第121話 大侵攻
「ごめんリン、我慢出来なかった……」
城から出て街の外へ向けて移動しながら謝罪する。
我慢していたリンを尻目にキレ散らかしたのだからしっかりと謝らないと……
「やっちゃったものは仕方ないわよ。教国に戻ったら陛下方に謝罪する必要はあるけどアレだけ侮辱されたなら仕方ないわ」
さらに「あたしも結構我慢してたし」とリンは付け加えた。
しかしリンが一緒に来てくれていて助かった。
俺1人なら暴れていたかもしれない……
「それでどうする? 王都で1泊していく?」
「いや……進もう。リバークの近くで夜を明かして朝一でリバークに入りたい」
「ディムたちね……」
今回の……ケイトの件をディムたちに伝えない訳にはいかないからだ。
なんとか閉門時間に間に合い王都の外へ、急いでウルトに乗り込んでリバークを目指す。
途中、街からほど近い場所でウルトを停めて一泊する。
「クリード、ほら、こっち来なさい」
「あ、はい」
《【魔力感知】を獲得》
翌朝一番に門を潜りリバークの街へ。
まずはギルドに行ってディムたちがどうしてるのかを調べないとな……
ギルドに向けて歩きながら街の様子を見るが以前よりなんだかどんよりとした空気というか……なにかしらの問題が発生しているような雰囲気だった。
「なんだろうこの空気」
「なんだかジメジメしてると言うか……気になるわね。早く冒険者ギルドへ行って確かめてみましょう」
俺たちは少しだけ歩く足を早めて冒険者ギルドへと急いだ。
冒険者ギルドに到着して扉を開くと中は閑散としていた。
受付に歩みを進めると受付嬢は俺たちの首元の冒険者証に気付いたのか立ち上がって迎えてくれた。
「あの……もしかして自由の翼の……?」
「そうだ。自由の翼リーダーのクリードだ。ギルドマスターに取り次ぎ願いたい」
「分かりました! どうぞこちらへ!」
ギルドマスターに確認を取るでもなくそのまま奥へと案内される。
俺とリンは一度顔を見合せてから受付嬢に着いて奥へと向かった。
受付嬢がギルドマスターの執務室をノック、中から「入れ」と声が掛かったのを確認して扉を開いた。
「ん……?まさか……クリードか!?」
俺の顔を見たギルドマスター、ガレットは立ち上がり驚きの表情で俺たちを迎えてくれた。
応接セットに案内されて受付嬢が紅茶を配膳してくれる。
全員に紅茶が行き渡ってから俺は口を開いた。
「それで……なんだか街の雰囲気が重いみたいだけど何かあったのか?」
「ああ……お前たちは教国に行っていたんだから知らなくても無理は無いか……実は魔王領から大量の魔族と魔物が攻めてきている」
言いづらそうにガレットは口を開いた。
「魔王領から?」
「そうだ。今はソイソスでなんとか抑えてはいるが時間の問題だろう。ソイソスが抜かれたら間違いなくここにも攻めてくるだろう」
なるほど、それで街の雰囲気が……
「それにしてもクリード、何か雰囲気変わったか? それに他の仲間は……」
「ガレットさん、それよりもディムたちに会いたいんだが」
ギルドマスターの言葉を遮って要件を伝える。あまり触れられたくは無い。
「クリード……」
話を変えようとした俺の膝にリンの手が載せられた。
まぁ……ガレットさんには話しておいた方がいいか……
「実は……」
教国で起こった出来事を伝えるとガレットさんは沈痛な面持ちで黙って話を最後まで聞いてくれた。
「そうか……仲間を、ケイトを失ったのならその変わりようも理解出来る。すまない」
言いづらいことを聞いたとガレットさんは深く頭を下げた。
「だから俺は勇者を殺すよ。その足で魔王も叩き潰すつもり」
「それは……わかった、自信はあるんだな?」
深く聞いては来ない。
ガレットさんのこういうところは好きだな。
「自信か……まぁ迷宮の大悪魔にも勝てたしなんとかなると思う」
グリエルで苦戦した大悪魔だったが教国の迷宮では楽勝だった。
俺もウルトも強くなっているのは間違いない。
「分かった、それならば俺からは何も言わない。勇者にはこっちも辟易していたからな……」
聞けば王都から旅をしてきた勇者一行は自分たちで準備を整えるわけでも情報を集めるわけでもなくただ数日ダラダラして出発して行ったそうだ。
準備や情報収集などは全て勇者一行に随行していた従者が行っていたと……
「それは……なんとも……」
「だから勇者が魔王に負けただとか寝返っただとか言われても……そうなんだくらいにしか思えない」
ガレットさんも勇者には呆れ果てていたらしい。
「それでガレットさん……俺たちはディムたちにその事を伝えないといけないんだ。ディムたちはどこに?」
「ディムたち……というかここの冒険者の大半はソイソスに行っている。今やあそこが王国の最重要防衛拠点だからな……他の街からも騎士や兵士、冒険者が集まってなんとか守っているのが現状だ」
「ソイソス……」
そんな危険な所に……いやこの現状ならどこに居ても同じか。
「分かった、それなら俺たちもソイソスに向かうよ」
「そうか、行ってくれるか……お前たちが行ってくれるのなら安心出来そうだな」
ガレットさんは疲れたように笑う。
状況が状況だし心労も溜まりきっているのだろう。
「それでソイソスの場所は?」
「この街から東北東に歩いて数日の距離だな。街道も整備されているから街道沿いに行けば迷う心配も無いだろう」
街道沿いに進んで徒歩数日か、すぐ着くな。
「分かった、なら俺たちは行くけど……一緒に連れて行って欲しい人とか持って行って欲しい荷物とかはあるか?」
「いや、つい先日送り出したばかりだから今のところは何も無いな」
「了解した、なら行ってくる」
「ちょっとだけ待ってくれ、すぐに紹介状を用意する」
ガレットさんとの別れを済ませて街を出る。
「ディムたち無事だといいけど……」
「こんなことになるなら鎧や兜なんかも渡しておけば良かったな……」
体裁を整えて剣や盾だけを安く売ったことを少しだけ後悔してしまう。
「今考えても仕方ないでしょう、今は急ぎましょ」
「そうだな」
俺たちはウルトに乗り込んでソイソスへと向かった。
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