第143話 竜王

 部屋の中で待ち構えていたのは若い男だった。


 黒い革ジャンのような上着に黒いズボン、ブーツを履いた黒髪の男だ。


 革ジャンの下には何も着ておらず鍛え上げられた胸筋と腹筋が丸見えである。


 髪型もリーゼントでどことなく昭和の香りがする……


「黒髪……日本人?」


 この世界で黒髪は俺を含めて6人しか見たことがない。

 日本から召喚された勇者たちだ。


「まさかここまで来ることが出来るとは思わなかったぞ。やはり勇者と言えど人間、所詮は役立たずか」


 おお! 悪役っぽいセリフ!

 やはり外部音声が聞こえるようにしておいて正解だった!


 しかしこのセリフまるで自分は人間では無いような言い方だな、見た目は完全に人間、日本人なのだが魔族なのだろうか?

 あんなにもしょうゆ顔……日本人顔なのに?


「ウルト、俺の声を外に聞こえるように出来る?」

『もちろん可能です。どうぞ』


 これで会話が出来る。聞いてみようか。


「あんたは……日本人じゃないのか?」

「勇者どもと同じことを聞くのだな……そうだ、我は人間に非ず! 人間のような劣等種と同じにするな」


 ならなんで人間みたいな見た目してるんだよ。


「ふーん、人間じゃないなら手加減はいらないよな?」

「ほざけ、人間如きが我を傷付けることが出来るわけが無かろう?」

「人間じゃないならなによ?」

「我は【竜王】ハーデンワーデン、誇り高き竜人である! 人間よ、恐れ戦きひれ伏すがよい!」


 高らかに名乗りをあげる竜王、それだけで今までの四天将とは違うのが分かるな。

 2人は中々名乗らずだったし1人は名乗って即死亡だもんな。


 そういやあのアンデッドは【不死王】、さっき瞬殺したやつは【精霊王】と名乗ってたな。

 それでこれが【竜王】、ならガ……ガリ……ガレ……名無しのヘタレ人狼は何王だったのだろうか?


「【竜王】ね……大層な称号ですね……ところであの獣人は何王だったの?」

「獣人……? ああ、ガイアスのことか? 奴め、我が貸してやったフェイまで失いおってからに……」


 ブツブツと愚痴を呟く竜王さん。

 あのドラゴンはこいつの配下だったのか……なんかごめん。


「まぁよい、ガイアスが名乗っていたのは【獣王】だ。それがどうかしたのか?」


 あ、俺の質問には答えてくれるんですね?


「【獣王】か、【不死王】だったり【精霊王】だったり大層な称号の割に……ねぇ?」

「ふむ、確かに奴らが王を名乗るのは少し我もどうかとは思っておったが……人間、中々話が分かりそうなやつであるな」

「お褒めに預かり恐悦至極ってね。それで……やるのか?」


 中々話せそうな男だから戦わなくて済むのなら戦わないんだけど……


「当然だ。魔王様に仇なす者を屠ることこそ我が使命! 人間よ、かかってくるがいい!」


 ゴウっと室内に竜王の闘気が吹き荒れる。

 やる気満々のようだ。


「残念だ。ウルト、体当たり」

『オーケーマイマスター』


 やるとなったら徹底的に、ウルトに突撃を命じる。


「ぬ!」


 竜王は腰を落として拳を引く。

 ウルトの体当たりに合わせるようにその引き絞った拳を放ってくるが当然のように撥ね飛ばされる。


「ぐぉぉぉおおお!」


 ウルトの【衝撃反射】【衝撃力倍加】【一点集中】の効果でウルトの突進の威力と自分の攻撃力を合わせて返された竜王は凄まじい勢いで壁に激突、そのまま魔王城の壁を突破って外へと飛び出して行った。


「……あれ? 終わり?」

『いえ、まだ生きているようです。反応もそこまで弱っていません』


 マジか、アレを食らってそこまで弱ってないとか……

 本当に今まで戦った四天将とは格が違うみたいだな。


「今のは痛かった……中々効いたぞ」


 バサリと背中のコウモリのような翼をはためかせながら竜王が戻ってくる。

 ウルトの言った通りあまりダメージを受けた様子は無い。


 攻撃力は低めでその分防御力が高いタイプなのかな?


「打撃に対しての耐性のある我に対して打撃でここまでのダメージを与えるか……中々侮れん」


 打撃に対して耐性があるのか。

 なんでこういう悪役は自分の情報を簡単に話すのかね?


 しかしどうするか、打撃に耐性があるのなら斬撃なら通るのかな?

 なんかいいスキルも持ってそうだし……俺がやるか?


「これならどうだ? かぁぁあああ!」


 大きく口を開け紫電を纏った黒い炎のブレスを吐いてきた。

 人間形態でドラゴンブレスとか……ちょっとかっこいいな。


 しかしブレスというのは結局のところ魔力であるらしくウルトの【魔力霧散】の効果が発動して一切ダメージは通らない。


 ウルトには効果が無かったが威力は絶大、壁や床を盛大に破壊して土煙が部屋の中に充満している。


「ウルト、ちょっと出る。打撃耐性あるみたいだからちょっと斬ってみるよ」

『かしこまりました。お気を付けて』


 作業服と明けの明星を装備し直して強欲の剣を手に持ちウルトが開けてくれた扉から外に出る。


 竜王は……まだブレスを吐いた位置に留まってるな。


 竜王に対してどの属性が弱点になるのか分からないので無属性の魔力を剣に大量に流し込む。


 これだけの魔力を込めるならもはや威力は【天翔閃】とは比較できないだろうな……新しい技名考えないと。


 技名は落ち着いてから考えるとして全力で込めた魔力を全力で振り抜く。


 俺の放った剣閃は空気を、空間ごと斬り裂くかのような威力で竜王を真っ二つに斬り裂いた。


「……あら?」


 断末魔すら上げる間もなく絶命した竜王はそのまま落下、ベシャリと情けない音を立てて地に伏せた。


 《【竜魔法】を獲得》


「……あれ?」


 倒しちゃった?


 こういうのって「ふはは! こうなったら我の真の姿で相手をしよう!」とか言って真の姿、竜王の場合ドラゴン形態に変身するとかじゃないの?


 何だか不完全燃焼な気がしてならない。

 なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えながら俺はウルトの車内に戻ることにした。

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