第132話 傲慢なる者
《すごい、すごいね! まさかここまでこれる人間が居るとは思わなかったよ!》
10階層に降りた俺たちを迎えたのはほかの迷宮と姿形は変わらない悪魔。
いきなり襲いかかってくるかと思ったがマンモンと同じように頭に直接響く声で話しかけてきた。
《ここでの戦いは全部見てたよ! 降りてきてよ!》
地の底から響いてくるような声だが口調はなんとも幼い。
リンと顔を見合せてから俺たちはウルトから降りて悪魔と対面した。
《はじめまして人間! 僕は傲慢を司る大悪魔ルシフェルだ!》
ルシフェル……別名ルシファー、七つの大罪でも特に有名な悪魔……堕天使か。
「はじめましてルシフェル。俺はレオ・クリード、別の世界から勇者として召喚された者だ。こっちはリン・ヒメカワ、俺の仲間で異世界人の血を引く大魔道士だ」
自分とリンの紹介をして軽く頭を下げる。隣でリンも同じように会釈している。
《へぇ? 人間如きが僕を呼び捨てにするのかい?》
ルシフェルから凄まじい殺気が放たれた。
思わず腰の強欲の剣の柄に手をかける。隣のリンも杖を握る手に力が入っているのが気配で分かる。
ウルトもおそらくルシフェルが動いた瞬間に俺たちの盾になるよういつでも動ける状態に違いないだろう。
《あはは! 冗談だよ! そっちのレオくんだっけ? キミからは同族の匂いもするしそんな事しないよ!》
同族の匂い? これのことか?
腰の剣と左腕の腕輪をちらっと見る。
《うんうん、その剣からは【強欲】の、左腕からは【憤怒】と【色欲】の匂いがするね ! 人の身で3つも迷宮を攻略するなんて凄いじゃないか!》
「あ……うん、褒められて……るのか?」
本気なのか冗談なのか分かりづらいな……
それにこの声でその喋り方はちょっとギャップがアレすぎる……
《褒めてるよ。誇るといい、迷宮がこの世に生まれておよそ1000年、攻略したのはキミたちが初めてさ!》
「1000年……そんなに……」
リンは1000年と聞いて目を見開いている。
「1000年攻略されていないってことは……攻略させるつもりは無いのか?」
前にも少し考えた。どう考えても人間が攻略できる難易度では無いと。
リバークのサイクロプス、グリエルの超巨大ムカテ、教国のドラゴンゾンビ、そしてここの超巨大蠍……
ウルトが居たから勝てたけどウルトが居なければ絶対に勝てなかった。
《ふふ、神はね、そんなつもりじゃ無かったんだよ?》
「そんなつもりじゃ無かった?」
ルシフェルは知ってるのか?
いや確かルシフェルは神に背いたことで堕天した元最高位天使……
《レオくんは何かに気付いたのかな? 言ってみてよ!》
ルシフェルは愉しそうに聞いてくる。
「ルシフェル……神の意に背いて堕天した元最高位天使……さっき言っていた神はそんなつもりじゃなかったという言葉と併せれば、神の創った迷宮を書き換えた……?」
俺の考察を聞いてルシフェルは嬉しそうに頷いている。
《大! 正! 解! そうだよ、僕が書き換えた! 元々レベル60から70くらいの人間が5、6人で組んで挑めば攻略できる難易度だったんだ! 迷宮の目的は肉体、精神、そして魂の修練場! それがたったレベル60や70で攻略出来るなんて簡単すぎるじゃないか!》
まるで舞台役者のように大きな身振りでなにかを表現している。
《だから僕は書き換えた! 迷宮の中で死んでも入口前で生き返る? そんなのつまらないッ! 人間は一度死ねばそこで終わり! だからこそ美しいッ!!》
「死んでも……生き返る?」
迷宮内に限った話なのだろうが期待してしまう。
《そうさ、神の創りし迷宮では死んでも蘇る……そんなもので人間の心が魂が鍛えられるとでも? 否! 断じて否であるッ!!》
ルシフェルの語りは更に熱を帯びてくる。
《だから、だから僕は書き換えた! 肉体を! 精神を ! 魂を昇華させ更なる力を得ることが出来るように!》
ルシフェルは両手を広げて静止する。
え? なに?
《だけどそれを神は許さなかった。僕の書き換えのせいで迷宮の管理者たちは自我を失い本来の役割を忘れてしまったそうだ》
一転して静かに語り始める。
《だから僕はここに居る。ここまで辿り着ける強者を1000年待っていた》
ルシフェルは俺たちから視線を外してウルトを見つめる。
《例え神器の……僕の大嫌いなガブリエルの力に頼っていたとしても僕はキミたちを心から賞賛する》
「ガブリエル?」
なんで唐突にそんな大天使の名前が出るんだ?
《気付いてないだろうけとそのトラックにはガブリエルが宿ってるんだよ》
「え?」
トラックに大天使ガブリエルが? ちょっと意味わかんない。
《ガブリエルは神の声を届ける【導きの天使】、まぁ本来導きの聖女に寄り添ってるハズなんだけどなんで神器に宿ってるんだろうね?》
こっちが聞きたいんだけど……
《もういいんじゃない? 出てきたら?》
ルシフェルがウルトに声をかけるとウルトは少し近付いてきた。
フロントエンブレムの辺りが薄らと光だしてそこから真っ白な光の玉が現れ天使の形へと変わっていく。
呆然と見ていると、まるで芸術作品から飛び出してきたような美貌をもつ白き衣を纏った天使が舞い降りた。
《やぁガブリエル、久しぶりだね》
『堕天使風情が……軽々しく私の名を呼ぶな』
彫刻のような美しい顔を歪ませてガブリエルはルシフェルを睨みつけていた。
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