第131話 絶対物理防御

 9階層へ続く階段を下りながらリンに【思考共有】で話しかける。

 リンは俺のイメージを受け取ることは出来たがそれに対しての返事は出来ないようだ、やはり一方通行か。


 ちょっと想像とは違ったけどまぁ便利スキルには変わりない。

 あとはどれくらいの距離で使えるかだな。


 今からソイソスに居るであろうディムたちや教国に居るソフィアやアンナに送ってみてもいいけど届いたかどうかの確認も取れないしな……ソフィアたちにタブレットを預けてくれば良かった。


 一応「魔王領で迷宮発見、攻略なう。クリードより」と送っておこう。

 これで戻った時に確認すればある程度の共有可能距離もわかるだろう。


 さて、考えるのはこの辺にしておいて9階層の魔物に集中しよう。

 ちょうど到着したし。


『ジャイアントグレートメタルスコーピオン、スキルは【要塞】と【毒攻撃】を持っています』

「【要塞】?たしかに要塞みたいにデカくて硬そうだけど」


 ウルトの通常サイズより少し大きいしなんかメタリックカラーだし……


 金属っぽいよな、あれ刃通るのか?


『外殻は魔鉄のようです』


 魔鉄か、ミスリルの剣なら斬れるか?

 ミスリルの剣より硬度も切れ味も上な強欲の剣ならイケそうか。


「【毒攻撃】はいらないけど【要塞】は気になるな。ウルト、足と尻尾破壊できるか?」

『もちろんです。お任せ下さい』

「よし、なら頼む」


 なんか統合進化しそうだし……


 ウルトは蠍に向かって進む。蠍もその大きな鋏を振り上げて迎撃体制をとる。


 走るウルトに蠍が鋏を振り下ろして来るが回避しない。

 鋏がウルトに触れた瞬間、爆散した。


【衝撃反射】【衝撃力倍加】【一点集中】の合わせ技、ウルトの絶対物理防御。

 攻撃した相手の方が一方的に致命的なダメージを受けるイカつい技だ。


 そのまま突き進み向かって右側の足も全てウルトは砕いていく。


 右後ろ足を砕いたところで蠍の毒針が降ってくる。

 当然これも真正面から受けて衝撃を反射、根元から蠍の尻尾は砕けて落ちた。


「えげつない……これウルトに勝てる存在っていると思う? 物理攻撃はカウンター、魔法攻撃は【魔力霧散】で無効化、勝てると思う?」

「ウルトに勝てる存在なんて居ないと信じたいわね……」


 ウルトと戦うことになった場合どうやって戦うかをリンと相談してみるがどうやっても勝ち目は見えない。


『確実に私に勝てると断言出来る存在はマスターのみです』

「いや、無理だろ。どう考えてもお前には勝てない」


 何を言い出すのだろうか、俺がウルトに勝てるわけが無いだろうに。


『私はマスターに絶対服従です。マスターが一言負けを認めろと仰ったならその時点でマスターの勝利です』

「いやそういう話じゃ……」

『そもそも私はマスターを傷付けることが出来ません。なので少なくともマスターの負けは有り得ません』

「そうなんだ……」


 もう何を言っても無駄っぽい。


「ウルトがクリードに勝てない……勝たないのは分かったけど他には勝てるの? 勇者とか魔王とか……」

『私は……』


 珍しく言葉を一度切ってから話し始める。


『私はマスターが望むのであれば勇者だろうが魔王だろうが轢き殺し世界すら積み込んで見せましょう』


 こいつ何言ってるの? なんか今までで一番ドヤってる気がするよ?

 それに「世界を手中に収めて見せます」じゃなくて「積み込んで見せます」なんだ。何のために積み込むの?


「ふふ、心強いじゃない。ならウルトを扱えるクリードが最強ね」

『当然です。我がマスターこそ最強で最高です』

「もうやめて……」


 くすぐったいから……


『さて、マスターの指示通り全ての足と尻尾の破壊が完了しました』


 話しているうちに蠍は全ての足と尻尾をもがれひっくり返され腹を天井に向けている。

 あとは俺がトドメを刺すだけか。


「じゃあ行ってくる」


 転移魔法を発動、車内から蠍の腹の上に転移する。


「手っ取り早いのはやっぱこれかな」


【魔力撃(極)】と【合成魔法】で炎と風の魔力を剣に流し込んで【闘気剣】でコーティング、思い切り蠍の腹に突き刺した。


「ギィィィィイイ!!」と苦悶の声を上げ途中から砕かれた足をバタバタとさせる蠍から振り落とされないように気を付けて魔法剣を発動、蠍の体内を焼いていく。


 魔法剣の効果が終わり引き抜くがまだ蠍は死んでいない。

 もう少し頭に近い場所へ移動してもう一度技を繰り出す。


 蠍は一度大きく跳ねてそれから動かなくなった。


 《【要塞+1】を獲得》


 ふむ……+1……まぁ……うん。

 脳内スキル獲得アナウンスを確認して転移魔法で車内に戻る。


「お疲れ様。転移も完璧ね」

「ありがと。レベルが上がったからじゃないかな? リンももう使えると思うよ」

「そうかもしれないわね、ちょっとやってみるわ」


 言い終わると同時にリンの姿が消える。

【気配察知(極)】を発動してリンの気配を探ると蠍の死体の目の前に居た。


 再び姿が掻き消え今度は助手席ドアの前に出現、そのまま助手席ドアを開けて乗り込んできた。


「あたしにも出来たわね、けどウルトの中には転移出来なかったわ」

『【魔力霧散】が常時発動していますのでマスター以外には不可能だと思われます』

「ん? なんで俺には可能なんだ?」


 たしかに外から中に転移出来たけど……


『私の能力はマスターには効果が及びません。なので【魔力霧散】の、効果を受けず転移することが可能です』


 よく分からないけどウルトがそう言うならそうなんだろう。

 こいつに関しては深くは考えない。


「でもならなんで中から外へはあたしでも転移出来たの?」

『【魔力霧散】は外からの影響を遮断するために使っています。なので中で発動した魔法に対しては問題ありません』

「ふーん……」


 リンも理解することを諦めたように返事をする。それでいいよ、突っ込んでも疲れるだけだよ。


『転移魔法陣と階段が現れました。進みます』


 こいつ遂に確認じゃなくて断言したな。

 まぁ進むつもりしかないから問題は無い。


 俺たちはおそらくこの迷宮の最下層、10階層へと進んで行く。

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