが最早魔力切れの心配はしなくてもいいだろう。
「それよりこっちは何も無かった?」
まぁここは帝国帝城の貴賓室、何かあれば帝国の恥となるのであるわけが無いのだが……
「何もありませんでしたよ。こちらは女性ばかりですので男性使用人の方も近寄って来ませんし」
「警護の方も女性兵士の方ですので安心して過ごせますわ」
あ、またベラがですわになってる。
多分こっちが素なんだろうね。この環境にも慣れてきたってことかな?
「そっか、なら安心だね」
しばらく雑談していると、夕食が運ばれてきた。
全員で部屋に備え付けられている応接セットに座り夕食を摂る。
流石に6人だと手狭ではあるがまぁなんとかなる。
食事が終わると入浴だ。
流石は帝城貴賓室、浴槽も備え付けられており湯を貯めるための魔法の込められた道具も取り付けられている。
至れり尽くせりだ。
広さ的にはそこまででは無いが2人くらいならゆったり入れる位の広さはある。
「ではお先にお風呂いただきますわね」
「お先失礼します」
湯が溜まった頃、ベラとソフィアが浴室に行こうと立ち上がった。
なんで自室で入らずここで入るの?
「そういえばみんなの部屋ってどうなってるんだ?」
「急にどうしたの? この部屋と変わりないわよ?」
「いや、みんなずっとここに居るしなんか居心地でも悪いのかな? って」
俺がそう答えると、リンは何かを察したような顔をした後ニヤっと笑う。
「なるほど……そういうことね?」
「え? なにが?」
何を察したの? あととんでもなくいやらしい顔してるよ?
「言わなくてもわかってるわよ。それで……今日は誰と寝たいの?」
「んん!?」
なんの話しをしてるのかな!?
「確かにここに泊まり始めて2日、2日とも全員で寝たからシテ無いものね?」
「いやいやいやいや、決してそんなつもりで言ったんじゃないんだけど……」
「照れなくていいわよ? 夫婦じゃない」
「いや……あの……」
助けを求めるように周りを見てみる。
サーシャは少し顔を赤らめて俯いている。決して嫌がっている雰囲気では無い。
アンナはリンと同じようにニヤニヤしている。期待しているような雰囲気だ。
ソフィアは真っ直ぐにこちらを見つめている。少々目が潤んでいるようにも見えなくもない。
ベラは……顔を真っ赤にして両手で覆っている。初々しいな……
リンは言わずもがな。
「ふふ、じゃあ今夜は正妻であるサーシャちゃんに譲ろうかしら? みんなはあたしの部屋に行きましょう、今夜は語り明かすわよ!」
「そうですね。今夜はサーシャ様にお譲りします」
「たまにはいいッスね! メイドさんにお願いしたら何か持ってきてくれないッスかね?」
「アンナさん、あまり夜に食べると太りますわよ?」
4人はキャイキャイ話しながら部屋を出て行ってしまった。
……あれ?
気が付けば部屋にはサーシャと俺しか残っていなかった。
「と、とりあえず風呂入ろうか?」
「そ、そうですね……」
「お先にどうぞ」
ソファの背もたれにもたれ掛かりながら手のひらで浴室を示す。
「あ、あの!」
「ん?」
俺が先でいいのかな?
「あの……い、一緒に……」
「是非とも」
2人でゆっくり風呂に入り穏やかな夜を過ごした。
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