第127話 辺境伯

「これは……」


 俺とウルトが街に戻ると大歓声に迎えられそのまま領主屋敷に通された。

 もちろん戻った時にリンとも合流したので一緒に招待されている。


「魔王直属四天将と名乗っていましたね。おそらく魔王軍の幹部で間違いないでしょう」

「ふむ、四天将か……ということはあと3体はこれと同じような魔族が存在するのかの……」


 今この場にいるのは俺とリン、それにギルドマスターのカートさんと領主様の4人だ。


 カートさんは四天将に興味津々だが領主様はガイアスの首より戦斧の方が気になっているようだ。


「クリードくん、いやクリード殿、この戦斧は……」

「この魔族、ガイアスが使っていた戦斧ですね。鑑定の結果は【破壊力上昇(大)】と【装備時筋力上昇(大)】の効果が付与されていました」

「なんと……」


 領主様……マルクス・ソイソス辺境伯はキラキラした目で戦斧を見つめている。

 欲しいのかな?


「辺境伯、いけませんぞ」

「わかっているさギルドマスター殿。見るくらいいいだろう?」


 辺境伯はギルドマスターに窘められながらもじっと戦斧を見つめている。


 この人はまだ20代半ばで数年前に急逝した先代の跡を継いだばかりらしい。


 貴族と言うより武人、軍人という方がしっくりくる肉体のイケメンマッチョだ。


 確かにこの人がこの戦斧を持てば似合うだろうけど……さすがにタダで献上するのはなぁ……


「く、クリード殿は斧術の心得はおありで……?」

「え、ええ、まぁ一応は……」


 さっき【斧術(特)】獲得しましたし……

 え? 無かったら寄越せってこと?


「そうですか、さすがオリハルコンランク冒険者は違いますなぁ」


 いや、単純な興味っぽいな……この人から悪意とかそういう悪い感情一切感じない。


「ちなみに辺境伯様は斧術の心得は?」

「クリード殿、辺境伯様なんて辞めて頂きたい。マルクスと呼んで頂ければ」

「いや、さすがに……」


 どうしたらいいんだよ……


「辺境伯、若者を困らせるものではありませんぞ」

「しかしギルドマスター殿、私とクリード殿ではほとんど変わらぬと思うのだが……いや、うむ、そうだな……」


 カートさんの目に呆れの色が混じり始めると辺境伯は襟を正した。


「では……改めてクリード殿、我が領地を救ってくれたこと真感謝に絶えん。ついてはその報酬を受け取って欲しい」


 辺境伯は執務机に備え付けられているベルを手に取り鳴らす。

 すぐに執事がお盆に皮袋を2つ載せて入室してくる。


「白金貨50枚用意した。貴殿の功績に釣り合いが取れぬかもしれないが受け取って欲しい」


 辺境伯は執事から皮袋を受け取り差し出してくるがどうもと簡単に受け取れる金額では無い。


「どうした? これでは足らぬか? すまぬがこれ以上となると……」

「いえいえ! 逆です! 多すぎます!」

「そうか?」


 そうだよ。

 白金貨10〜20枚くらいかな? と思ってたら倍以上だよ。


「しかし此度の防衛戦最大の殊勲者はクリード殿、貴殿であることは誰の目から見ても明らかだ。その貴殿が報酬が多すぎると言えばほかの者はどうなる?」


 むぅ……その言い方はずるい……


「クリード受け取りなさい。それが礼儀よ」

「分かったよ……辺境伯様、ありがたく頂戴いたします」


 差し出された皮袋を受け取る。さすがに白金貨50枚はずしりとくるな……


「では続けてリン殿、そなたの魔法真に見事であった。ほかの魔法使いたちが魔力枯渇に喘ぐ中この街を守りきれたのは紛れもなくリン殿の功績である。よって報酬として白金貨5枚を支払うものとする」

「ありがとうございます」


 リンは粛々と報酬を受け取る。

 やはり大貴族の娘だからかこういうのに慣れてるよな……


「さて、堅苦しいのは終わりだな。クリード殿はこれからどうなされるのか?」


 貴族然とした振る舞いを辞めて先程までの雰囲気に戻る辺境伯の問にどう答えるか。


「俺たちは……勇者たちを殺します」


 少し迷ったが正直に答えることにする。

 つい先日この国の王にあれだけ啖呵をきったのだ、遅かれ早かれ辺境伯であるこの人の耳に入ることは間違いないのだから誤魔化す意味は皆無だろう。


「勇者たちを……理由を伺っても?」


 カートさんは勇者と聞いて渋い顔になっている。

 勇者……どれだけ嫌われてるんだ?


「そうですね。まず俺が王国に召喚された勇者の1人であることは?」

「立場上知っているとも」


 当然と頷く辺境伯。カートさんも頷いてるけど……紹介状にでも書いてたのかね?


「では俺が王国から勇者と認められず追放されたことも知っていますよね?」


 無言で頷いて続きを促してくる。


「そこでアルマン教国の聖女と出会いまして共に冒険者となりました。それから冒険者として活動して仲間も増えて……一度アルマン教国へと戻った際に勇者の襲撃を受けました」

「勇者の……襲撃?」


 辺境伯は意味がわからないと言った顔で尋ねてくる。

 カートさんも声には出さないが同じ気持ちのように感じられる。


「聖女の誘拐。勇者たちは人間を裏切って魔王に下っています。俺たちは実際に勇者の口から聞いていますし、先程この魔族からも聞きました」

「なんと……」


 2人は信じられないと言った表情を浮かべている。


「勇者が……のう……」

「これは前代未聞では……この事は陛下は?」

「知っています。というより俺たちが伝えました」

「それで陛下はなんと?」

「有り得ない、戯言だと」


 今でも思い出すとイラッとくるな……

 勇者の手綱を握れなかった癖に何を偉そうに……


「そうか……しかし事実なのだろう? それに聖女の誘拐……」

「おそらく狙いは新たな勇者を召喚させないことでしょうね。王国、教国の聖女は確実に、勇者の話によると既に帝国の聖女も攫われているかと」


 俺が話すと辺境伯は頭を抱えた。


「それじゃあ……もう……」

「辺境伯様、ご安心ください。そのためにあたしたちが居るのですから」


 これまで黙っていたリンが会話に入ってくる。


「あたしのフルネームはリン・ヒメカワ。かつて勇者と共に魔王を打ち破ったマナブ・ヒメカワの血を引くものです。先日大魔導士として覚醒し家宝の神器にも認められました。あたしとここに居るクリード、それに魔王領のどこかに囚われている聖女と共に魔王を討ちます」


 リンは強い覚悟を持って言い切る。

 正直俺としては勇者たちをこの手で殺して3人の聖女を救出できれば満足ではあるのだけど裏切った勇者と同郷の俺が責任を取らないといけないとも思っている。


 王国か帝国の聖女に新たな勇者を召喚させて残った聖女と俺で倒してもいいとも考えている。


 ただサーシャがそれは許してくれないだろうから勇者を殺したその流れで魔王討伐も行うことになるだろう。


 勝算はある。

 3人の聖女で【聖浄化結界】を張ってもらえば楽勝じゃないかと思っている。


「そうか……ならば協力は惜しまない。なにか必要なものがあれば何でも言って欲しい」

「うむ、冒険者ギルドとしてもバックアップはしよう。辺境伯と違って出来ることは限られるかもしれんがの……」

「ありがとうございます。しかし取り急ぎ必要なものは特に……」


 仲間も要らないし物資も揃ってるからなぁ……


「分かった。何かあれば気軽に言ってくれ」


 その後は辺境伯とギルドマスターとの間で話し合いがあるそうなのでお暇することにした。


 お疲れ様でした。

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