第144話 最終決戦

 竜王を倒してウルトに乗り込むとリンは呆れたように、3人の聖女は信じられないものを見たような目で俺を見ていた。


「一撃だなんて……」


 誰かが呟く。

 俺もまさか一撃で終わるとは思ってもいなかった。


  しかし【竜魔法】ってなんだろう?

 ブレス吐いたりドラゴンモードに変身出来たりするのかな?


 落ち着いたら色々試してみよう。


「よし、先に進もうか」

『かしこまりました。間もなく魔王と思われる反応のある場所に到着します』


 竜王の守っていた部屋から先には魔族も魔物も居らずスムーズに進むことが出来た。


『マスター、この先に魔王が居ます』

「ここか……」


 ここが1つの終着点。

 本来の目的である魔王がここに居る。


「【聖浄化結界】の準備を頼む。リンは……もし万が一の時は聖女たちの護衛をよろしく」

「まぁ大丈夫だとは思うけど……任せて」


 リンが返事をしてサーシャたち3人も力強く頷いている。


「よし、行こうか」

『かしこまりました』


 ウルトが扉をぶち破り中へと侵入、遂に魔王と相見える。


 《ここまで辿り着いたか……》


 魔王と思われる黒いモヤのようなモノは玉座のうえを漂いながら脳内に響くような声で話しかけてきた。


 《勇者を従え聖女を捕え余の計画は完璧だと思っていたが……よもや貴様のような存在が居たとはな》


 それに関しては追放してくれた王国のお陰か?

 いや追放せずサーシャを伴って旅に出ていたらもしかしたら普通に討伐出来ていたかもしれないし……王国のお陰とは言いたくない。


 《だが余の計画のためにここで果てる訳にはいかぬ、勇者よ、覚悟するがいい》


 玉座の上を漂っていたモヤが1ヶ所に集まり6本の腕を持つ異形の姿へと変身した。


 身長はおよそ3メートル、顔が正面と左右計3つ存在していて6本の腕にはそれぞれ武器が握られている。


 ……阿修羅?


 《かかってくるがいい! 本物の絶望を教えてくれる!》


 魔王は6つの武器を構える。

 その構えに隙はなく飛び込めば確実な死が待っているということが簡単に想像出来てしまう。


「よし、【聖浄化結界】の展開よろしく」


 サーシャたち3人の聖女は両膝を着き手を胸の前で組み祈りを捧げる。


 3人の体がそれぞれ白く輝き始め徐々に光が広がっていく。

 美しい光景だ。


 《ぐっ……これは……》


 光がウルトを包み、魔王を包み、部屋を、城を包み込む。


 《ぐぅぅううう……》


 地に片膝を着き全ての武器を手放し必死で倒れないように耐えているように見える。


 これは3人同時発動だからなのだろうか?

 1人の【聖浄化結界】でもこうなるのだろうか?


 いや1人でもこうなるのなら【聖女の祈り】なんて聖女が命を擲つスキルは不要になるはず、ならやはり3人の聖女が揃って同時に発動しているからこうなっていると見るべきだな。


『突撃しますか?』

「いや……」


 ウルトで轢き殺しても構わない。

 それどころかそれが一番リスクも無い正解なのだろう。


 しかしなんというか……そうじゃない感とでもいうのかなにか違う気がしてならない。


 やはり俺の手で終わらせるべきなのだろうか?

 それも違う気がする。俺1人の力でここまで来れた訳では無いのだから。


「決めた。降りて俺がとどめを刺す。もし俺が危なくなったら全力で助けてくれ」

『かしこまりました。マスターの安全は私が保障します』


「クリード……」


 ウルトから降りようとする俺の背中にリンの声が掛けられた。


「どしたの?」

「気を付けて……それと、終わらせてきて」

「任せろ」


 ポンとリンの頭を一撫でしてウルトから降りる。手に持つは【強欲の剣】。


 《ぬ……くそぅ……》


 魔王は必死に立ち上がろうとしているが立ち上がれないようだ。

 これなら安全に倒せるかな?


 なんか卑怯な気がして多少気が引けなくもないけど……

 これも世界のため、俺のため、そのくらいの蟠りは気にしない方向で行こう。


「さて魔王様、なにか言い残すことがあれば聞いておきますが?」

 《ぬぅぅ……貴様はこの状態でとどめを刺すことに抵抗は無いのか!?》


 参ったな、ド正論じゃねーか……


「ないと言えば嘘になる。だけど俺は気にしない!」

 《外道め! せめて……せめて戦え!》

「お断りだ!」


 言い切って剣に魔力を流し込む。

 魔王って言うくらいだし闇属性とかそんなんだろ? なので先程手に入れた聖属性の魔力を大量に流し込む。


 今更だけど「聖」属性の「魔」力って矛盾してるような気もしなくもないよね。

 今気にすることじゃないけどふと気になってしまった。


 《くそ……せめて正々堂々と戦う勇者であれば……》

「あ、俺追放されたんでそういうのはちょっと……勇者の職業も手に入れはしたけどあくまで副業だしね」

 《副業!?》


 こいつノリいいな。


「まぁそういうことだから……悪いけど諦めてもらえる?」


 使う技はここに来るまでに決めておいた。

 というより思いついてからはこれしかないと思えた。


 自分の中で限界と思えるほどの魔力を込めた剣にさらに魔力を込める。

 体にも魔力を流し【身体強化(極)】も発動。


「さよなら魔王さん。【乾坤一擲】」


 ほぼ全ての魔力を使い切るケイトの大技。

 この強欲の剣だって元はケイトの剣なのだ。


 ケイトの技で、ケイトの剣で魔王を討つ。

 これはもうケイトが魔王を倒したと言っても過言ではないだろう。


 《光あるところに闇はある! 貴様らに永遠の安寧などぉぉぉおおおおお!!》


 あ……ごめん……セリフの途中でしたね……


 膨大な量の聖属性魔力に焼かれ魔王は灰になっていく。

 言葉は発しないが凄まじく恨みがましい目で最後まで俺を見つめていた。

 ごめんって……


《職業【魔王】を獲得、副業に設定します》

《職業【勇者】【魔王】を獲得したため称号【理外ことわりはずれ】を獲得》

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