第6章……復讐の勇者編

第120話 謁見

 ソフィアたちと別れを済ませて俺たちは王国領へと向かう。


 最初の目的地は王都、まずは勇者の裏切りを把握しているのかどうかの確認だ。


 本当は一度帝国にも赴くべきかと思ったのだがあまり時間もかけたくは無い。


 出来れば今日中に王国国王に謁見したいところだけど流石に無理だろうなぁ……


 いや、昨日教会で回収してきた「アレ」を使えば可能かもしれない。


「クリード、何考えてるの?」


 リンが顔を覗き込んできた。そんなに長考していただろうか?


「あぁ、謁見までどれくらいかかるかと思ってさ」

「そういうことね……ちゃんと正式な親書も書いて貰ってきたからかなり早く謁見出来るとは思うわよ」


 リンが懐から3通の封書を取り出して俺に見せてくる。

 1つは結構見なれたライノス家の封蝋が押されている。

 もう1つは教会の、最後の1つは……


「アルマン王家?」

「そうよ。エルヴニエス王国国王陛下に謁見を願うんだもの。使える手札は全部使わないといつまで待たされるか分からないわよ?」


 それはその通りだと思う。

 リンとは別に手札は用意してるけど……出来れば謁見の場で出してやりたいからあまり使いたくは無いな。


 リンと他愛のない雑談をしながら数時間、早くも関所が見えてきた。

 関所が開く時間に到着するように出発していたのでちょうどいいタイミングで到着したようだ。


 普段なら大人しく並ぶのだが今回は急ぎの旅という事でオリハルコンランクの特権を使って並んでいる人たちを抜かして最優先で関所を通過、関所を越えてから再びウルトに乗り込み王都に向けて最短ルートで走っていく。


「やっぱりウルト速くなってるよな」

「そうね、これもクリードの力かしら?」

「どうだろうね、まぁ速いに越したことはないよ」


 道無き道を凄まじい速度で走り16時頃までに到着すればいいなと思っていたのに14時には王都に到着してしまった。


 ここでもオリハルコンランク特権を活用してスムーズに王都に入る。

 そのまま脇目も振らず王城を目指して進んでいく。


「緊急事態につき早急に陛下に謁見がしたい。私はオリハルコンランク冒険者でありここエルヴニエス王国に召喚された勇者の1人です」


 封書と冒険者証を衛兵に見せて謁見の申し込みをする。


「印璽も冒険者証も本物のようですね……緊急事態とは?」

「勇者の裏切りです」


 俺が答えると衛兵2人は青い顔になる。


「それは……真ですか!?」


 頷いて返すと衛兵はさらに慌てる。


「すみません……上の者をお呼びしますので少々お待ちを……」


 しばらく待っていると駆け込んで行った衛兵に連れられて中年の文官風の男が走り寄ってきた。


「失礼、詳しくお話を伺いたいのだが……」


 文官風の男は大きく肩で息をしながら顔の汗を拭っている。

 余程急いで来たんだろうな。


「先程衛兵さんにも説明しましたが、勇者パーティが裏切りました。それについて陛下に報告をしたいので謁見をお願いします」

「うむ……証拠……はこの封蝋を見れば明らかか」


 俺の持っている3通の封書に目をやり納得しているようだ。


「分かった。大至急陛下にご報告申し上げる。申し訳無いが城内で少々お待ちいただいても?」


 これなら今日中に謁見が叶いそうだ。


「構いません」

「ではこちらへ……」


 男に案内され応接室のような部屋に通された。


「準備が整い次第お呼びする。では」


 男は扉を閉めるやいなや走り出しどこかへ行ってしまった。


「こんなに早くことが進むとは……」

「当然と言えば当然ね。それだけこの印璽には力があるって事よ」


 アルマン教国国王からの使者と言うだけで下にも置かれない対応を受けられるのにそこに教会の印まで加わると……


 ライノス家のは要らなかったんじゃ?


「それならなんでライノス家のも?」

「これは話の真実味ね。ライノス公爵家は娘、サーシャちゃんを攫われた当事者だから」


 それは分かるけど……そういうものか。


「それにオリハルコンランクとクリードの立場も大きいわね。王国唯一のオリハルコンランク冒険者で召喚された勇者……下手をすればこの親書が無くても通れたかもしれないわね」


 自分の冒険者証を指で弄ぶ。

 やっぱりこれって効果絶大なんだな……なれて良かった。


「謁見の準備が整いました。こちらへ」


 しばらく待っていると騎士が呼びに来た。

 案内に従って大きな扉の前に立つ。


「クリード、謁見の場ではあたしの真似をしてね」

「俺はマナーとか知らないからね。了解」


 扉が開かれ謁見の間へと入室する。

 リンと並んで歩いてある程度の距離で立ち止まり膝を着く。


「面を上げよ」


 声がかかったので顔を上げる。

 すると目に入ったのは鍛え上げられた肉体の国王陛下、お世辞にも鍛え上げられたとは言えない小太り気味な宰相だった。


 なんだか懐かしいな……


「して、火急の要件とは」


 一瞬俺の顔を見て目を見開いた宰相が口を開く。


「はっ! 召喚された勇者が裏切りました。アルマン教国にて聖女サーシャを拉致、そのまま逃走致しました。詳しくはこちらを……」


 俺が懐から3通の封書を取り出すと使用人がそれを受け取り陛下に手渡した。


「ふむ、拝見する」


 そう言って封を開けしばらく文書を読む。


「ふむ……貴国は我が国が召喚した勇者が裏切ったと申すか……」


 文書を宰相に手渡し宰相も目を通す。


「下らぬ。勇者が魔王に敗北するなど有り得んわ。魔王討伐に関われなかったからとはいえこのような言いがかりをつけるとは……」


 国王は「はぁぁ」……と大きくため息を吐いた。


「下がれ。このような戯言に付き合う時間なぞないわ」


 まるで犬を追い払うかのように手を振る国王。


 リンは悔しそうに唇を噛み締めているが何も言う気配は無い。

 なら……もう我慢の限界だ。

 コイツらが俺を追放しなければ。

 コイツらが教国……サーシャを受け入れていればこうはならなかったかもしれない。


 俺は無言で立ち上がって【アイテムボックス】を開く。


「なにを!」


 どこか見覚えのある大柄な騎士が腰の剣に手をかけながら怒鳴りつけてくるが無視して【アイテムボックス】に放り込んでいた物を王と宰相の前に放り投げる。


「剣聖の首だ。見覚えあるだろう?」

「なっ……!?」


 王と宰相は目を見開く。


「その親書にも書いてあったと思うけど……これを見てもまだ戯言だとか言うのか?」

「貴様! 無礼な!」


 先程怒鳴っていた騎士が剣を抜く。

 へぇ……


 騎士を睨みつけてありったけの殺気を放つ。

 なんならこの王城ごと破壊してやってもいいんだぞ?


「ぐっ……」


 騎士は脂汗を流すが構えは解かない。


「別にどうでもいいさ。アンタらが知らないなら教えてやろうと思って来ただけだし……」


 ダメだ、止まらない……


「これ以上巫山戯たこと吐かすようなら――」

「クリード!」


 リンに腕を掴まれた。

 リンの顔を見ると顔を横に振っている……やり過ぎたか。


 俺が殺気を収めるとこの場にいた王国の人間は皆あからさまにほっとしたような表情を浮かべた。


「あとはどうぞご勝手に……俺の邪魔だけはしないでくれ」


 それだけ言い残して俺たちは謁見の間を後にした、

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