第168話 決戦の舞台
ザワザワと観客席がうるさい。
俺は今、帝国の闘技場の真ん中に立っていた。
向かい合うのは帝国の誇る英雄ジェイド。見事な意匠の鎧を身に付け白く輝く聖槍を握っている。
ちなみに俺も相手が強者であることが分かりきっているので本気装備だ。
明けの明星を身にまとい腰には強欲の剣を吊るしている。
実際攻撃力の面で見れば聖剣や魔剣の方が強いのだが、扱いに慣れていない。
それに……この前ミュラー伯爵に見せた時に気付いたのだが、聖剣には【絶対切断】とかいう能力がある。
万が一にも聖槍を叩き斬る訳には行かないし使えない。
というかこんな能力があったのか……これ勇者が向かって来ていたらもしかしたらもしかしていたかもしれない……
そんなことよりどうしてこうなった?
昨日の話では城内の練兵所とか訓練所とかでって話じゃなかったっけ?
なんで万は収容出来そうな闘技場に立っているの?
「どうしたレオ殿? 疲れておるようだが……」
「ジェイドさん……俺たちなんでこんな場所で向かい合ってるんでしょうか……」
「説明を聞いていなかったのか?」
「聞いてましたけど……」
なにやら皇帝陛下が見学希望者を募ったらえげつない数の希望者が居たらしい。
なのでそれならせっかくだし闘技場でやろうかという話になったらしい。
せっかくってなんだよ。
ちなみによめーずはいくつかある貴賓室の1つで観戦している。
イリアーナもすごく自然にそこに参加している。いいことだ。
「しかし凄まじい鎧を着ているな……相対するだけで鳥肌が立ちそうだよ」
「どうも神代の時代の物らしいです。偶然手に入れる機会に恵まれまして」
「そう言うがレオ殿だからこそだろう。少なくとも儂にはその鎧は扱える気がしない」
やはり、この世界の人間には扱えないのだろうか?
ウルトやルシフェルもなんかそんなことを言っていたし……
ちなみにウルトの見立てでは、勇者や魔王と戦っていた時は性能の3割ほど、【
これで半分か……この鎧の力を完全に扱っていたルシフェルはどれほど強かったのだろうか?
『マスターならあと500年も修行すれば明けの明星の力を全て扱えるようになるはずです』
うるさい、イヤホンしてないからって【思念共有】で話しかけてくるな!
というかなんで心の声に反応してるんだよ……
しかも500年って……悪いけどそこまで生きる気は今のところ無いよ。
「む……余計に疲れさせてしまったか? すまない」
「いえ、ジェイドさんのせいじゃないんで気にしないでください……」
ジェイドには全く責任は無いからな。
さて……グダグダしていても変わらないし……やりますかね。
「ジェイドさん、そろそろ……」
「そうだな。胸を借りよう」
「そんな……俺も楽しみです」
篭手を外して握手を交わして同じタイミングでバックステップ。
距離およそ20メートル、いい間合いだ。
「レディースエーンドジェントルメン!!」
俺たちの会話が終わるのを見計らっていたかのようなタイミングで司会の男が喋り始めた。
「これより行われるはこの帝国闘技場始まって以来の強者同士の戦い! まず先に紹介するのは救世の英雄! 裏切りの勇者と魔王を屠った正に最強の戦士! レオ・クリード!!」
ドッと歓声が爆発する。
良かった……アイツ誰よ? みたいなシラケた空気にならなくてホント良かった……
「迎え撃つは帝国が誇る最強! 襲来した魔族を打ち破った救国の英雄! 竜騎士! ジェイド・アーヴィング!」
わぁぁと闘技場全体を揺るがすかのような歓声が響く。
アーヴィング? ああ、そういえば子爵の出だと言っていたな……
「なお、この試合は我らが皇帝陛下も御臨席されております!」
闘技場の最上階、最も格式高い席から皇帝陛下が現れ観客たちに手を振った。
「皇帝陛下、万歳! ルブム帝国、万歳!」
とどこからが聞こえてきて観客全員が唱和する。
すごい熱気だ。
こういう一体感には素直に圧倒される。
あの熱気の中心に【天翔閃】を撃ち込んでも弾かれるのではないかと思わせる熱狂ぶりだ。
いやまぁ実際放ったら大惨事間違いなしだから絶対やらないけど……
「皇帝陛下、ありがとうございました! それでは早速試合開始……と行きたいところですが、どうやら救世の英雄、レオ・クリード殿にはなにやら目的があるそうです! レオ・クリード殿、その目的とは!?」
え? なにそれ聞いてない……
言わないと始まらないやつ?
流れに乗るしかないのか? もういいや、どうにでもなぁれ!
「竜騎士ジェイド・アーヴィング! 私が……いや、俺が勝ったら貴方の娘、聖女イリアーナを貰い受ける!」
こうなりゃやけだ。
高らかに宣言し、強欲の剣を抜き放ち切っ先をジェイドへと向ける。
キャーキャーと黄色い声援が聞こえる。恥ずかしい……
「おーっと! 救世の英雄、レオ・クリードの要求はまさかの聖女!! これを受けて我らが英雄はどう答えるのか!?」
あ、これジェイドも何も聞いてないやつだわ。
司会の男から水を向けられたジェイドの目がめっちゃ泳いでるのがここからでもわかる。
「う……む。む、娘が欲しければ儂を倒してみよ! かかって来い若造!」
今日一番の歓声、これはヤバイね。
「う、受けて立ったーー!! これはまさに決闘! 漢と漢の一騎打ち! この戦いの見届け人は皇帝陛下以外に有り得ません! 皇帝陛下、いかがでしょうか!?」
再び皇帝陛下が姿を現す。
その瞬間、闘技場内は今までの熱気が嘘だったかのように水を打ったように静まり返った。
「ふむ……発言を許可する。この要求に対し異論のあるものは声を上げてそれを示せ!」
再び静寂が場を支配する。
誰一人として声を上げることは無い。
あれ? ネフェリム家は?
来てるんだよな? 何も言わなくていいのか?
「異論は無いと認める。それではその要求、余が、ゲオルグ・フォン・ラーデマッハー・ルブム17世の名において認めよう!」
何度目かの大歓声、今度こそ闘技場が揺れているのではないかと錯覚する。
「さぁ皇帝陛下もお認めになられたところで……お2人とも準備はよろしいですか!?」
俺とジェイドは無言で頷く。
「それでは――試合開始ィ!!」
ゴーンと銅鑼を鳴らす音が聞こえた――。
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