第174話 2人でお出かけ
【思念共有】の出来る人材を交換したことで俺は御役御免になるかと期待したが案外そうはならなかった。
どうしても書類でのやり取りというのは必要なようで、その都度俺が転移魔法を駆使して配達している。郵便屋かよ。
そのお陰か両国の擦り合わせは非常に早く進み、人材交換をして1週間程で実務者級会議が行われる運びとなった。
よめーずはジェイドを護衛にして帝都を観光したり俺の転移魔法で一度教国に戻ってみたりしている。
俺も一度一緒に観光に出たがやはり教国とはかなり違いがあって楽しかった。
おにぎり屋とかあったし、大量購入して【無限積載】に大量保存している。
しばらくは食べ放題である。
パン食でも文句は無いし特に食事にこだわりは無いつもりなのだが、米あるよ、おにぎりあるよと言われると食べたくなるのが人情だろう。
帝城で提供される料理も、最初は俺たち全員帝国外の人間ということで教国風の料理を提供してもらっていたが俺が帝国料理が食べたいと伝えると、喜んで用意してくれるようになった。
天ぷら、煮付け、漬物などが出る度にニコニコして食べている俺を見て興味を示したようで、最近はよめーずも結構帝国料理を食べて気に入っているようだ。
牛丼が出てきた時には思わず帝国に忠誠を誓いそうになったほどだ。
カツ丼が出てきた時には皇帝の誘いを断ったことを若干後悔した。
日本人は食で簡単に転びそうになる、1つ賢くなった。
そんなのんびりした生活を送りながら日々を過ごし、ようやく実務者級会議の当日となった。
普通数日前に前乗りするものじゃないのかと思うが俺の転移をアテにして当日の出発……
帝国側の参加者5名ほどを連れて教国へと転移する。
「ようこそルブム帝国の皆様。お待ちしておりました」
流石に使節団を引連れて裏路地に転移する訳にもいかないので教国側に前もって王城前のスペースを開けて貰っていたのだ。
使節団を見送り本日のお仕事は終了、今日はイリアーナが嫁入り前に色々揃えたいと言っていたのでお買い物だ。
「お待たせ」
「いえ……」
帝都に戻り【思念共有】で待ち合わせ場所を決めて合流したのだが、イリアーナはなんだか緊張している様子だ。
「どうしたの? なんだか緊張してない?」
「あの……その……はい……」
なんだろう? 誰かに監視でもされてるのか?
一応【気配察知】で周囲を確認するが変な気配は感じない。
なんでだろうと俺が首を傾げていると、イリアーナが理由を話始めた。
「えっと、勇者様と2人きりって初めてだなと思って……」
「あー……それで緊張してるの?」
「はいぃぃ……」
なにこれかわいい。
それにしても緊張しすぎじゃない? よめーずと居る時は緊張なんてしてなかったし、どちらかと言うと強気なタイプっぽかったけど……
「言っても無理かもだけど、緊張しなくていいよ? それと、婚約者になったんだから勇者様は辞めない?」
「じ、じゃあ……レオしゃま……」
噛んだ……
本当になんでこんなに……もはや別人みたいに見えるぞ?
「大丈夫? 買い物は後日にするか? それとも誰か呼ぼうか?」
ベラと話している姿は割とよく見かけるし、ベラを呼べば普段通りに戻るかな?
「い、いえ! だいじょ……大丈夫です!」
「そう? ならいいけど、無理はするなよ?」
本当に大丈夫かな……まぁ買い物とかしてればそのうち慣れるかな?
「あの!」
「ん?」
商業区に向かおうと振り返った俺にイリアーナが声を掛けてくる。
どした? やっぱり無理とか?
「手を……繋いでも……いいですか?」
……なにこのかわいいいきもの。
「手? ああ、うん。いいよ」
この世界では手を繋ぐより腕を組むイメージがあったけど……まぁイリアーナが繋ぎたいのならそうしよう。
左手を伸ばしてイリアーナの右手をとる。
「あ……」
イリアーナは顔を真っ赤にして俯く。
これ出掛けられるのかな?
「あの、もっと……こう……」
「こう?」
手をにぎにぎしながらもっと……と言うので指を絡めて所謂恋人繋ぎにしてみる。
するとイリアーナは小さく頷いたのでこれで正解なのだろう。
なんだか反応が初々し過ぎて俺まで緊張してきたな。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
おおぅ……破壊力が……
なんだかとても抱きしめたい衝動に駆られるが何とか堪えてイリアーナの手を引いて商業区へと歩いていく。
商業区に到着して、何件かの店を見て回っているうちにようやく緊張も解けてきたようだ。
「これ可愛い」
「イリアーナはこういうのが好きなのか? 似合うと思うよ」
ちょっと子供っぽいような気もするけど……まぁイリアーナの容姿からするとちょうどいい……のか?
でも確か今年20歳って言っていたよな、うーむ……
似合うならなんでもいいな!
「今、子供っぽいって思ったでしょ?」
「そんな事ないよ」
俺は紳士、女性を子供っぽいなんて思うはずがないのだ。
何着かの服や小物、アクセサリーなどを購入する。
荷物は全て【無限積載】に積んでおく。便利で助かるよ。
「そろそろ夕食時かな?」
「え? あ、もう暗くなり始めてる……」
イリアーナは太陽の位置を見て少ししょんぼりとする。
時間を忘れるほど楽しかったのだろうか?
「また来ればいいさ。それより夕食に行こうか」
「うん」
イリアーナは緊張が解けるに連れて敬語も使わなくなっていた。
話を聞いてみると、どうやら元々子爵家の次男の娘であるイリアーナは元々半分平民のようなものだった。
それがいきなり聖女となってしまったために必死で立ち振る舞いを覚えて頑張っていたそうだ。
だからこちらが本来のイリアーナの性格なのだそうだ。
俺としては過ごしやすいように過ごして貰えたらそれでいい。
「お、ここかな?」
しばらく歩いて目当ての店に到着する。
「ここ? 高いよ?」
「聞いてる。でも美味いんだろ?」
ここはこの帝都でも有数の高級店、数少ない寿司の食べられる店らしい(アンナ調べ)
客層はほぼ貴族、来店するには支払いが大銀貨数枚なることを覚悟しなければいけない店だ。
久しぶりの刺身や寿司に舌鼓を打つ。
昼は軽くしか食べていなかったのもあり結構食べてしまった。
支払いを金貨で済ませて店を出る。もう完全に落ちていた。
「じゃあ帰ろうか」
「うん、レオ様今日はありがとう」
「楽しんでもらえたなら何よりだよ」
そのままジェイドたちの待つアーヴィング邸まで送り届けると、ジェイドに少し寄っていけと誘われた。
そこでイリアーナの家族を紹介され30分ほど交流を深めてお暇する。
翌日からは嫁たちとデートしたり訓練に付き合ったり、たまに呼び出されてタクシーや郵便屋代わりに使われつつ1週間程過ごし遂に概ね合意、あとは国家元首同士が顔を合わせ調印するのみとなった。
本来こういうのはトップ同士が顔を合わせたりすることは無いらしいのだが、俺の転移で移動すれば安心安全ということで顔を合わせることになったらしい。
「あと3日か……」
「長かったですね」
「そうだな、イリアーナを返還して、迷宮攻略の許可を貰ったらすぐにでも攻略するつもりだったんだけどなぁ」
帝国に来て早2週間、まぁ同盟の話は元は俺が原因だし仕方ない。
途中でほっぽり出すわけにもいかないしね。
「調印式が終わったら迷宮攻略に向かうんでしょ? それまでにたっぷり英気を養っておきましょう」
「ソ、ソウダネ……」
こうして帝城での夜は更けていく――
調印式まではのんびり過ごせばいい。こんな生活でいいのかなと思わなくもないけど、今は身を委ねよう。
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