第169話 救国の英雄VS救世の英雄
開始の合図が闘技場内に響き渡る。
「行くぞ!」
合図と同時にジェイドが踏み込んでくる。
突きか? 薙ぎ払いか? それとも意表を突いて蹴りとか?
どんな攻撃が来ても捌けるよう腰を落として見定める。
――違う、この場に留まってはいけない。このままでは深刻なダメージを受ける!
直感か、それとも危険察知か、何かは分からないが何かが警鐘を鳴らしている。
それに従い地を蹴り横へと飛んで回避、何かが脇腹を掠めた気がした。
攻撃? 何らかのスキルか? しかし突っ込んでくるジェイドからそのような予備動作は見て取れなかった。
「ぬぅん!」
そこへジェイドの薙ぎ払い、剣を合わせて弾く。
そこから嵐のような突きの連撃が襲ってくる。
何とか捌きながら足を半歩前へ、これで剣が届く距離。
突き出された槍を躱しながらカウンターを放つがジェイドは一歩後退、槍の間合いに戻そうとするがそうはさせない。
こちらも一歩踏み出して距離を維持、踏み込みに合わせて剣を横薙ぎに振るうがこれは防がれた。
「フッ!」
先程のお返しとばかりに連撃を浴びせかけるがジェイドは全てを受け止め、躱し、受け流す。
最適かつ最速の剣を振るっているのにもかかわらずジェイドは全てに対応してくる。
力も速さも俺の方が上、技量だって負けてはいない。
しかし完璧に防がれる。これが経験の差か……
押し切れそうで押し切れない。
あまつさえカウンターを狙っている素振りまで見せてくるかりので気が抜けない。
一度引くか? 俺の中に一瞬迷いが生まれた瞬間に俺の感覚が再び何かを捉えた。
狙いは首筋……
「くっ!」
無理やり身体を捻って何とか回避、髪の毛が数本宙に舞う。
危ねぇ! ギリギリだった!
「おおおっ!!」
無理やり回避した事で俺の連撃が止まる。その隙にジェイドは守勢から攻勢へと移る。
俺の目でも全く同時に見える三連突き、2つを回避し1つを弾いて距離をとる。
最後の攻撃の瞬間にジェイドが纏う魔力がおおきくなったことからおそらく身体強化系のスキルを使用したのだろう。
開戦当初から身体強化系のスキルを使用していることは【魔力視】と【魔力感知】で分かっている。
それが一瞬で一気に膨れ上がったということはおそらく重ねがけ、聖槍の能力だろう。
聖剣と魔剣にも身体強化系の能力は付与されていた、聖槍にも同じ能力が付与されていると考えるのが妥当。
それとあの見えない刺突攻撃、あれもおそらく聖槍の能力だろう。
先程の攻防で俺はジェイドから目を逸らしてはいない。
それなのにジェイドの魔力の揺らぎも見えなかった。
自身のスキルを使用する場合、魔力が動く。
スキルとは、自身の魔力の流れをオートメーション化したもの。
だから【魔力視】を持つ俺には使用すれば魔力の流れが見えるはずなのだ。
それが無かったということは魔力を使わない純粋な技である可能性と、武器の能力だろう。
今回の場合は十中八九聖槍の能力と推察できる。
予備動作無しで攻撃を放っていたところを見るに、【見えない穂先を創り出して攻撃する】系統もしくは【因果逆転】系統だと思われる。
ただ【因果逆転】系なら回避出来ないはずなんだよなぁ……
「当たった」という結果を生み出してから攻撃するスキルなわけだから必中であるべきなんだよね。
ということは前者? でも見えない穂先を生み出す位の能力ならもっと多用してきそうなものだけど……
考えても仕方ない、一応感知は出来るみたいだし注意はしておこう。
「なんと……なんという戦いでしょうか!? 実況が私の仕事なのですが、私には何が起きたのか全てを見ることは出来ませんでした! 観戦されている皆様の中にあの攻防が見えた方は居るのでしょうか!?」
うるさいな……
少なくともソフィアとアンナには見えてると思うぞ?
あとネフェリム家の当主にも見えたと思う。対応出来るかどうかは別にしてね。
「……何故躱せた?」
いかんいかん、余計なことを考えていた、集中しないと。
「儂は2度、必中の攻撃を放ったはず。しかし2度ともレオ殿は躱してみせた……後学のためにもどうやって躱したのか知りたいのだが」
「必中攻撃? あの見えない攻撃ですか?」
「そうだ」
必中攻撃だったのか……それだけ自信を持って言い切るならやっぱ【因果逆転】系の能力だったのかな。
「なんか……ヤバい! って感じがしまして……直感に従って動いたら躱せたと言いますか……」
というかジェイド、必中攻撃を首筋目掛けて放って来たの?
殺す気だったの?
「ふむ……神器の能力での必中攻撃を勘で躱せるとは思えぬが……まぁ神器の能力よりレオ殿の方が強かっただけの話か……」
ホントなんで躱せたんだろうね?
あ、もしかして神器による必中攻撃は世界の理、その理から外れてる俺には効果が及ばないってことかな?
「それともう1つ、身体強化系、攻撃系、どちらのスキルも使わない理由は?」
「それは……」
「大方使えばすぐ終わると思っておるのだろうな……それでも構わん、是非レオ殿の本気の一撃を見せてくれ」
「ジェイドさん……分かりました。死なないでくださいね?」
次々にスキルを発動していく。
まずは身体能力全般をベースアップさせる【身体強化(神)】、そこから筋力を強化する【タイタン】と素早さを上昇させる【ヘルメス】を重ねる。
それらを制御する為の【知覚強化】と【五感強化】も全力全開で発動。
さらに強欲の剣に大量の魔力を流し込み【魔力撃(極)】と【闘気剣】を発動……
これはヤバイ……一撃で闘技場ごと真っ二つになる予感しかしない。
ここに【乾坤一擲】も重ねようかと思っていたけど絶対やっちゃダメなやつだ。
代わりに【不殺】を発動、残った魔力を使って観客席まで被害が及ばないように結界を張る。
それを見て察したのであろう、よめーずたちもそれぞれが使える結界魔法を使い俺の張った結界を補強、アンナがよめーずの前に立ちその盾を構えた。
「なんという圧迫感……これがレオ殿の本気……!」
ジェイドは冷や汗を大量に流しながら迎え撃つ構えを見せる。
本気で受ける気なの?
まぁ【不殺】も発動しているし、大丈夫……だよね?
【乾坤一擲】は封印するけどそれ以外は全力で、【瞬間加速】を使い踏み出した。
「うぉおおおお!!」
おそらくジェイドの目でも俺の動きは見えなかったはず。
それなのにジェイドは俺の剣が当たる寸前に剣と体の間に槍を滑り込ませてきた。
当然その程度で受け止め切れる訳もなく、目にも止まらぬ速度でジェイドは闘技場の壁に叩きつけられた。
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