第171話 即日配送クリード便

 翌朝、朝食を食べ終えると皇帝陛下に呼び出されたので執務室へと向かう。


「これを教国国王に渡してくれ。レオであれば数日もあれば往復できよう?」

「可能です。ですが……もっと早く移動する手段があるのですが」

「もっと早く? そのようなことが可能なのかの?」

「はい。皇帝陛下の許可を頂けるならば」


 ウルトではなく転移を使えばそれこそ数秒あれば往復できる。


「ふむ、どのような方法なのだ?」

「はい。転移魔法を使用します」


 皇帝陛下は少しだけ首を傾ける。


「転移魔法とな? アレは目視可能範囲内に移動するのが精々だと聞いておるのだがの」

「普通はそうですね……」

「そうだったの、レオは普通では無いの」


 あっさりと納得されてしまった。

 まぁいい、その方が話が早い。


「一応聞いておこうかの、レオの転移魔法で移動できる人数と、例えばこの城の中に直接転移で入ることは可能なのかの?」

「そうですね……人数は10人ほどですね。この城の中には転移不可能です。簡易的でも魔法的防御が施されている場所には転移では侵入出来ません。逆に中から外へ転移で出ることは可能です」


 実際以前教国王城に転移しようとして失敗した。

 なんで失敗したのかを考えていると、リンが答えを教えてくれたのだ。


 まぁゴリ押しで無理やり破って侵入することも出来なくはないけどそれを言う必要は無いだろう。


「なるほどの。あいわかった、許可しよう」

「ありがとうございます」


 許可を受け、皇帝陛下から直に手渡され恐縮しながら受け取り部屋を後にする。


「という訳で一度教国に戻る。誰かついて来る?」

「いえ、この後イリアーナさんも来られるようですので私たちはこちらに」

「そっか、分かった。一応ウルトは置いていくからなにかあったらすぐに連絡してね」

「分かりました。お気を付けて」


 よめーずに見送られながら【傲慢なる者の瞳】を発動、自宅の庭に何も無いことを確認して転移魔法を発動した。


「旦那様!?」

「やぁ、ご苦労さま。悪いんだけど、陛下に大至急お伝えしないといけない案件があるから準備を手伝ってもらえる?」

「かしこまりました。先触れも走らせておきます!」

「助かるよ」


 最初に見つけた男性使用人を捕まえて仕事を頼み自室へと移動して身支度を整える。めんどくさい。

 この前少し怒られたので、この間にアンドレイさんに向けて【思念共有】を使いメッセージを送っておく。

 これで怒られずに済むだろう。これはめんどくない。


 それから馬車の準備が出来るのを待ってから出発した。


 何でも大貴族様がのほほんと徒歩で王城へ向かうのは外聞がよろしくないらしい。

 走ったり転移で王城前に行くのも止められているので仕方ない。

 本当にめんどくさい。


「準備が整いました」

「ああ、じゃあ行こうか」


 1人で行くのも侮られるとかなんとからしいので適当な使用人を連れて城へと入る。


「こちらへ」


 俺たちが通されたのは執務室、中には国王様とアンドレイさんが待っていた。


「待っていたよクリード侯爵。それで、緊急の案件とはなんだい?」


 扉が閉まると同時にアンドレイさんが尋ねて来たので懐から1通の書状を取りだし見せる。


「ルブム帝国皇帝からこちらを陛下にお渡しするようにと言われ預かりました」


 書状をアンドレイさんに手渡す。

 アンドレイさんは押された封蝋を確認してから国王様へと手渡した。


「拝見しよう」


 国王様は丁寧に封を開け中身を取り出し読み始める。


「なんだと!?」


 しばらく無言で目を通していた国王様だったが、驚くようなことが書いてあったようで椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。


「へ、陛下、一体何が?」

「帝国が……ルブム帝国皇帝が我らとの同盟を望んでおる……」

「なんですと!?」


 いきなり立ち上がった国王様に質問したアンドレイさんだったが、答えを聞いて同じように驚愕している。

 控えていた王太子や秘書官? のような人たちも目を見開いている。

 あ、王太子居たんだ……


「クリード侯爵! こ、これは真か!?」

「帝国が同盟を望んでいることは事実です」


 書状の内容までは知らんけど。


「レオくん!? キミは一体何をしてきたんだい!?」


 アンドレイさんはフラフラと俺に近付いてきてガシッと俺の両肩を掴んだ。


「何を! どうしたら! ほんの数日で帝国が同盟を望むようになるんだい!?」

「ちょ……やめ……」


 アンドレイさんは掴んだ肩を前後に揺すってくる。

 やめて……酔っちゃう……


「落ち着きなさいライノス公爵。簡単にまとめると、勇者レオ・クリードを気に入って友となった。帝国に誘ったが断られた。なので友の居る国とは仲良くしておきたい。以上だ」


 国王様の話を頷きながら聞いていたアンドレイさんだったが、話が終わるとギギギ……と擬音がつきそうな程ぎこちない動作でこちらに向き直った。こわい。


「全部、説明、してくれるね?」

「あ、はい」


 それから帝国で起こったことを全て包み隠さずに話した。


 まず、国境でミュラー伯爵と出会い共に帝都へ向かったこと。

 道中仲良くなったこと。

 帝都に到着してすぐに皇帝陛下に謁見したこと。

 そこでイリアーナと竜騎士ジェイドが親子だという事実を知ったこと。

 何故かジェイドと戦うことになったこと。

 勝ったらイリアーナを貰う約束をしたこと。

 何故か気に入られて敬語もやめろと言われたが流石に……となったこと。

 帝国に誘われたが断ったこと。

 ジェイドと戦い完勝したこと。

 イリアーナをゲットしたこと。

 そしたら何故かジェイドもついてくる気満々なこと。

 あと忘れてはならないのが、エルヴニエス王国がある事ないこと吹き込んで帝国を味方に付けようとしていること。

 全てを話した。


「お……おお……」

「濃い……な」


 国王様もアンドレイさんも言葉を失っている。

 秘書官らしき人たちも顔を見合せているし、王太子は呆然とたちつくしている。アレ意識あるの?


「しかし皇帝の誘いを断ってくれたか、嬉しく思う」


 国王様が真剣な顔で言ってくるけど、そりゃ断るでしょうよ。


「ここアルマン教国には恩義を感じていますが、帝国には何も無いので」


 簡単に靡いたら恩知らずになってしまう。


「レオくん……サラリといい事言ってるけど、恥ずかしながらそれを実行できる貴族は少ないと思うよ」

「そうなんですか?」

「ああ、残念なことに国力では帝国の方が遥かに上だ。それに、皇帝から直接誘われたのであれば待遇は保証される……正直靡く貴族は多いだろうね」

「そんなものですか……」

「そんなものだね。だからレオくんが断ってくれたことは私も嬉しい」

「まぁ……久里井戸家の家訓でもありますから」

「家訓? どんなものなんだい?」

「売られた喧嘩は高値買取、受けた恩は倍返し、ですね」


 小さい頃から父さんに言われて育ったけど、未だに高値買取の意味がわからない。

 あとは……女性は助けろ男は知らんだったかな?

 女性には格好つけろってのもあったな……うちの家訓って意味わかんないよね。


「良い家訓だね」

「そうですかね? よくわからないですけど」


 ちなみに俺が感じている受けた恩はほぼサーシャたちからだ。

 アンドレイさんたちライノス家に対しても多少は感じている。


 王家からは恩を受けたと感じていないので忠誠心は特に無い。


 家や結婚式の準備はしてもらったが、アレは俺たちを聖都に足止めしたお詫び扱いだ。プラマイで言うとまだマイナス。

 ただまぁこの国王様のことは嫌いでは無い。


「まぁ……話は分かった。返書を認めるから少しだけ待ってもらえるか? しかし王国か……警戒が必要だな……」

「分かりました」


 それから国王様の認めた返書を受け取り挨拶をしてから転移で帝都へと戻った。


 使用人を忘れてきたので【思念共有】を使ってちゃんと謝っておいた。

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