第126話 舌戦

 大鷲のような魔物の背中に着地、一際大きな気配のする方向へと視線を向ける。


 そこには大きなドラゴンが居てその背中に何者かが騎乗しているのが見える。


 視線が交わる。


 足場にしていた大鷲のような魔物の心臓に剣を突き刺して落下、ドラゴンの真下に向けて跳躍。落下しながら【天翔閃】を放つ。


 首を落としての墜落を狙ったのだがドラゴンはほぼ真下からの攻撃を空中で踊るようにして回避、お返しとばかりに炎のブレスを吐いてくる。


 ブレスを【天駆(上)】を使って回避、地面にまで降りるとドラゴンも俺を追うように地面に降りてきた。


「ここまでの強者が居るとは思わなかった。名乗ることを許そう」


 どうやってドラゴンを倒すか考えていると向こうから話しかけてきた。

 こういうのはドラゴンを倒してからだと思っていたので多少面食らう。


「レオ・クリード。オリハルコンランクの冒険者だ」


 勇者とは名乗らない。名乗りたくない。

 アレと一緒にされたくない。


「最高位の冒険者か? 面白い。貴様も我らの軍門に下らぬか?」

「お断りだ」


 誰が下るかよ。勇者と一緒にするな。


「ふふ……よいのか? 貴様らの希望である勇者は既に魔王様に頭を垂れたぞ?」

「だからなに? やるなら相手してやるからかかって来いよ」


 ダメだ、だんだんイライラしてきた……

 ドラゴンに乗ったまま姿も見せずにイキってんじゃねーよ。


「残念だ。では死ぬがいい」

「グオオオオオオオオ!!」


 会話は終わりだと言わんばかりにドラゴンが咆哮する。


 そういえば咆哮する敵って久しぶりだな。

 今まで咆哮を上げた敵はいたけどほぼ全てウルトの中に居たから聞こえなかったんだよな。


 ドラゴンは俺に向けて突進、その大きな口を開けて噛み付いてくる。

 だけど遅い。余裕を持って回避してその首に一撃叩き込もうとした瞬間に俺の【直感強化(特)】と【気配察知(極)】が追撃を察知、飛び退いて回避する。


「今の攻撃を避けるか、面白い」


 追撃を放ってきたのは狼男。

 手には巨大な戦斧を携えておりあの戦斧での攻撃だったのだろう。


 リバーク迷宮で見たワーウルフに似ているがそれだけだ。

 纏っている空気は全く違う。


「へぇ、そんなツラしてたんだな。ドラゴンの影に隠れてたから弱そうなやつかと思ってたけど中々強そうじゃん」

「貴様……!」


 戦斧を持つ手に力が篭もるのが見える。

 これもしかして無意識に【挑発】使っちゃったかな?


「名も名乗らない、姿も見せない、ヘタレだと思ったけど外見は……あ、もしかして外見それで内心ビビってるとか?」


 今度は意識的に【挑発】を使用してみる。

 ぐんぐんと人狼の怒りメーターが上昇していくのが手に取るようにわかる。


 しかし【挑発】は声に魔力が乗ってるな……


 模擬戦の時にアンナが「ヘイヘーイビビってるんスかぁ?」とか言ってたのってもしかして【挑発】使ってたのかな?

 なんとなく可愛いなぁとしか思わなかったから使ってたとしても効果は無かったんだけど……


 って今は関係無いな……今はこのヘタレ名無しの人狼に集中しないとな……


 観察してみるとブチ切れてるのがよく分かる。こいつ煽り耐性無いな。


 ドラゴンにも効果があったのか雄叫びを上げながら襲いかかってくるが全て回避、ヘタレ名無しの人狼からの追撃も簡単に受け流して【魔力撃(極)】を発動。


 かつてマンモンとの修行でケイトと共に編み出した【魔神剣】を超える魔力を一瞬で剣に流し込んで隙だらけのドラゴンの首に叩き込んだ。


 振り下ろした刃はなんの抵抗もなくドラゴンの首を切断、血飛沫を上げながら竜の首が宙を舞う。


 ふと思い付いたので【無限積載】を使用、宙を舞う首ごとドラゴンの死体を積み込む。


「うおおお!?」


 騎乗していたドラゴンが消えるとどうなるか?

 俺の目の前に無様に落下してきたヘタレ名無しの人狼が答えだ。


『マスター、こちら殲滅完了しました。応援は必要ですか?』


 タイミングよくウルトからの報告が入った。

 後はこいつだけか……


「必要無い。増援が無いとも限らないし警戒しておいてくれ」

『かしこまりました』


 さて……ヘタレ名無しの人狼を見るとあまりに驚きすぎたのかようやく立ち上がったところだった。

 俺がその気なら立ち上がる前に首刎ねてたぞ?


「貴様! 何をした!? 吾輩のフェイをどこにやった!」


 フェイ ? あのドラゴンのこと?


「ドラゴンなら首落として死体は貰っといてやったよ。ドラゴンの死体に捨てるとこ無しって言うだろ?」


 俺が読んできたラノベやネット小説ではそうだった。

 本当にそうなのかは知らないけどまぁ別にどうでもいい。


「許さん! 許さんぞ貴様!」

「どうでもいいけどさ、そろそろ名乗れば? 俺の中でヘタレ名無しの人狼さんのまま死にたいならいいけど」


【挑発】を使いながら薄ら笑いを浮かべてみる。

 自分がやられたら最高に腹が立つこと間違いない。


「ヘタレ……名無し……だと……!?」

「そうだろ? ドラゴンの影に隠れて名乗りもしない……ヘタレ名無しの人狼さん以外に名前あるのか?」


 ヘタレ名無しの人狼さんはプルプル震えている。

 そろそろ限界かな?


「吾輩の名はガイアスだ! 魔王様直属四天将ガイアスだ!」

「はいはいガイアスさんね? なんで2回言ったの? そんな大事なことなの?」

「ぎざまぁぁぁあああ!!」

「レオ・クリードだよ? もう忘れちゃったの?」

「殺す! コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスぅぅぅうううう!!」


 戦斧を振り上げ飛び掛ってくる。

 確かに早いし力強い。


 けど、俺の方が早いよ。


【瞬間加速】を使って一歩で加速、ガイアスが斧を振り下ろす前に両腕ごと首を叩き斬った。


 《【斧術(特)】を獲得。【テイム(極)】を獲得》


【斧術(特)】に【テイム(極)】か……使い道は無さそうだな……


「ウルト、終わったから迎え頼む」

『かしこまりました。すぐに向かいます』


 ウルトが迎えに来る前にとスマホを取り出してガイアスの持っていた戦斧を鑑定してみる。



 ◇◆


 獣人族に伝わる伝説の戦斧。


【破壊力上昇(大)】【装備時筋力上昇(大)】の効果。


 ◇◆


「ふむ……」


 流石に神器なわけは無いか……

 それより気になるのが獣人族という言葉だ。


 こいつは二足歩行のでかい狼って感じだったけどアニメとかに出てくる猫耳少女とかも居るのかな?

 まぁ居たとしても襲ってきたら斬るし襲ってこないなら放置だけど……


『マスター、お待たせしました』

「おう、ありがとう」


 どうでもいいことを考えている間に迎えが来たので思考を中断。

 ガイアスの死体と戦斧を【無限積載】に突っ込んでウルトに乗り込んだ。


 さぁ凱旋だな。

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